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魔王メイドエクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第六章:偽りの楽園、砕かれる朝

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◆第102話:王、目覚めの刻◆

静寂に包まれた神の実験場――

ルゼリアとライナが放った、初めての複合極大魔法。

その威力は凄まじく、現実世界で放てば魔核に深刻な自傷を負っていたかもしれない。

まさに“切り札”と呼ぶに相応しい一撃だった。


「……倒せていればいいが」

剣を構え、警戒しながら噴煙に近づくセディオス。


――その瞬間。

突如、煙の中から巨大な槍が突き出された。

反射的に身をひねって受け流すセディオス。


「やはり、生きていたか……!」

願いが潰えたことに悔しさを滲ませ、呻くように言い放った。


「中々に良い複合魔法であった。トリプル・インスクリプトは、吾の自信作だったのだがな……」

現れたヴァルザは砕け散った魔導術具を見やり、独り言のように呟く。

その姿は、装飾を施した黒衣が焼け焦げ、左腕が欠損していたが、その眼光に衰えはない。


セディオスは一気に畳みかけようと斬撃を振るう――が、結界に阻まれた。

《魔導充式剣ディスフィルス》の魔晶は既に魔力を使い果たし、応答が鈍い。


「結界破壊すらできぬか。残念だ」

嗤うヴァルザ。欠損した左腕は、既に再生を始めている。


次の瞬間、槍形態《レギオン=ランス》を携えたヴァルザが連続突きを繰り出し、

同時に背後の魔法陣から炎と雷の魔力弾が雨のように降る。


槍撃と魔力弾の嵐。

セディオスは後退しながら応戦するが、そのすべてを防ぎきれない。


「くそっ……!」

絶体絶命のその時。


バシンッ、バシンッ―――!

ティセラが遠隔で展開した結界が、嵐のような攻撃を遮断した。


「そういえば、まだ居たのだったな」

無感情に告げるヴァルザ。



次の瞬間、空間転移でティセラの背後に現れる。


「っ……!」


ザシュッ―――!

反応する間もなく、槍が彼女の身体を貫いた。


「くぅっ……かはっ……油断しました……」

ティセラが苦悶の声を漏らす。


「ティセラッ!!」

セディオスは叫び、使えなくなった魔晶付き鍔部を抜き取り、新たな魔晶を嵌める。

刃に淡光が走り、魔力循環が復帰――再び突撃。


だがヴァルザは冷然としていた。

「飽きたな……そろそろ終わらせるか」

再び空間を歪め、セディオスの前に現れると、再生した左腕から生えた樹木の枝で彼を拘束した。


「まだまだ!、ヴァルトクリード!!」

セディオスが雷を纏った斬撃を全方位に放ち、拘束を打ち砕く。身体の自由が戻る。


 * * *


その頃。

ヴァルザに貫かれ、眩い光に包まれていたティセラ。


「もう少しで、全快だったのに……すみません……」

悔しそうに呟く彼女に、膝をついたエクリナが手を伸ばした。


「いいのだ、ティセラ」

抱きしめ、そっと頭を撫でる。


ティセラは微笑むように言った。

「必ず帰ってきてくださいね……また会いましょう」


その言葉とともに、彼女の化身は砕け、霧となって消えた。


「……ティセラ」

盟友をまたしても喪った。

それでもエクリナの瞳には、かつての強い光が戻っていた。


「そうだったな……セディオスと初めて戦った時も、同じような感覚だった……

 あれは……嫌だったな……、嫌いだった。

 だから、決めたのだ……“もう、失わない”と」


その心に、再び火が灯る。

決意が宿り、闇に包まれていた彼女の身体から魔力の光が立ち昇る。


「そうだ……夢ならば、我が意思で塗り替えてやろう……!」


精神世界に響き渡る、王の声。


「聞け、“ヴァルザ”よ――我の忌まわしき過去の象徴よ!」

「我が心、今ここに再誕す!」

「平伏せよ――王が目覚めし時ぞ!!」


怒涛の魔力が解放され、王の覇気が実験場を包み込む。

光の奔流が天を突き、戦局が大きく動き始めようとしていた。

次回は、『11月2日(日)13時ごろ』の投稿となります。

引き続きよろしくお願いしますm(__)m


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

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