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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第九章:闇に芽吹く信頼

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◆第194話:懐かしい焚火、過去と今◆

書庫らしき場所に、なおも留まるルゼリアとライナ。

棚は半分ほど空になり、背表紙の埃が指の腹に薄くついていた。

静けさの中に、紙の擦れる音だけが残る。


「……リア姉……お腹空いたよ~」


長い時を待っていたとばかりに、ライナは腹を押さえて訴えた。

胸の中で我慢を糸のように撚ってきたが、もう限界だ――という顔。

腹の鳴き虫を抑えるのに必死だった。


「え? あ……もうそんな時間ですか……」


ルゼリアの腹もぐうぅぅ~~と答えるように鳴る。

言われて初めて、自分の空腹にも意識が向き、ルゼリアは小さく苦笑した。


「依頼にあった研究資料に関わる本は、だいぶ回収できましたね……」

《次元重層収納式ミディア・アーカイヴ》に最後の本を収める。

収め終えた指先が、ようやく緩む。


「ごはんにしよ!!」


ライナが元気よく宣言した。

声が高く天井に跳ね、二人の肩の力が抜ける。


ライナは落ちていた瓦礫を拾い、時には魔斧で砕き、円形に並べて”かまど”にしていく。

ルゼリアは携行していた鍋に水と野菜、ほぐした干し肉を落とし、塩と香辛料をひとつまみ入れ準備を進めた。


かまどを造り終えたライナは、書庫に合った椅子と机を割って薪にしていた。

火種は落ちていた紙片を丸めて、ルゼリアが火打ちを鳴らし小さな火を灯す。

金網を敷き、鍋を置くと煮込みを開始した。


ライナは串に刺した干魚を鍋の横に並べ、火が強くなりすぎないように適度に回転させ、表面の油を確かめる。

野営での調理はかつての旅で習得してしていた。手つきは手慣れたものであった。


「まだかな~、まだかな……」


地べたに座り、肩を左右に揺らしながら、焼けていく干魚を見守るライナ。

尻尾が少し反ったら返し時――そんな勘が身に染みている。


ルゼリアは味見しながら、さらに塩と胡椒を少し足す。

鍋の中を回すと、次第に香りがふわりと立って鼻先をくすぐった。


「もうすぐですから、辛抱してください」


ルゼリアは薪の山を動かし、火加減を落としながら、微笑んでなだめる。

火のパチパチに混じって、部屋のスキマの風鳴りが低く響いた。


「こうしていると懐かしいね……」


焚火をじっと見つめるライナがぽつりと漏らす。

炎の色は、過去の夜と同じ色だ。


「……そうですね。そういった時期もありましたね」


ルゼリアも視線を落とす。

「あの時は憎悪に押されるがままに旅をしてましたが、今は違いますね」


スープを二つの木器に注ぎ、一つをライナへ渡す。

湯気が頬に当たり、凍えた感覚が解けていく。


「ありがと、リア姉♪」

受け取ると、代わりに串焼きの魚をルゼリアへ手渡した。


「うん、おいしい! 旅してた頃よりずっとおいしいよリア姉!」

スープを啜りながら、ライナの目がとろりとして和む。


舌に落ちた塩気と、肉から出た出汁の甘み。

その素朴さ、暖かな食事、今は何より贅沢だった。


「この串焼きもほどよい焼き具合でおいしいですよ、以前はあんなに焦がしていたのに」

ルゼリアはくすりと笑い、魚の身を口に運ぶ。


一口齧ると、焼けた皮がパリッ!と音を立て、香ばしさが弾ける。

香りが口に広がり、風味が増す。


「これが成長なのかな?」

焚火の向こうで、ライナが首を傾げる。


「かもしれませんね……」

ルゼリアはライナを見て、しみじみと答えた。


二人は同じ炎を見ながら、過去を思い、今を噛みしめた。

あの頃は憎悪、焦燥、懸念が渦巻く、ヴァルザを討伐するという名の旅であった。

旅路の歩み方、食事、手入れ、人との関わり、そのすべてはセディオスが教えてくれた。

その学びが今日の遺跡探索に繋がっている。


炎はパチッと弾け、薄い灰が舞い上がってから、そっと落ちた。

静かに食事を進める二人、焚き火の音だけが神秘的に響く。


腹の鳴りが少し収まり、余裕が出てきたライナ。

ひとつ思い当たることがあった。


「セディオスは……リゼルと一緒なのかな?」

魚をかじりながら、ライナが遠くを気遣う。


「無事であること祈るしかありませんね。幸い魔力封じがあるので、無茶な出力は魔核が先に悲鳴を上げます」

ルゼリアはスープを一口。温度と言葉で自分たちを落ち着かせる。


短い静寂。

焦げ目の香り、石の冷たさ、遠い水音。


「食べ終えたら、今日はここで仮眠をとりましょう」

「うん。そうだね。それにしても今は何時なのかな? お腹的には夜なんだよね……」

「一面壁ですからね……勘に頼るしかないですね」


探索を始めて大分時間が経過している。腹具合から見て、夜であると推測できた。

炎雷姉妹の一日目が、静かに、しかし確かに終わろうとしていた。

焚火が小さく爆ぜ、天井の影がまた揺れた。


次回は、『2月22日(日)13時ごろ』の投稿となります。

引き続きよろしくお願いします。


本日もお付き合いいただきありがとうございました!

引き続き、評価・ブックマーク・感想で応援いただけると励みになります!


*キャラクター設定集を作り始めました。

https://ncode.syosetu.com/n0327lj/

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