◆第12話:孤独と邂逅の果てに◆
静かな夜だった。
星々が瞬く空の下、館の書斎にぽつりと灯る明かり。
その奥、机に肘をつき、セディオスは黙然と過去を見つめていた。
(……ずいぶんと、遠くまで来たものだ)
胸に手を当て、十全でなはくなった魔核の位置を撫でる。
思い返せば、己の人生は孤独そのものだった。
かつて名門貴族に生まれ、将来を嘱望された魔法騎士。
幾つもの戦争と政争と軍令に翻弄された末、功績は奪われ、名誉は剥奪され、家族には見捨てられた。
手元に残ったのは忌まわしき魔剣だけであった。
旅人となり、戦場を駆け、刃を振るい、どんなに勝利を重ねても──
誰も褒めてくれなかった。
誰も認めてくれなかった。
強くなるほどに孤独は深まり、己の価値を見失っていった。
(……何のために、戦っていたのだろうな)
あの頃の自分に問いかけても、答えは返らない。ただ、虚無だけが胸を満たしていた。
そんな旅の果てに、俺は出会ったのだ。
あの銀の髪、冷たくも燃えるような碧い瞳──すべてを滅ぼさんとする『魔王エクリナ』と。
◇ ◇ ◇
圧倒的な力で世界を断罪しようとする彼女に、唯一立ち塞がったのが俺だった。
激闘の数々。
ライナ、ルゼリア、ティセラ──彼女の側近たちを一人、また一人と退けていた。
それでもなお立ち上がり、怒りと悲しみを魔杖に乗せて襲いかかってきた魔王。
だが、最後の一撃で、全てを終わらせたあの日。
エクリナの魔力は枯渇し、膝をついた時、そこにいたのは──ただの少女だった。
涙を隠し、誇りを守ろうとするその姿に、セディオスはそっと手を差し伸べた。
「『魔哭神』を討ちに行こう。お前の正しさが証明されるその場所へ」
そう言って、エクリナたちの傍に立ち続けた。
やがて訪れた魔哭神との戦いは、凄絶を極めた。
エクリナの全魔力を注ぎ込んだ連撃も通じず、異形の存在はびくともしなかった。
結界、魔法、技術、すべてが常識外の力で構築されていた。
(このままでは、彼女が……)
セディオスは静かに前に出た。剣を構え、魔法式を起動する。
光の魔法と戦技の合わせ技。空間を切り裂き、結界を穿つ一撃。
「エピローグ――ブレイドッ!」
光の道を切り拓いたその刹那、セディオスは最後の力を振り絞った。
「――終天断、天照に至れ」
それは、己の魔核を代償に、すべてを解き放つ“切り札”というべき技。
世界を穿つ閃光が、遂に魔哭神を貫いた。
力を失っても、守りたかったものがあった。
そのためなら、代償など惜しくはなかった。
だからこそ、彼女と旅した日々は、戦いに彩られた日々とは異なる、穏やかで静かな時間だった。
だが、共に歩む日々の中で、彼女が笑い、迷い、そして変わっていくのを、俺は見ていた。
その変化は、確かに俺の中の何かを変えていった。
彼女の存在が、俺にとって全てとなっていた。
だからこそ、護ると決めた。
たとえ何を失っても、エクリナだけは護り抜くと心に誓った。
◇ ◇ ◇
「……この日々が、続けばいい。そう、心から思えたのは、初めてだった」
そして今、隣にいるのは『魔王』ではない。
己の手で作ったスープを振る舞い、紅茶を淹れ、時折恥じらいを見せる──愛おしい、一人の少女。
(……守るべきものは、見つかった…………か)
そう静かに胸に誓いながら、セディオスは椅子を立った。
窓を見れば、まだ微かに光が灯るテラス。
きっと、あの少女が眠れずに待っている。いつも通りに俺を待っている。
今度も手を伸ばそう、そう何度でも。
闇の旅路の果てに見つけた、たった一つの光。
それは、『魔王』と呼ばれし少女が、自分の人生にくれた贈り物だった。
そして物語は、まだ続いていく。
――誰よりも強く、誰よりも優しく、そして誰よりも孤独だった二人の、共に在る物語として。
初めまして、ひげシェフと申します。
ここまでご拝読頂き、誠にありがとうございました。これにて第一章が完了となります。
エクリナや世界観を何とか伝えたいためでしたが、少しスローペースな感じになっているかと思います。一章分の流れでキャラを立て、テンポの良いストーリーを紡ぐのは大変だなと思う次第です。
二章以降も既に準備できていますので、継続して投稿を行ないます。引き続きよろしくお願いしますm(__)m
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
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