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乙女ゲームに婚約破棄は付きものだというならば  作者: 白井夢子
更なる乙女ゲームの世界とは

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46、その頃のフィナン


「本当に何も聞いてなかったんだな……」

思わずといった感じに呟いたフィナンの言葉に、クレイグは苦々しい顔になった。





ルシールが領地に来れなかった事で、ネネシーがとても落ち込んだ様子を見せていた。


「ネネシーに詳しい事を話さないのは、ネネシーを心配させたくなかったのでしょう。きっともうすぐルシール嬢は無事帰ってきますよ。帰ってきたら、一緒に話を聞きましょう」


そう言って慰めてもネネシーの心は晴れないようで、そんな彼女を見ていられず、クレイグはネネシーがルシールとコンタクトを取れるよう試みる事にした。


あまり気は進まなかったが、フィナンに相談するために、ネネシーと共に彼の領地を訪ねる事にしたのだ。


クレイグがフィナンの元へ向かう事に気が乗らないのは、ネネシーを他の男に会わせなくないから、というだけではない。

フィナンに対して、少し後ろめたい思いがあったのだ。



クレイグは以前、光魔法保持者のルシールが気になっていた。

フィナンもその頃同じように、ルシールを気にしている事は知っていたが、友人の自分に遠慮して、ルシールと一定の距離を保っている事も感じていた。


ネネシーへの愛に気づいた時に、ルシールへの想いはただの光魔法への興味だったと気づいたが、その後もフィナンとルシールの仲に協力はしなかった。

――というより、ネネシーをフィナンから遠ざける事で、ルシールも同じようにフィナンから遠ざけてしまっていた。


ネネシーとルシールが、度々ロングスタン家を訪れるのは、執事のデリクに会うためだとは分かっている。

だけどネネシーがフィナンという、他の男の家に遊びに行く事は受け入れられなかった。

ネネシーがロングスタン家に行けなければ、一緒に行動するルシールも共に行かなくなるだろうとは予想出来たが、それでも止めてしまった。


ネネシーは魔法科に転科してもらったし、休憩時間も放課後も休日さえも、三人で過ごしていた。

「ルシール嬢も」と誘うと、ネネシーが喜んでくれたからだ。


そうなるとフィナンとルシールの接点が無くなることは分かっていたが、フィナンはフィナンで頑張ればいいと思っていたし、ルシールがフィナンを選ばなくてもそれはそれで問題はないと思っていた。


別に悪いことをした訳ではないが、昔からの付き合いのフィナンには、自分の考えはお見通しだっただろうと思うと、やはり気まずいものはある。


『それでも愛するネネシーのために』と向かったフィナンの元で、思ってもみなかった事実を知った。

 



ルシールはフィナンには、事の詳細を手紙で知らせていた。


『勇者様に協力しての魔王討伐計画は、秘密にするべき事でもないようですが、私の力が役に立つとは思えないのです。すぐに帰ってくる事になると思うので、この事を公にされないようにしてもらっています』


手紙の中には、そんな言葉も書き添えられていたそうだ。

その言葉は、ネネシーの活躍を意識した言葉にも捉えられた。


魔王討伐の協力といっても、討伐に同行する訳ではなく、王城の安全な地にいることになると書かれてもいたので、その言葉が本当であればルシールは無事でいると思われる。


ネネシーもクレイグも、魔王討伐の協力という壮大な話よりも――ルシールが自分達に打ち明けなかった事情を、フィナンに打ち明けていた事に驚いていた。







「フィナン様とルルちゃんは付き合っていたのですか……?」


『どうして付き合っていた事を話してくれなかったの』という、ルシールへの思いが顔に出ているネネシーに、フィナンは内心ため息をついた。


ルシールは、フィナンに想いがあって事情を打ち明けてくれた訳ではない。

ルシールが自分への気持ちなどない事は、秋休みに入ってすぐに、街で偶然会った時にも感じた事だ。


討伐合宿でルシールと一緒に過ごす時間を持ったが、その日に目の前の二人の活躍を見る事になり、そこからフィナンも気を引きしめて自分の腕を磨くことに集中していた。

ルシールとの接点となっていたネネシーは魔法科へ移り、執事のデリクへの訪問も途絶えていた。


自分が積極的に動けば違ったかもしれないが、ルシールはいつもどこか思い詰めているようにも見えたし、距離を詰めるような雰囲気でもなかった。

その原因はなんとなく想像出来たが、クレイグと一度話をしようとするにも、クレイグは自分をどこか避ける様子を見せていて、どうする事も出来ないままに秋休みに入ってしまっていた。


そんな自分達の距離感では、秋休みに領地に誘ってもアッサリ断られてしまったが、ルシールが心配でかけた言葉は意外にも彼女に響いていたようだ。


フィナンがかけた言葉は些細な言葉だった。

それなのに自分だけに事情を伝えようと考えてくれた。


『ルシール嬢はどれだけの思いを抱えていたのだろう』

そう考えて、フィナンはため息をつきたい気持ちになる。




「ネネシー嬢、僕とルシール嬢は友達だ。……君も友達ならば、もう少しルシール嬢の気持ちも考えてやってほしい」


フィナンの言葉に、ネネシーが顔をこわばらせる様子を見て、『心当たりはあるのか』とフィナンは思う。

クレイグにも忠告する。


「君達の仲が良いのは結構だと思うが、周りから向けられる目を、少しは気にした方がいいんじゃないか?」


冷静な声でそう言われて、クレイグも「どういう意味だ」と聞き返す事は出来なかった。

あまり良くない話だと想像がついたからだ。



「僕もそろそろルシール嬢に手紙を送ろうと思っていたんだ。送り先を教えるよ」

そう話してフィナンは、クレイグ達にルシールの連絡先を書き写して手渡した。






フィナンの領地からの帰り道、ますます気落ちした様子を見せるネネシーを慰め、彼女を落ち着かせてからクレイグは執事のワルツを呼んだ。

フィナンから受けた忠告をワルツに話し、ワルツはどう思うか聞いてみた。


「お二人の仲がよろしい事は、大変喜ばしい事だと思いますよ。一緒にいたルシール様は大変……いえ、少々困惑される事もあったかもしれないですね」


目を逸らしながら話すワルツを見て、『そういえば』と思い出す事があった。

ルシールを含めた茶会では、必ずワルツは早々に姿を消していた。


『あれは自分達が見苦しかったためなのか……?』

そう思うがクレイグは聞けなかった。

目を逸らすままのワルツに、質問をする前から答えを知った気がしたからだ。




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