◆第102話:王、目覚めの刻◆
静寂に包まれた神の実験場――
ルゼリアとライナが放った、初めての複合極大魔法。
その威力は凄まじく、現実世界で放てば魔核に深刻な自傷を負っていたかもしれない。
まさに“切り札”と呼ぶに相応しい一撃だった。
「……倒せていればいいが」
剣を構え、警戒しながら噴煙に近づくセディオス。
――その瞬間。
突如、煙の中から巨大な槍が突き出された。
反射的に身をひねって受け流すセディオス。
「やはり、生きていたか……!」
願いが潰えたことに悔しさを滲ませ、呻くように言い放った。
「中々に良い複合魔法であった。トリプル・インスクリプトは、吾の自信作だったのだがな……」
現れたヴァルザは砕け散った魔導術具を見やり、独り言のように呟く。
その姿は、装飾を施した黒衣が焼け焦げ、左腕が欠損していたが、その眼光に衰えはない。
セディオスは一気に畳みかけようと斬撃を振るう――が、結界に阻まれた。
《魔導充式剣ディスフィルス》の魔晶は既に魔力を使い果たし、応答が鈍い。
「結界破壊すらできぬか。残念だ」
嗤うヴァルザ。欠損した左腕は、既に再生を始めている。
次の瞬間、槍形態《レギオン=ランス》を携えたヴァルザが連続突きを繰り出し、
同時に背後の魔法陣から炎と雷の魔力弾が雨のように降る。
槍撃と魔力弾の嵐。
セディオスは後退しながら応戦するが、そのすべてを防ぎきれない。
「くそっ……!」
絶体絶命のその時。
バシンッ、バシンッ―――!
ティセラが遠隔で展開した結界が、嵐のような攻撃を遮断した。
「そういえば、まだ居たのだったな」
無感情に告げるヴァルザ。
次の瞬間、空間転移でティセラの背後に現れる。
「っ……!」
ザシュッ―――!
反応する間もなく、槍が彼女の身体を貫いた。
「くぅっ……かはっ……油断しました……」
ティセラが苦悶の声を漏らす。
「ティセラッ!!」
セディオスは叫び、使えなくなった魔晶付き鍔部を抜き取り、新たな魔晶を嵌める。
刃に淡光が走り、魔力循環が復帰――再び突撃。
だがヴァルザは冷然としていた。
「飽きたな……そろそろ終わらせるか」
再び空間を歪め、セディオスの前に現れると、再生した左腕から生えた樹木の枝で彼を拘束した。
「まだまだ!、ヴァルトクリード!!」
セディオスが雷を纏った斬撃を全方位に放ち、拘束を打ち砕く。身体の自由が戻る。
* * *
その頃。
ヴァルザに貫かれ、眩い光に包まれていたティセラ。
「もう少しで、全快だったのに……すみません……」
悔しそうに呟く彼女に、膝をついたエクリナが手を伸ばした。
「いいのだ、ティセラ」
抱きしめ、そっと頭を撫でる。
ティセラは微笑むように言った。
「必ず帰ってきてくださいね……また会いましょう」
その言葉とともに、彼女の化身は砕け、霧となって消えた。
「……ティセラ」
盟友をまたしても喪った。
それでもエクリナの瞳には、かつての強い光が戻っていた。
「そうだったな……セディオスと初めて戦った時も、同じような感覚だった……
あれは……嫌だったな……、嫌いだった。
だから、決めたのだ……“もう、失わない”と」
その心に、再び火が灯る。
決意が宿り、闇に包まれていた彼女の身体から魔力の光が立ち昇る。
「そうだ……夢ならば、我が意思で塗り替えてやろう……!」
精神世界に響き渡る、王の声。
「聞け、“ヴァルザ”よ――我の忌まわしき過去の象徴よ!」
「我が心、今ここに再誕す!」
「平伏せよ――王が目覚めし時ぞ!!」
怒涛の魔力が解放され、王の覇気が実験場を包み込む。
光の奔流が天を突き、戦局が大きく動き始めようとしていた。
次回は、『11月2日(日)13時ごろ』の投稿となります。
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