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乙女ゲームに婚約破棄は付きものだというならば  作者: 白井夢子
乙女ゲームの世界とは

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30.学園の秋休み


もうすぐ学園は秋休みに入る。


秋休みは学園で一番大きな休みで、一ヶ月半もの長い休暇になる。その長い休みは、学園寮に入っているほとんどの者も、領地に帰り家族や友人達と過ごすような期間だ。


ルシールも田舎の両親の元に帰るつもりでいたが、ネネシーは寮に残るつもりだと話していた。


ネネシーの実家はこの秋休みの間に、お兄さんが近々結婚する恋人を連れて帰って来るらしい。

ネネシーの家もルシールと同じく極貧の家なので、客人を迎える部屋がない。

「兄様の恋人さんには、私の部屋を使ってもらう事にして、私は秋休みは寮に残るつもりなの」

そうネネシーは話していた。


それを聞いたルシールも、ネネシーと共に寮に残る事を決めた。

両親には秋休みには帰らないことを手紙に書いて送り、両親もルシールの旅費の心配をしていたので、それには納得してくれていた。




そうして二人で秋休みを過ごす計画を色々立てていたのだが……


クレイグがネネシーを領地に誘ったようだ。

それを先日ネネシーが遠慮がちにルシールに話してきた。


「クレイグ様が『秋休みは領地で過ごさないか』って誘ってくれたの。領地の方でも討伐が必要みたいでね、それを手伝ってほしいんだって。ぜひルルちゃんも一緒に、って。

あ。討伐は、前の合宿の時みたいに、行ってもすぐ帰るみたいだよ。

領地では大きな収穫祭もあるんだって。ルルちゃん、一緒に遊びに行ってみない?もちろんワルツさんも一緒だよ!」


そう誘ってくれた。




ルシールはその誘いを聞いた瞬間――ドクンと心臓が鳴った。


「ごめんね、ネネちゃん。実はさっきお母様から手紙が届いて、『やっぱり秋休みは家に帰って来てほしい』って書いてあったの。私の誕生日がもうすぐだから、家族でお祝いを考えてくれてるみたい。

クレイグ様がネネちゃんを誘ってくれて良かったわ。楽しんできてね」


咄嗟に嘘をついてしまった。

考える事もなく、自分でも驚くくらいにスラスラと言葉が出てきた。


「そうなんだ……。あ、でも。家に帰るって言っても二週間くらいだって言ってたよね。じゃあその頃になったら寮まで迎えにくるね。

私もルルちゃんのお誕生日をお祝いしたいの。クレイグ様の領地でお誕生日会を開こうって話してみるね。

クレイグ様も、ルルちゃんにも領地にぜひ来てほしいって話してたから、きっと喜んで私をお迎えに行かせてくれるよ!」


「……そうかな?」

「そうだよ!」

「………じゃあお迎え、お願いしようかな」


それ以上断れなくて、ルシールはお迎えの誘いを受け入れた。





その後ルシールは一人になった時、静かに深いため息をついた。

クレイグの領地に向かうことを断りきれなかった事に、少しだけ気が重く感じていた。



クレイグがルシールを「ぜひに」と誘う言葉が本当だとしても、それはネネシーを呼びたいためだ。

ルシールが「領地には行かない」ときっぱりと断れば、ネネシーもきっとルシールを気遣って「私もルルちゃんのいる寮に帰る」と答えるだろう。


自分のせいでヒロインのネネシーとヒーローのクレイグの恋を邪魔する訳にはいかない。

ルシールはネネシーの恋を邪魔する悪役令嬢になるつもりはなかった。


だけどルシールがクレイグの領地に行ったところで、目の前でクレイグの溺愛ぶりを見せつけられて、いたたまれない思いをするのは目に見えてるし、ネネシーが討伐から早く帰るのも「ルシールのため」とされたら、それほど心苦しいものはない。



収穫祭は面白そうだと思う。

だけどそれを楽しめない自分も想像できる。


咄嗟に嘘をついてしまった事にも、はっきりと誘いを断れなかった事にも、自己嫌悪しかない。自分自身が嫌になる。


ルシールは何度目になるか分からないため息を、また一つついた。





修了式が終わると、ネネシーはそのまますぐにクレイグの領地に向かう事になった。


「じゃあまた二週間後に迎えに来るね。帰省を楽しんできてね」

ネネシーは、馬車まで見送るルシールと笑顔で手を振り合った。




小さくなってゆくネネシーを乗せた馬車を見送りながら、ルシールは小さくため息をついた。


最後までネネシーには話せなかったが、結局ルシールは帰省をしない事を選んだ。

家に帰ってしまったら、もう学園に戻る事が嫌になってしまいそうだったからだ。


帰省しても、二週間後にはまた学園に戻る事になる。そこでネネシーのお迎えを待ち、そこからクレイグの領地で沈んだ気持ちで一ヶ月も過ごす事になる。


本当は討伐に行かなければならないのに、ルシールが領地に来たために、大事な討伐を中断する事になるかもしれない。

クレイグの知人でしかない自分が、クレイグの領地で誕生日会を開いてもらう事も心苦しかった。

『恋人の友達』というだけの関係なのに、クレイグの好意に甘えるようで恥ずかしかったのだ。

クレイグの領地に向かう事が、日に日に気が重く感じられて、そんな風に思ってしまう自分も嫌になっていた。


きっと優しい両親の顔を見たら甘えが出て、「もう学園に戻りたくない」と泣いてしまいそうだった。


だからそのまま一人で寮に残る事にした。

一度気持ちを崩してしまったら、そこから立ち直れる自信がなかったのだ。




ルシールは、自分が卑屈になっている事にも気づいている。


『もし、「五大魔法保持者」の名に相応しいくらいの魔法の才能を持っていたら』

――最近よく考える「もし」だ。


『もしそんな才能を持っていたら、きっとネネちゃんの好意もクレイグ様の好意も、素直に受け取る事が出来ると思うのに』

そんな風に考える。


『ネネちゃんは相変わらず私を気遣ってくれるし、とても優しいのに。その好意に気が重くなるのは、私に自信がないからだわ』

そうとしか思えなかった。





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