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乙女ゲームに婚約破棄は付きものだというならば  作者: 白井夢子
更なる乙女ゲームの世界とは

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59.乙女ゲームに溺愛は付きもの


「あの……勇者様?」

「レオでいいよ、ネネシーちゃん」

ネネシーの呼びかけに勇者レオが答える。


「勇者レオ様。ネネシーにあまり馴れ馴れしい呼び方をしないでください」

「クレイグ様……」

レオが気安くネネシーの名を呼ぶ姿を見て、クレイグは思わずレオに声をかける。

そんなクレイグを、ネネシーは不安げな様子で見つめた。


どう見ても乱暴者にしか見えない勇者レオが、クレイグに手を出さないか不安だったのだ。

クレイグは強い。

だけど勇者レオは世界的な強さを誇る。

どう見ても反論していい相手には見えなかった。


クレイグの袖を引くネネシーを、安心させるように優しく微笑むクレイグを見て――レオが羨ましがった。




「いいな〜。エルもここ持ってよ」

ここ、とレオは自分の服の袖を指さす。



チッと舌打ちするエルノノーラに気づいたルシールは、『ノノちゃんは照れ屋だから』と、急いでレオに優しく注意する。


「レオ様、ノノちゃんが困ってますよ」

「ルシールちゃん、エルノノーラにあまり馴れ馴れしい呼び方をしないでくれないか?」

「え……?」


戸惑うルシールの前で、エルノノーラは勇者レオの腹にドスと短く強い鉄拳を入れる。

「それ以上ふざけた事をぬかしたら、ルル様の護衛はずすぞ。お前は魔物相手に遊んでろ。聖剣なく、永遠に魔物を切り刻んでおけ、いいな」

――エルノノーラの声が低い。


たとえ冗談でも、ルシールの『ノノちゃん』呼びを止めようとする野郎は消すのみだ。




「も〜〜そんなに怒らなくてもいいだろ?俺だってクレイグくんみたいな事言ってみたかっただけなのに。練習しただけだろう?

……分かったよ。睨まなくてもいいじゃんか。

あ。クレイグくんの恋人ちゃん、何か言いかけなかった?」


話している途中で、レオはネネシーに呼びかけられた事を思い出した。


「あの……こんな事を聞いていいのか分からないのですが……」

「なんでも聞いてよ」

「どうして放課後からの討伐なのですか?ルルちゃんがセルフィシュ国から通っているなら、朝に聖剣を作れば勇者様も安全な時間に討伐出来るのではないですか?日が落ちた時のほうが、魔物の力は強くなって危険ではないですか?」




ネネシーは、移動ドアのやり取りの中で引っかかりを感じていた。


セルフィシュ国の者は、おそらく文官さえも強い。

騎士のエルノノーラ一人で、ルシールの護衛は十分なはずだ。

ならば日中に勇者レオが魔物討伐に出てくれれば、ルシールの放課後はフリーになって、また自分と一緒に過ごすことができると考えられた。


だけどそれをストレートに伝えるのもどうかと思ったので、「安全な時間に」と遠回しに日中の討伐を勧めてみたのだ。





「え……ネネシーちゃん、俺の事心配してくれているの?もしかして―」

そこでルシールがレオの口にベチと手を置く。


ルシールは、レオの言いかけた言葉を察したクレイグの目が、鋭くなって怖かった。

ネネシーを溺愛するクレイグが勇者に手を出して、それにレオが反撃した時の結果を見るのが怖すぎたのだ。



「ネネちゃんの質問にちゃんと答えてあげてください!」

珍しくキッとなった目でレオを見つめるルシールに、『まさか……ルシールちゃん、女の子に心配される俺に嫉妬してくれてるのか?』と内心ドキドキしながら、レオが答える。


「あ、ああ。討伐ね。確かに日中行った方が、魔物は弱い……かな?あまり変わんない気もするけど。

エルやルシールちゃんのいないセルフィシュ国で、日中一人で討伐してても面白くないしさ。

剣で学ぶことはないかもしんないけど、今まで魔物とか魔獣しか見てこなかったし、学園で一緒に他の事を学びたいんだ」

「そう……ですか」




ネネシーは、勇者レオの言葉に素直に頷いた。


勇者レオは世界的に有名な人物だ。

ネネシーは今まで生活するのに必死で、世界情勢にまで気をとめる気持ちの余裕はなかった。だけどクレイグの近くで多くの経験を重ねるうちに、勇者レオは自然と耳に入ってくる名前だった。


こんな自分でさえも名前を知る人物だ。

きっと今まで世界平和のために大変な苦労をしていて、学園に通う余裕も無かったのだろう。


『ルルちゃんの光魔法に出会って、やっと勇者様も少し余裕を持てたのかもしれない。学びたい事も出来たのかも』


そう推測すると、『ルルちゃんと放課後一緒に過ごしたいから、討伐は日中にしてください』などと言えるわけが無かった。




ネネシーの推測したように、ルシールも同じ推測をしていた。

『レオ様も今まで苦労があったのかも。……もう少しレオ様に優しく接しなくちゃ』


今までの勇者レオへの冷たい態度を、深くルシールは反省していた。





エルノノーラは、この流れを眺めながら満足そうに頷く。


『どうせモテテクニックを学ぼうとしているだけだろうが、レオもたまには役に立つな。放課後のルル様に、誰も近づけないのは良いことだ』


エルノノーラは、ルシールの前に出てくる者を簡単に排除するだけの力は持っている。

だけど溺愛するルシールに「素敵なノノちゃん」と思われるためには、余計な手を出さずに自然な流れで自分だけの側にいてほしかった。


『ルシールちゃんが俺に惚れている』とドキドキしてそうなレオは鬱陶しいが、面倒くさいのでそれはひとまずそのまま放置しておく事にした。






ビー。ビー。


エルノノーラの通信機の呼び出し音が鳴った。

通信機を耳に当てたエルノノーラが応える。


「はい。……ええ、今帰ります」

短く会話を終えて、プッと通信を切る。


「ルル様、お時間です。そろそろ戻らなくては」

「そうね。遅くなるとレオ様が大変だよね」


エルノノーラに促されて、ルシールはネネシー達に学園の門まで見送られながら、「また話そうね」と約束をして解散をした。





 

カルヴィンの執務室。

「ただいま戻りました」と、挨拶をするルシールが移動ドアから帰ってきた。


続いて扉から入ってくる上機嫌なエルノノーラに、カルヴィンは冷たい目を送る。


通信機で連絡をしたのはカルヴィンだったが、

「友人に会えたのは久しぶりだろうから、今日は討伐は気にしないでゆっくりすればいい」

そう伝えていた。

その返事として「ええ、今帰ります」という言葉はおかしいだろう。


『やはりルシール嬢に誰も寄せ付けなかったか』


エルノノーラの、ルシールへの執着に近い溺愛を感じて、カルヴィンはルシールに憐れみの目を向けた。






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