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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第九章:闇に芽吹く信頼

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◆第193話:協力と言う名の契約◆

ザシュ、ドゴッ! ――回廊に戦闘音が反響する。

回廊を進むと天井が開き、襲撃が起きる。

襲い来るものは察せる。壁の紋様が脈打つたび、天井の継ぎ目がわずかに鳴った。


リゼルは杖剣を振るい、セディオスは魔剣を抜く。蜘蛛型術具が切り裂かれ、殴打され、十数体がぴたりと動きを止めた。

魔法を使わずとも手練れの二人、接近戦でも十分だった。


術具の裂けた殻の内部を覗き込むリゼル。

「へえ~、こうなっているんですね……決められた命令に従っているだけですか……」

外殻の裂け目に手を入れ、バキッと割り、構成をじっくり見ていた。


「お前は魔導術具にも詳しいのか?」

セディオスが目を細める。


まるで子供のようだと思っていた。

ただ、目配せや思案する時の手の動きは大人びいており、男性の所作のようにも感じていた。


「わたくしが“黒騎士”を作ったのを、お忘れですか?」

嘲る口調で答える。


「……そうだったな。あれも似たようなものだったな」

セディオスは睨みを返す。


霊泉郷セイリョウの温泉宿の襲撃をありありと思い出す。

エクリナと黒騎士の戦い、皆と協力した迫りくる神の兵たちとの攻防。

その日から、リゼルとの因縁が始まったのだから、忘れるわけがなかった。


「良い出来でしたよ! 素体の神兵があったとはいえ、あそこまで強化できたのですから」

玩具を自慢するようにリゼルは語る。


「だが“生きて”いたんだろう? そういうのを弄るのは、気に入らんな!」

セディオスは言葉を強め、はっきりと反論する。


「ただの人形、造りものです。本当の命ではありません」

セディオスが少し怒りを出したのは分かったが、何故怒っているかは理解できなかった。


(意味が分かりませんね、たかが雑兵。しかも神の兵ですよ? 人間とはそんなことまで気にするのですかね?)

頬に指をトントンと当て、脳内で考察するリゼル。


二人の価値観は、全く触れ合わない。


(こいつは根本が違う……エクリナたちはわかっていたことなのに)


セディオスは、エクリナらと出会ったころの旅を思い出す。

皆、人属への関心は薄かったが、それでも生物としての考えは持っていた。

リゼルにはそれすら無いと気づかされた。


倫理観の話題は諦めるセディオス。

「もういい。――進むぞ」


踵を切るセディオスをみて――

「ふ~~ん、そうですか」

リゼルは肩をすくめ、後に続いた。

考え方についてもう少し話したかったが、諦めた。



無言のまま、新たな扉に行き当たる。

「……入るしかないな」

セディオスが扉を押し開ける。


「ごほ、ごほ……埃っぽいですね」

咳き込むリゼル。


「何も知らんのだな。これを口に当てろ」

セディオスは予備のスカーフを差し出す。

自分は外套を口元まで引き上げていた。


「なるほど……ごほっ」

素直に受け取り、スカーフを手早く結び口にあてる。


「工房の跡、か」

セディオスは壁に整備用の工具が立ち並ぶ姿を見て判断する。

ティセラやガンゴの工房でよく見た光景であった。


「魔導術具の製作台――部品も残っています」

リゼルは台の方を見やっていた。

造りかけの術具、見慣れない型だった。


「少し探索しましょう」

リゼルは壁の本棚へ向かう。背表紙を指先でなぞり、引き抜く。


「……まあ、いいだろう」

セディオスも依頼を思い出し、室内の探索に加わる。



やがて、リゼルは目ぼしい資料を見つけて読みふけった。

椅子に腰掛け、片膝を立て、頬杖をついてページをめくる。

幼さの残る顔立ちに似合わぬ、落ち着いた所作。

時折低く落ちる声が、喉の奥で少年じみて響いた。


ヴァルザを真似て身に付けた所作は――年齢不相応な“完成度”を帯びていた。


(……少年か)


横目で観察しながら別冊を繰るセディオス。

中性的な顔立ちに性別を迷っていたが、所作が決め手になった。


「……面白い。いただきましょう」

リゼルは低く呟き、持っていた本を魔導収納鞄へ滑り込ませた。


隣へ歩み寄るセディオス。

「お前は何が目的でここにいる」


いぶかしむ視線を向けるセディオス。

リゼルは顔を向けると金の瞳が、セディオスの茶色い瞳と合う。


「さぁぁて。言うと思いますかぁ?」


リゼルは一段と怪しい笑みを浮かべ、嘲るように答える。

その目つきは、かつてのヴァルザを思わせた。

感情が見えない眼に、セディオスはわずかな寒気を覚えていた。


「そうですね……ならば、互いに見つけたものは、不干渉でどうですか?」


リゼルが提案をしてきた。

今は慣れ合う必要も、助け合う必要もない協定。

条件追加とばかりに、見つけた者に拾得の権利があると告げていた。


リゼルを見つめ、思案するセディオス。

依頼は”研究資料の回収”。

もし――リゼルが同じ目的であったならば、厄介になると算段する。


微動だにせず、こちらを見つめてくる剣士を見つめ返すリゼル。


「ふふ~ん♪ ど~しますか?」

ニタニタしながら、弄ぶように選択を迫っていた。


ここで断れば確実に協定は破綻する。

戦闘で手を抜き、いずれは敵対するのが見えている。

今は脱出が最優先、ルゼリアとライナに合流できれば形勢は変わる。

それに賭けるしかないとセディオスは結論を出す。


「……分かった。互いの戦利品には不干渉。だが脱出までは背中を預ける――それが条件だ」

提案を飲み、代価として明確な協力をセディオスは求めた。


「ええ、もちろんです。“協力”しましょうね♪」

リゼルは口角を上げ、ニタリと嗤う。


(玩具から、犬に認識を変えてあげましょう)

都合のいい要求に素直に従うセディオスを見て、内心喜んでいた。

(犬には、”まだ”利用価値がありますからね。尻尾を振ってもらいましょうかね)


怪しげな美貌で微笑むリゼル。

子供らしく可愛らしいが、心の内が全く読めなかった。

セディオスは、悪魔の契約書に名を刻む心持ちで――


「ああ……頼むぞ」

と短く頷いた。


その後、二手に分かれて朽ちた工房内を探索する。

棚の本だけではなく、隠し扉、地下通路なども見落としなく捜索する。


扉は変わらず、二つしかなかった。

元の道へは戻れない。今日は野営することにし、明日、次なる場所を目指すこととした。

懐疑と打算で繋がれた二人——探索はまだまだ続く。

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