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乙女ゲームに婚約破棄は付きものだというならば  作者: 白井夢子
乙女ゲームの世界とは

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27.変化を見せるかもしれない関係


「私が魔法で考えた技を先に説明しておきますね」

ルシールはそう言ってフィナンに説明を始めた。



クレイグとネネシーが討伐に出た後、フィナンとルシールは一緒に朝食の片付けをして、再びテーブルを挟んで向かい合った。

攻撃魔法の練習に付き合ってもらう前に、ルシールの魔法の腕のレベルを説明する事にしたのだ。


ルシールの微弱な魔法では、フィナンに怪我をさせる事も出来ないかもしれないが、万一の事があったら大変なので、話を先にしておきたいとフィナンに伝えていた。



「私は一つ一つの魔法が弱いので、二つの魔法を掛け合わせてみる事にしたのです。たとえば火の魔法では、焼きマシュマロくらいしか焼けないのですが――」

「焼きマシュマロ?」


思わずフィナンが聞き返した。


「あ。はい。フィナン様は焼きマシュマロを食べたことはないですか?」

「……ないな」

「マシュマロはネネちゃんが好きなので、持ってきていますよ!早速作ってみせますね!」


そう嬉しそうに話すと、ルシールはマシュマロを袋からゴソゴソと出してきて、マシュマロにプスとフォークを刺してみせた。


「外で枝に刺して食べる方が美味しい物ですけどね。

――はい、焼けましたよ。どうぞ」


綺麗に焼き色を付けて、プウと膨らんだマシュマロをフィナンに手渡しすと、焼きマシュマロを食べたフィナンは「なかなか美味しいな」と褒めてくれた。


その言葉が嬉しくて、もう一つ焼いてフィナンに手渡し、自分の分もついでに焼き、あちちと言いながらもちゃもちゃと食べる。



「それから風の魔法です」

ついでに他の魔法の腕も見ておいてもらおうと、ルシールが手をフィナンに向けて、爽やかなそよ風を生み出した。

フィナンの銀髪の前髪が、サラサラと揺れる。



「水の魔法になります。私はコップに軽く一杯くらいしか出せないのですが……」

そう話しながら、空のコップに水を湧き立たせて、ついでに癒しの魔法を重ねて、フィナンにコップを差し出した。

「癒しの魔法を重ねたので、疲れが取れますよ。もし良かったらどうぞ」





「ありがとう」

お礼を言いながらコップを受け取ったフィナンは、そんなルシールの様子を眺めた。


『彼女との時間は心地がいいものだな』

フィナンはそう感じていた。


こうして二人で過ごすのは初めてだったが、ルシールは共にいる相手に居心地のいい時間を与えてくれる者だと思う。


だけど彼女はクレイグの想い人なので、フィナンはルシールに好意以上の感情を持つつもりは無い。

『あまり踏み込み過ぎない方がいいだろう』

そう考えて、ルシールを外に誘う。


「良い魔法だな。続きは実戦しながら見ていこう」

そう言ってフィナンは立ち上がった。






「それでは。火の魔法と風の魔法を掛け合わせた魔法攻撃です。……行きますよ。や!」


勢いよく噴射する炎をイメージして、ルシールが魔法を放つ。

今日はとても強い魔法を放てる気がしていた。

いつもより気合い入れて放った魔法だった。


シューッ…


終わりかけの手持ち花火のような弱々しい炎が小さく飛んだが、少し離れたフィナンまでも届かなかった。


『この前はもっと遠くまで飛んだのに……』

ルシールは今日の自分にガッカリする。






「…………」

いくら最弱魔法といえど、二つの魔法を組み合わせた攻撃など聞いたこともなかったフィナンは、油断する事なく構えていたが、小さな炎は自分に届く事もなかった。


何を言えばいいか分からないが、ルシールが悲しそうな顔になるのを見て、フィナンは言葉をかける。


「……そうだな。少し離れすぎた。もう少し近ければ十分な攻撃にもなるな」

――ひとまずそう声をかける。




フィナンのその言葉に、少しだけホッとした顔を見せたルシールは、次の技を披露すると宣言した。


「次は、風と土と水の魔法です。……行きますよ。や!」

『今度こそ挽回しなくては』と慎重に魔力をこめると、ルシールの足元に泥で出来た兎が現れた。


手のひらサイズの小さな兎が三羽、ピルピルピルピルと小さく震えている。

水分多めの泥兎は、風魔法で細かく震えてしまうのだ。



『兎?以前話していた泥兎とは、この事か』

思わず兎を見つめると、震えるだけだった三羽の兎がピョーンと突然飛んで、そのうちの一羽がペシャとファナンの胸に当たって潰れた。

――残りの二羽はフィナンまでも届く事なく、地面にペシャと落ちて崩れている。


水分多めの泥兎がフィナンの胸元を汚す。


「当たった!――あ。大丈夫ですか、フィナン様!

大変です。汚れてしまいましたね」


慌てて走り寄ったルシールが、フィナンにハンカチを差し出した。




「―――いや。大丈夫だ。なかなか意表を突く魔法だな。驚いたよ。魔法を掛け合わせる技なんて初めて見たからしな」


そう言って笑うと、少し息切れをさせるルシールに気がづいて、フィナンは「少し休憩をしよう」とテントに誘った。




テントに入りながらフィナンは口を引き締めた。

『笑ってはいけない』そう自分に言い聞かせる。


泥兎がフィナンに当たった瞬間、ルシールは勝ち誇ったかのように誇らしげに笑った。

――ほんの一瞬だったが。

急いで駆け寄ってハンカチを差し出しながらも、どこか満足そうに見えたルシールを、思わず可愛いらしいと思ってしまった。


ルシールはおそらく、「土の塊より水を含んだ泥の方が攻撃威力が増すのでは」と考えたのではないかと予想する。

ルシールなりに真剣に魔法に取り組んでいるようなので、「可愛らしい」などという、そんな言葉は望んでいないだろうが、ルシールの行動のひとつひとつに好感が持てた。


『あまり彼女に近づき過ぎるのもよくないな。クレイグも彼女に惹かれているし、気を許しすぎないようにしなくては』

そう考えながら、フィナンは改めて気を引き締めた。




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