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07. 転生者の二人


ネネシーは緊張でドキドキしながら、固まったままのルシールに声をかけた。


「あの。私は騎士科一年Sクラスの、トロバン男爵家のネネシー・トロバンです。よろしければネネシーと呼んでください。……あの、お名前を伺ってもいいですか?」


ハッと我に返ってルシールも挨拶をする。


「ネネシー様ですね。私は魔法科Sクラスの一年の、オルコット男爵家のルシール・オルコットです。ルシールと呼んでください。……あの、先ほどは変な事を言ってしまいましたが、気にしないで――」

「あ!違うんです。……あ。ごめんなさい、話を遮ってしまって。

……違うんです。私もこの世界が乙女ゲームだって知ってるんです。ルシール様も・転生者なんですよね?」


慌てて言葉を被せてきたネネシーの話に、ルシールは目を見開き、その表情が肯定の意味を表す事に、ネネシーは気づいた。


「ルシール様は乙女ゲームのヒロインですよね?

私、あの夏祭りの日に初めてルシール様に会った時から、ルシール様には素敵なヒロインの世界があるに違いないって思っていたんです。

……私の乙女ゲームは、残念ながら駄作だったんですけど」




最後自嘲するように笑うネネシーの話は、情報量が多すぎてルシールは軽く混乱する。


『待って。私は乙女ゲームのヒロインなんかじゃないわ。素敵なヒロインになるのは、ネネシー様の方よ。私は駄作の悪役令嬢にすぎないのよ。

それに「夏祭りに会った」なんて、そんな事――』


そこまで考えて、ルシールはハッとする。


――夏祭り。そうだ、あの時。

ルシールが疲れ果てて道端で座り込んだ時、声をかけて助けてくれたのは女の子だった。

ルシールを背負いながらも、あまりにも危なげなく歩いていたし、意識も朦朧としていたので、男性だったかと思い直していた。


「……あの夏祭りの日、私を背負って寮まで送ってくれたのは、もしかしてネネシー様だったのですか?

とんでもなく無理をさせてしまって本当に申し訳ありません」


なんてことだ。こんな華奢な方に、自分を背負わせてしまった。

ルシールは申し訳ない思いでいっぱいになる。


「いえ!大丈夫ですよ。私は力だけには自信がありますから。それにルシール様は羽のように軽かったですよ」


屈託なく笑いながらネネシーがかけてくれた言葉に、

『それはない』

そうルシールは思うが、お礼だけを伝える事にした。


「そんな事はないでしょう」「いえいえ本当に軽いですよ」と不毛な会話を続ける時間がもったいない。

ネネシーとはもっと深い話をしたい。


ルシールは食い気味にネネシーに尋ねた。

「ありがとうございます、ネネシー様。あの、よろしければ、放課後ゆっくり話しませんか?」




ルシールからの誘いに、ネネシーの心は激しく揺れる。

同じ転生者のルシールとは、今すぐにでもお喋りしたい。そのお誘いはとても魅力的だ。

だけどネネシーは今日の放課後は家探しをしなければいけない。


『昨日のうちに探しておけばよかったわ』

そうネネシーは残念に思うが、今日だけはお断りしないと今夜眠る場所もない。


断腸の思いで断りを入れる。

「私もとてもルシール様とお話したいのですが……事情があって、今日の放課後に、これから住む部屋を探しに行く予定なのです。もし部屋が無事見つかったら、明日にでもお話しさせてください」



ネネシーの返事に、ルシールは首をかしげた。

『部屋?こんな時期に?』

不思議に思って尋ねてみる。

「ネネシー様はSクラスですよね?学園寮にお住まいではないのですか?」


ルシールに尋ねられて、ネネシーの視線が下がった。

自分の事情はあまりに情けない。だけど、

『ルシール様には話しておいた方がいいかも。今日は無理でもちゃんとお話したいもの』

そう判断して、事情を話す事にした。


「実は私は昨日、婚約破棄されまして。別れた元婚約者は、私と同居していた子とお付き合いされるそうなので、昨日その部屋を出たんです。

こんな中途半端な時期に、学生寮が空いてるはずがないですから……今日の放課後に、来年の春まで住める場所を探さなきゃいけないんです」



聞いた言葉に、ルシールは息をのんだ。

週末前、ルシールも婚約破棄を受けた。

『私と同じだ』

そう思うと、どうしてもネネシーの事が他人事とは思えない。


思わずルシールは名乗り出た。

「あの、ネネシー様。私の寮部屋に入りませんか?今、一人部屋なんです。

私は貴族と言っても貧乏な男爵家なので、誰も私との相部屋は望まないのですが、もしよろしければ……」


自信がなくてだんだん声が小さくなっていく。

学園では、貴族と平民の区別はしないと謳いながらも、寮で貴族と平民が相部屋になる事はない。

平民の女子ならまだしも、貴族としては貧乏過ぎて貴族の女子からはルシールは相手にもされない。

誰もルシールとの相部屋など望まないのだ。


断られるのを覚悟して、恐る恐るネネシーの顔を伺うと、ネネシーは嬉しそうに笑っていた。


「ありがとうございます!貧乏だなんて、そんなこと気にする訳がありません。……実は我が家も、とても貧しい男爵家なので」

えへへとネネシーは笑ってから、言葉を続けた。


「あの、でも。ルシール様こそよろしいのですか?私は騎士科の生徒です。騎士との相部屋はみなさん嫌がりますし、本当によろしいのでしょうか……?」


自信がなくてネネシーの声が小さくなる。

やっぱり騎士なんて嫌だと言われるかもしれない。

視線が下がって、ルシールの足元を見つめた。



「騎士様、カッコいいじゃないですか!騎士様と同室なんて嬉しいです。乙女ゲームと言えば騎士様ですからね!……乙女ゲームは未経験なので、噂で聞いただけですが」


聞こえた言葉にネネシーが顔を上げると、ルシールは恥ずかしそうに笑っていた。

ネネシーは初めて会ったルシールに、好意しか感じなかった。ネネシーも乙女ゲームをした事がない。


「私も乙女ゲームを実際にした事は無いのですよ。あの、私、ぜひルシール様と相部屋にさせていただきたいです」


同室を喜ぶネネシーに、ルシールは好感しか持てない。

たとえ同じ転生者だったとしても、「乙女ゲームもした事がないなんて」とバカにするような子だったら、ルシールは泣くしかない。



「では放課後に、学園寮前で待ち合わせしましょう?私、放課後が今からもう楽しみです」

「はい!私もとても楽しみです」



ふふふと二人で笑い合うと、ちょうど午後の授業の予鈴が鳴る。

少し別れを惜しみつつ、二人は手を振り合ってから、教室に足取り軽く向かっていった。


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