表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第一章:それでも、主の傍に

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/201

◆第8話:微熱と献身、初めての看病◆

朝、館の空気はどこか重たかった。

いつもどおりエクリナが呼びに行くと、セディオスが熱を訴え、寝室に伏していたのだ。


「うぬ、今日は……少し顔色が悪いぞ……?」

眉をひそめたエクリナは、すぐに寝具を整え、冷たいタオルを額に当てた。

首元に触れて熱を確かめ、白湯を飲ませた。


「すまないな、エクリナ……窓を開けっぱなしで寝たのが悪かったみたいだ」

軽く笑い、心配させないように言うセディオス。


「まったく、うぬというやつは……もう少し、自分の体を大事にせぬか……」

そう呻きながらも、その動きはどこまでも優しく、静かだった。


部屋のカーテンを少しだけ開き、適度な光を取り込む。

食事は消化に良い粥を用意し、温度を調整してから慎重に運んだ。


「さあ、口を開けよ。我が作った特製であるぞ……ほら、少しずつ、な?」

スプーンで粥を口元に運ぶその手は、どこか緊張しているようで、ほんのり震えていた。

セディオスは大人しく、エクリナの言うとおりにしていた。


(……我は戦場では一切の躊躇をせぬというのに、何故粥のひと匙でここまで緊張せねばならぬのだ……)

(……以前の我ならば、こんな姿を誰かに見せることなど……)

エクリナの視線は、ふと遠くを見つめる。


かつての魔王は、泣き声も祈りも騒音として切り捨てた――なのに今は、粥のひと匙に手が震える。

そして今、額にタオルをのせた男の枕元で、看病をするメイド。


その落差に、思わず口元が緩む。

「ふ……まったく、うぬという男は……」



食事を終え、改めて横になるセディオス。

「少し、眠るよ……」

短く言うと目を瞑る。ほどなくして、寝息が聞こえてきた。


セディオスの寝息が落ち着いてきたのを見て、そっと椅子に腰を下ろす。

(……あの時、すべてを失った我に、手を差し伸べてくれたのは……)


エクリナの瞳は、微睡む主の横顔をじっと見つめていた。

そして、ほんのわずかに手を伸ばし、その頬に触れる。


「……世界を滅ぼそうとしたこの我に、ここまで尽くさせるとはな」


その囁きは、誰にも聞かれない。

だが、その声には、誇りと、想いと、ほんの少しの照れが混ざっていた。

「……早く元気になれよ、うぬ。我とは……まだ、やりたいことが……たくさんあるのだ」


(新しい紅茶も試したいし、まだ見せておらぬ料理もある。……それに、うぬと行ってみたい場所も……)


微睡みの中で、セディオスはほんの少しだけ口元を緩めた。

寝息を立て、横たわるセディオスを見つめるエクリナは、ふと考えてしまった。

いつまで『一緒に』いられるのかと考えてしまった。


セディオスの顔をしばし見つめるエクリナ。

(我は神造生命体……この身体は不老……成長するのは魔核ばかり……か)

(考えてみれば、我はセディオスよりもずっと生きている刻が長い……それでも少女の姿……)

自身の手を見やり、顔に手を当てシワを確かめる。


エクリナはセディオスの汗を拭き、額に手を当て、顔を覗き込む。

その顔は年相応のシワが入り、味わいのある顔つきであった。

出会った時よりも少しだけ、年を取り、シワが増えていた。それこそが人属と神造生命体の差であった。


(ずっとは……共にいられない……だが……しっかりと老人になるまで、果てるときまで傍にいよう)


それでもと――エクリナは想い直す。

セディオスから告白され、傍に居ると誓った時から家族となった。


(わかっていたことだ。だが、我は『不死』ではない……セディオスに寿命が来るまでは生きねばな)

セディオスの汗で張り付いた前髪を払い、新たな決意をする。


そして、彼女はその場でそっと微笑んだ。その姿は、かつての“魔王”とは違う。

けれど、誰よりも“強くて優しい”存在だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いよいよカップルだねこりゃ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ