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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第九章:闇に芽吹く信頼

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◆第189話:遺跡都市エル・クラウゼ◆

自動馬車に揺られること丸一日。

外の景色は目まぐるしく過ぎ、三人はどうにか仮眠を取れた程度だった。

やがて自動馬車が速度を落とし、プシュ――と鳴り停止した。


ガチャン!と客車扉の鍵が外れる音。

「「「ううう……」」」


扉を開けて地面に降り立つ三人の顔は、見事に青い。


「やっと……着いたぁ~」

「ここまで地面が恋しくなるとは思いませんでした……」

「はぁ……到着早々、もう疲れたな」


セディオス・ルゼリア・ライナが客車から離れると、自動馬車は扉を閉じた。

「ピー、ピー……ココデ、オマチシテ、オリマス……」

円筒型の頭を向け、短く告げた。


「「「……」」」


「そりゃ、帰りも乗るよな……はあ~勘弁だぜ」

セディオスはため息をつく。


「……僕、帰りは歩きでもいいよ……置いていこうよぉ」

ライナはもう嫌だとばかりにセディオスに懇願する。


「馬車の放置は後で問題になりそうですね。誠に遺憾ですが我慢しましょう」

ルゼリアは先を見据えて諦めた。


「まずは現在値の確認だ……ここは――」

セディオスは思考を切り替えて依頼に専念することにした。

帰りの自動馬車は――仕方なく乗ることで腹をくくった。


三人は周囲を見渡す。

停車場所は遺跡都市エル・クラウゼの奥、白い石造りの平屋。

壁面には怪しげな文様が刻まれ、依頼書に記された“研究所”の外観と一致していた。

周囲にも同様の建物がいくつも点在していたが、天井は落ち、壁は裂け、風が空洞を笛のように鳴らしている。


石畳には白い粉塵が薄く積もり、崩れた柱の影だけが時を刻む。鳥も獣もいない。

かつて都市だった場所は、灯りと気配を失い、ただ音のない終わりだけが残っていた――まさに“終焉を迎えた地”だった。


「資料では入口が複数。依頼は“研究資料の回収”ですね」

ルゼリアがガンゴから預かった書面を手早く確認し、改めて共有する。


「少し周囲を見てみるか」

セディオスが先頭に立つ。


すると――


「セディオス~~、お腹空いたぁ~」

ライナは情けない声を出しながら腹を押さえていた。


それもそのはずである。

道中の自動馬車の運転は最悪だった。

縦に、横に、前後に、あらゆる方向に激しく揺れ、食事どころではなかった。

あらゆる悪路を走破できるほどの凄まじい魔導術具だが、走破能力のみに特化させすぎていた。


「セディオス、私も同感です」

ぐぅ~とお腹を鳴らし、少し頬を染めるルゼリアがライナに味方した。


「そうだな、まずはメシにするか」

セディオスは二人を見て微笑みかけた。


研究所付近で座れるところを探し、瓦礫を椅子代わりにして三人は座った。

各自の《次元重層収納ミディア・アーカイヴ》より、エクリナ特製から託された弁当を出す。


「さて、食べるか」

セディオスが言いながら、弁当の蓋に手を掛ける。

それを合図にライナは喜びながら勢いよく蓋を開け、ルゼリアは静かにほほ笑みながら蓋を開放する。


「「「おお!!」」」

中にはサンドイッチを中心に、鳥の唐揚げ、豚肉の腸詰焼き、小さいオムレツ、海老のパン粉揚げ、サラダが入っていた。

しかも弁当箱に空間拡張の魔法を掛けているらしく、大盛で入っていた。


「僕らの好きなものばかりだ!」

「さすが、エクリナですね!」

「量もよくわかっているな!」


三人は大いに喜び、思い思いに口に運び始めた。

ライナは大ぶりの唐揚げを一口で頬張り、ルゼリアは海老のパン粉揚げを味わい、セディオスはサンドイッチをかじる。


「うまい! エクリナの弁当は久々だが、やはり冷めてもうまいな!」

冷めて食することを考慮して、少しだけ味付けを濃いめにしていたエクリナ。

しっかりとセディオスを喜ばせていた。


「いつも思うけど、空間魔法ってすごいね。この唐揚げまだサクサクだよ!」

ライナは二つ目の唐揚げを齧り、噛むごとに出る快音に感心していた。

空間魔法には多少の保存能力があるとティセラから聞いたことがあった。


「エクリナの料理はいつもおいしいです。そういえば、最近ピクニックに行ってないですね、今度提案しましょう」

サラダを口に運びながら、ルゼリアは今後の予定を思案していた。


家族の習慣として穏やかな季節では時折、皆で外に出て弁当を食べていた。

最近は湖畔に館を移したこともあり、湖で魚釣りすることが習慣になっていた。

弁当に追加で、その場で釣った魚を焼き、宴会することもあった。


「ピクニックか……依頼が落ち着いたらまた行きたいな」


リゼルに夜会と評し囚われ、戦いの傷を癒し、フォルネアに十日以上滞在、最近は息つく暇がなかった。

たまにはのんびりしたいと思うのは当然であった。


「そうだね……。唐揚げ……無くなっちゃった……」

ライナは相槌を打ちつつ、自分の分の唐揚げを食べつくしたのを嘆いていた。

「ライナ、交換しますか?」

それを横で見ていたルゼリアが提案してくる。


「欲しいのはどれ?」

ライナは弁当を見せ、ルゼリアが欲しいものを聞く。

ルゼリアが自分の弁当箱を少し寄せ、海老の揚げ物を指で示した。

「海老のパン粉揚げ一本で手を打ちましょう」


即座にライナに返答する。

「うん、いいよ~。唐揚げ貰うね」

そういいながら、ライナはフォークを大好きな唐揚げに向けて刺していた。


それぞれの好物を交換し合う炎雷の姉妹。

いつもの光景になごむセディオス。

水筒の紅茶を啜り、微笑んでいた。



三人は腹が満たされ、片づけを済ませると、研究所へ歩む。

壁沿いに進むと、やがて巨大な扉が見えた。

セディオスの背の二倍以上の扉が行く手を塞いだ。堅牢そのものの造りであった。


「これ、壊せるかな?」

ライナが扉をぺたぺた触りながら呟く。


「それは最終手段だ。まずは仕掛けを探そう」

扉周辺を調べるセディオスに倣い、ルゼリアも観察に入る。


「ん? これか」

セディオスが九つの石板で構成された組み絵のような立体的な文様を見つけた。

駆け寄るルゼリアとライナ。


「魔法陣に似た模様……ですが、噛み合っていませんね。少し時間をください」

カシャ、カシャ、と石板を滑らせて、配列を何通りも試すルゼリア。


やがて――ガッチャン!

扉の内側で錠が外れる音が響く。

続いてゴゴゴゴ……と低く鳴り、扉が横へと開いていく。


「正解に辿り着いたようです」

ルゼリアが小さく胸を張る。

「これが正解の組み合わせ……覚えておくか」

セディオスは配列を目に刻む。


「おおっ、扉が勝手に動いた!」

ライナは素直に目を輝かせた。


「よし、行くぞ」

「楽しみだね、リア姉!」

「ええ。ただし用心していきましょう」


三人は好奇心と警戒を同居させ、奥へと踏み入った。


 ◇


研究所内を慎重に歩く。

通路の壁には魔導ランプが等間隔に据えられ、仄かな明かりが足もとを照らしている。

古い魔導ランプはほとんどが弱り、明かりも心許ない。


「少々暗いですね。ランプを出しますか」

ルゼリアが《ミディア・アーカイヴ》からランプ型術具を取り出し、先を照らした。


「ちょっと寒い……」

ライナが肩をすくめる。


「なるべく固まって進むぞ」

セディオスは周囲に気を配る。


カツン、カツン――足音がよく響く。

生き物の気配は薄く、静けさが勝っていた。


「ねえ、ここって本当に“遺跡”なの? 想像してたのと全然違う……」

「確かに。ヴァルザの拠点に似ていますね」

ライナとルゼリアが思ったことをつぶやく。


「ここは昔、人属と亜人属が共同で戦具の研究をしていた都市らしい。都市として機能していたが、神に真っ先に滅ぼされた――魔導戦具の発祥地、ともいうらしいな」


セディオスの記憶を聞いて、ルゼリアが推測で結ぶ。

「脅威と見なされて滅び、時代と共に“遺跡”になった……と」


「……悲しいね」

ライナが小さく俯く。


やがて、複数の回廊が交差する円形の広間にたどり着く。

三人が足を踏み入れた、その時――



カツン、カツン、と――ひとつの通路の奥から靴を鳴らす音が近づいてくる。



別の回廊の闇から、もう一つの影が現れた。


艶を帯びた紺の髪。短く整えられた前髪の奥で、金の瞳が冷静に光る。

後ろ髪は丁寧に三つ編み。整然とした佇まい――幼い輪郭を持つ若者。

その顔を、セディオスは知っている。


リゼル――

それは、あまりに突然の再会だった。

三人の背中の毛が、ぞわりと逆立つほどであった。

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