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乙女ゲームに婚約破棄は付きものだというならば  作者: 白井夢子
更なる乙女ゲームの世界とは

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33/78

33.新しい乙女ゲームの始まり


「待って!そこのあなた!」

呼び止められた声があまりに可愛い声だったので、思わずエルノノーラは足を止めて振り向いた。


声をかけてきた少女を見て――エルノノーラは息をのむ。



『彼女は私の乙女ゲームのヒロインだ』

見た瞬間、気がついた。


淡いピンク色の柔らかそうな長い髪。

背の高いエルノノーラを見上げる、髪色より少し濃いピンク色の瞳。

手を差し出して支えてあげたくなるような華奢な身体。


光の魔法なのか、細かくキラキラと品良く輝く光を薄く身体に纏っている。


どうしてだろう。

甘いケーキのような香りが彼女から優しく香ってくる。


前世から思い描いてきた妄想ヒロインを目の前にして、エルノノーラは呆然と立ち尽くした。







ルシールは、振り返った少女の姿を見て驚いた。

振り向いたその少女もまた驚いた顔でルシールを見つめている。


『なんて綺麗な子なの』

ルシールは少女を見て思う。


少し年上のように見える彼女は、輝く長い金髪をポニーテールにしている。

ルシールを見つめるその瞳は、真夏の、日差しの強い青空のような深く濃い青だ。

――とても美しい瞳だと思う。


騎士のような格好が、背の高い彼女によく似合っていて、とても素敵だ。


ルシールは少しドキドキしてしまった。


『緊張するわ。……だけど聞いてみなくちゃ』

そう決心して声をかける。



「あの。私は魔法科Sクラス一年の、ルシール・オルコットと申します。よろしければルシールとお呼びください。……あの。あなた()転生者ですか?」


驚いた顔でルシールを見つめていた少女は、ルシールの挨拶を受けて一瞬目を見開いて――そして嬉しそうに笑った。



「私はエルノノーラと申します。セルフィシュ国の第一王子カルヴィン様の護衛をする者です。

私はカルヴィン様の命を受けて、ルシール様にお願いに参ったのですが……そのお話の前にお答えしましょう」


そこまで話すとエルノノーラは声を小さくした。


「私は転生者です。ルシール様もそうなのですね?」


『やっぱり!!』

ルシールは驚きと共に嬉しくなった。


同じ転生仲間であるという事もそうだが、エルノノーラがルシールを見る目が温かくて、ルシールも彼女に親しみを持てたからだ。



「あの、良かったら私の部屋でお話しませんか?私は学園寮で生活しているのですが、同性であれば寮で受付をすれば部屋に入れますし。

相部屋ではありますが、今は秋休みで私一人なのです。

……あの。ご迷惑でなければ、ですが……」


少し興奮しすぎたかもしれない。

食い気味に誘ってしまった自分が恥ずかしくて、ルシールは赤くなって俯いた。


『会ったばかりの初対面の人から、部屋に誘われても不審に思われるだけよね。「やっぱりここでお話ししましょう」と言い直そうかしら』






モジモジと恥ずかしそうに俯くルシールに、エルノノーラの心臓は撃ち抜かれていた。

『私の運命……!!前世から思い描く、私の最愛そのものじゃない!」


心の震えをルシールに気づかれないよう、エルノノーラは平静を装う。彼女には素敵な女性と思われたい。


「ルシール様のお部屋に呼んでいただけるなんて光栄です。そうですね、秘密の話ですからね」


内緒話をするように小さな声で話すと、ルシールの顔が輝いた。


――『可愛い』

エルノノーラの心が震える。


ルシールも同じように小さなヒソヒソ声で言葉を返す。


「私の友達は私の事を『ルル』って呼ぶんです。

エルノノーラ様もそう呼んでいただけると嬉しいです。私もエルノノーラ様を『ノノちゃん』って呼んでもいいですか?」


ヒソヒソと話すルシールの可愛いお願いに、エルノノーラは口が緩んでしまわないよう、口元を引き締める。


『え?そこヒソヒソ声になっちゃう?そこは声を小さくする必要なくない?……何?この可愛さヤバくない?』


ガッと激しく心臓を鷲掴みにされた事を気づかれないように、穏やかに笑いかける事を意識しながら応える。


「可愛い呼び方を付けてくれてありがとうございます。『ノノちゃん』、いいですね。ルル様とのお話が楽しみです」


「私もです!ちょうどケーキもあるのです。お茶を淹れますね」


嬉しくてたまらないといった様子のルシールに、エルノノーラも心が弾んでいった。






寮へと歩きながら、エルノノーラはルシールを見て「おや?」と気がつく。

出会った時にルシールがまとっていた、キラキラと輝く光が消えていたのだ。


「ルル様、まとっていた細かい光が消えたようですが……」


不思議に思ってエルノノーラが尋ねると、ルシールは「何のことだろう?」というように一瞬考える様子を見せたが、「ああ」と呟いた。


「先ほどまで、攻撃魔法の訓練をしていていまして。ちょっと疲れたので、自分に癒しの魔法をかけてみたのです。……自分に癒しの魔法をかけても変わらないんですけどね」


ふふふと恥ずかしそうに笑うルシールを『可愛い』と思いながら、エルノノーラは更に尋ねる。


「どのような魔法なのですか?セルフィシュ国では魔法を使える者が少ないので、もしよろしければ手合わせ願えませんか?

こう見えて私はなかなか強いのですよ」


「私の攻撃魔法は未熟で、お見せするほどではないのです」


ルシールに慌てたように断られて、あまりにエルノノーラが残念そうな顔をしてしまったせいか、

「あの、ノノちゃんの服を駄目にしてしまうかもしれませんが、それでも良ければ……」

そう言い直してくれた。



「ありがとうございます!ぜひ手合わせ願います!」


そう言葉をかけて、周りに危険が及ばないよう誰もいない事を確認して、ルシールと少し距離を取って向かい合った。


『服を駄目にするほどの威力はあるということか。魔法攻撃を受けるのは初めてだから、気を引き締めなくては』


向かい合うルシールを、エルノノーラは注意深く見つめた。





ルシールの足元に、茶色い何かが現れた。

小さな三つの茶色い塊。


『使い魔か?』

――剣に手をかける。


ピルピルピルピルと震える物体をよく見てみると、小さな兎の形をしていた。

『……兎?』


意外な形に気を取られて、避けるのが遅れた。

ピョーンと飛んだ三羽のうちの二羽が、エルノノーラのお腹と足元に当たる。


――ペシャリと服を汚す。

一羽は足元にも届かず、落ちて崩れていた。


「やった!当たっ―あ。大丈夫ですか!」

ルシールは一瞬輝くような笑顔を見せたが、慌ててエルノノーラに駆け寄って、ハンカチで泥を払ってくれる。


その顔は、申し訳なさそうでありながらも、どこか誇らしげだ。




エルノノーラは動けなかった。


心臓を撃ち抜かされるのは、これで何度目だろう。

ダメだ。苦しいくらいに愛おしい。

ルシールは、エルノノーラの脳内妄想ヒロインそのままなのだ。

前世からずっと出会いを待ち望んでいたヒロインが、今目の前にいる。


『これからこの愛しいヒロインちゃんの側にいるのは、私だ』

そう固く心に誓う。






ピンク色の髪のルシールを愛するエルノノーラは、金髪碧眼の騎士だ。


ピンク色のヒロインと、金髪碧眼のヒーロー。

騎士と魔法使いがいる世界。

エルノノーラの祖国、セルフィシュ国には勇者もいる。――黒髪だが。


みんなの勘違い要素を、少しずつ詰め込んだ世界なのだ。







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― 新着の感想 ―
[良い点] ルシール、新たな出会にワクワクしております。今後の活躍が楽しみすぎる。なんだかんだでルシール推しになってます。 [気になる点] ルルちゃんとネネちゃんとノノちゃん、、微妙な三角関係が楽し…
[良い点] かわいい世界!嫌な人たちも極悪じゃなくてホッとします。 [気になる点] ネネちゃんとルルちゃんはどうなるのかな… [一言] 婚約破棄から始まるガールミーツガール(๑′ᴗ‵๑) 優しいかわい…
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