表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲームに婚約破棄は付きものだというならば  作者: 白井夢子
更なる乙女ゲームの世界とは

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/78

53.デートの定義


今日ルシールが気が付いたことは。

意外にもライナートは、落ち着いて一緒にいられる人だという事だった。


エルノノーラはいつも、常連客のいない森カフェで

「あの側近野郎は、口うるさくて神経質で陰湿で、本当に嫌な男だ」

そう憎々しげに話しているので、『勇者レオからの避難地ではあるが、気をつけなければいけない人』として、ライナートには失礼のないように慎重に接してきていた。


だけど今日、ネネシーに贈るお土産を買うために、近くのお店に向かう時の馬車の中も、お店の中にあるカフェの中でも、二人きりでも気まずい空気が流れる事なく過ごせていた。


エルノノーラと一緒にいる時の、弾むような楽しい時間でも、勇者レオがいる時の賑やかな時間でも無かったが、ライナートと過ごす時間は、なんというか穏やかな落ち着いた時間だった。




紹介してくれたお店には、とても見栄えのする可愛いお菓子がたくさん並んでいて、香りのいい様々なフルーツティーも置いていた。


案内してくれたお店のフルーツティーは、紅茶の茶葉ではなく、ハーブとドライフルーツを合わせたものだった。茶葉の見た目から可愛い。

フルーツハーブティーは美容や健康にも良いが、その香りが安らぎの時間を与えてくれそうで、ルシールの癒しの魔法よりも効果がありそうなものばかりだ。


クレイグから贈られるたくさんのお菓子の中でも特に、ネネシーは見た目が可愛いものを喜んでいたので、ネネシーが喜んでくれそうな可愛いものを選ぶことにした。


こうした可愛いカラーのお菓子は、ルシールが作る茶色い焼き菓子とは違う。

ルシールはシンプルなものが好きだけど、ネネシーとは仲が良くても「何もかもが同じ好みの訳ではなかったんだ」とは、贈られた綺麗なお菓子を喜ぶネネシーを見て気づいた事だった。


紅茶は本当にたくさんの種類があって迷うほどだったので、香りを確かめながらライナートと一緒にいくつかを選んだ。

ルシールの慎重な買い物ペースにも、嫌な顔をする事なく付き合ってくれたライナートの姿もまた、意外な発見でもあった。彼は無駄な時間を厭いそうなイメージがあったからだ。




「ドライフルーツじゃなくて、フレッシュなフルーツを使ったフルーツティーを作ってみようかしら」


カフェでお茶を飲みながら、新しいメニューを思いついて思わず呟くと、

「それは美味しそうですね。ハーブティーでも紅茶でも合いそうです」

そんな返事を返してくれた。


頼んだミルクレープが目の前に置かれると、

「こちらも味を見てみますか?」

そう言ってライナートの頼んだミルフィーユを、スッと綺麗に切って取り分けてくれた。

お返しにルシールもミルクレープをフォークで取り分けたが、かなり形が潰れたものを渡す事になってしまって恥ずかしかった。


「ミルクレープを作ったら、ライナート様にカットしてもらわないとダメですね」

「その時は引き受けましょう」


ライナートと、そんな流れるような会話で何気ない事を話しながら、初めての王城以外の時間を穏やかに過ごせていた。







ルシール達が執務室に戻ってしばらくしてから、カルヴィンとエルノノーラ、続いてレオが帰ってきたので、今日は執務室カフェを開くことにする。


「みなさん、お疲れさまです。先ほどライナート様に案内してもらったお店で飲んでみて、とても美味しかったので」

そう言いながらお茶を振る舞うと、勇者レオが羨ましがった。


「え〜〜ライナート様だけずるい!俺だってルシールちゃんとデートしたいのに」

「デートじゃないです。友達に送るお土産を買いに行っただけです」

すかさずルシールが訂正する。


「え〜〜お茶もしてるじゃん。そんなのデート以外にないだろう?

俺なんてエルと、王城の食堂デートしかした事がないのに〜〜。しかもご飯だけ食べて解散なんて、そんなデートってルシールちゃんはどう思う?」


「普通だと思いますけど?」

ルシールは首をかしげながら答える。




『何かおかしな事があるかしら?』というような様子を見せるルシールに、思わずカルヴィンが尋ねた。


「ルシール嬢は、以前婚約者がいたのだろう?どんなデートをしてたんだ?」

「デートですか?学園の学食デートでしたね。友達だった女の子と三人で食べてました」


「……それはデートなのか?他にはどこへ出掛けたんだ?」

「他ですか……?あ。学食で食べてた三人で、夏祭りに行きました。すぐに二人とはぐれちゃって、結局その二人がその日から付き合う事になっちゃったから……あれはデートじゃ無かったかも……?」



なんだかすごいオチが付いてきた。

『家同士の繋がりのない、元々は恋愛での婚約だったようだと報告を受けていたが、どこにも恋愛要素が見つからないではないか』


カルヴィンは、もう少し質問をしてみることにする。


「婚約指輪などの贈り物はあったのか?」

「指輪?……はないですね。……あ、でもネックレスなら」


『装飾品の一つは贈り物があったようだな』

カルヴィンは、ルシールの言葉に少しホッとした。

なんだかルシールが不憫に思えてきていたのだ。


「ネックレスを贈ったことはあります」

「……贈る?………ルシール嬢が?」

「はい。ノノちゃんに」

「………そうか。エルノノーラに」

「はい」


―――不憫だ。

カルヴィンはそこで会話を止めた。





ライナートがルシールと二人で出かけた話も、元婚約者のろくでもない話も不機嫌な顔で聞いていたエルノノーラだったが、ルシールの言葉に顔を輝かせる。


「ルル様……!もしかしてこのネックレスは、ルル様初めての宝飾品の贈り物なんですか?」


「あ、うん。三ヶ月ほどバイトを頑張ってたって話してたでしょう?それで買ったネックレスなの。ノノちゃんが大事にしてくれているから本当に嬉しいの。あの時バイトを頑張って良かったわ」

「………っ」



感動に大きく震えるエルノノーラを、カルヴィンは静かに眺めた。


これでますますエルノノーラのルシールへの狂愛が深まるのが目に見えて、ルシールが更に不憫だった。

このままではルシールに近づける男は誰もいないだろう。


『ルシール嬢にもチャンスを与えなくては』

ルシールを憐れむ目で眺めながら、カルヴィンはそう考えた。



聖女ルシールは、セルフィシュ国を大きく救ってくれている。

ルシールが望むならばこのままここで囲っていたいところだが、それはあくまでも「本人が望むならば」の話だ。国として恩があるルシールには、彼女の思いをなるべく尊重したいとカルヴィンは思っていた。


ルシールの通うメイデン学園の秋休みは、もうすぐ終わり、新学期が始まる。


『せめて一学年の間は、最後までメイデン学園に通ってもらってもいいかもしれない』

そんな風にも思う。


この前ルシールを尋ねてきた男は、ルシール嬢にとって悪くない相手に見えた。

メイデン学園に戻ったところで、エルノノーラを護衛から外すつもりはないし、ルシールとの関係を詰めれる可能性はほぼ無いだろう。

だけどエルノノーラに邪魔されて駄目になる関係なら、元々未来は無いという事だ。


カルヴィンがそんな事を考えていると、勇者レオが嬉しそうにルシールに話しかける声が聞こえた。




「食堂デートが婚約者デートなら、俺エルとも、ルシールちゃんとも婚約してたんだ!

ルシールちゃんともこの前一緒に食堂行ったじゃん。

ほら、食材受け取りに行ったとき、ジュースをサービスしてくれたから、一緒に飲んだだろう?」


「え……?でも食堂のおじさんも一緒だったし…」

「ルシールちゃんだって、三人でご飯食べてたんだろう?一緒じゃん」

「え………?」



カルヴィンは戸惑うルシールを再び眺め、ややこしい者に囲まれているルシールを益々不憫に感じていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ