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魔王メイドエクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第六章:偽りの楽園、砕かれる朝

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◆第92話:ヴァルザの嗜虐◆

鉄格子が軋む音と共に、ゆっくりと開いた。


浮遊する魔導術具が淡い光を放ち、無機質な声を響かせる。

「実験の時間だ。実験場に移送する」


(……まさか、そんな……ありえぬ……!)


エクリナは鎖に引かれるまま、冷たい通路を歩かされた。

壁に刻まれた術式が赤く脈打ち、空気が生温い。


「今日も実験の時間だ」


その声に、背筋が凍る。

実験場の中央に立っていたのは――漆黒のローブをまとった男、ヴァルザ。


神にして、狂気の化身。

かつてエクリナを《兵器》として造り上げ、弄んできた存在。


「……っ……貴様……!」


絞り出すように睨みつける。

だが衰弱した身体は言うことを聞かず、立ち上がるだけでも精一杯だった。


ヴァルザは返答を待たずに手を伸ばし、エクリナの腕を乱暴に引きずる。

そして、魔法陣が刻まれた床の上へと無造作に投げ捨てた。


「まずは……炎と氷の融合魔法の耐久試験からだ」


何の前触れもなく、魔力の奔流が走る。

灼熱と氷結。

相反する二つの苦痛が同時に押し寄せ、肉体を引き裂く。


「ぐ、あああああっ!!」


絶叫が空間に反響する。

息も、意識も奪われ、ただ“痛み”だけが存在を支配した。


次に襲うのは樹木魔法――

蔦が腕に絡みつき、締めつけ、骨を砕く。

鋭い棘が皮膚を裂き、根が皮下へと入り込んでいく。


「う……あ、くっ……!」


視界が赤に染まり、感覚が遠のく。

それでも、逃げる暇などない。


「やめ……やめろ……ッ!!!」


叫びは、ヴァルザの興をさらに煽るだけだった。


「痛みが強すぎたか? では――“遮断”を解除しよう。

もっと……“感じて”くれ」


その指が動いた瞬間、魔力の針が神経へ突き刺さる。

稲妻のような衝撃が脊髄を貫き、脳を焼いた。


「ぎ、ああああああああっっ!!!」


悲鳴が喉を裂き、声帯が焼ける。

震える四肢、崩れ落ちる意識。


それでも、魔法は止まない。

気絶すれば治癒魔法で無理やり意識を戻され、再び痛みを叩き込まれる。


「ふふ……やはり人型はいい。

感情と痛覚が、こうも綺麗に連動するとは。

……その表情が、実に良い」


吐き捨てるような嗜虐の声。

その響きが、鼓膜ではなく心を削っていく。


血と痛みと絶望の中で――

エクリナの意識は、ゆっくりと沈んでいった。


反応が薄れたのを確認すると、ヴァルザは満足げにうなずき、近くの術具に命じた。

「今日は満足した。住処へ戻しておけ」


浮遊する術具たちは、エクリナを乱雑に担ぎ上げる。


「また明日だ。楽しみにしていろ……エクリナ」


滅びの神の声は、どこまでも穏やかだった。


 ◆


術具たちは牢へ戻り、鎖を枷に接続する。

扉が閉じ、再び沈黙が訪れる。


「……これは……なんなのだ……」


それは、決して忘れぬ記憶。

二度と戻りたくなかった“最悪の現実”。

だが今――その只中に、自分はいた。


エクリナの目から涙が零れ落ちた。

逃れられない現実を知った少女が、そこにいた。


 ◆ ◆


終わりなき地獄は続く。


かつて《魔王》と呼ばれた存在――。

だが、戦争のない今、彼女はただの実験体。

“ヴァルザ”という悪意の神の玩具に過ぎなかった。


その日から、幾日も、幾日も……

終わらぬ嬲りが続いていく。


痛みが魂を蝕み、

記憶が溶け、

心が、冷たく軋み……そして――


砕けようとしていた。

次回は、『10月19日(日)13時ごろ』の投稿となります。

引き続きよろしくお願いしますm(__)m


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

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