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乙女ゲームに婚約破棄は付きものだというならば  作者: 白井夢子
乙女ゲームの世界とは

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25/78

25.それぞれの時間


今日はネネシーの初魔獣討伐日だ。

魔獣を討伐すると言っても、かなり遠くから魔獣に向かって魔道具を投げつけるだけだし、ネネシーには魔法科イチ優秀なクレイグが付いているので心配はない。


そうは言っても、留守番するだけのルシールもやっぱり緊張してしまっているのか、いつもよりかなり早起きをしてしまった。


もう一度眠れそうにないので、ルシールは起きる事にして身支度を整えた後、キッチンにでも向かおうかと部屋の扉を開けた。




部屋の扉を開けると、ルシールの向かいの部屋の扉が開いた。

「ネネちゃん!――もう起きたの?……もしかして眠れなかった?」


廊下に声が響かないように、扉から顔を出したネネシー小さな声で問いかける。



「ルルちゃん、おはよう。少し緊張してるのか、目が覚めちゃったんだ。――あ。大丈夫。ちゃんと眠れたよ」

ネネシーの言葉に眉を下げたルシールに、慌てて言葉を足した。



「ルルちゃんもう起きたなら、お弁当と朝ごはんを作っちゃう?」

「うん。時間がまだたくさんあるから、お弁当はサンドイッチじゃなくて、ベーグルでもいいかも」

「ベーグル大好き!」


二人で小さな声で盛り上がると、仲良くキッチンに向かっていった。




ベーグルは、食パンよりはるかに短い時間で作る事ができる。

水分少な目の固めの生地を力強くこねる事になるが、ネネシーがいれば全く問題ない。


粉と砂糖と塩とドライイーストと水、というシンプル極まりない材料は、極貧の二人にとっては有り難いものだったし、休みの日にはしょっちゅう作るものだ。


手慣れた様子でぎゅっぎゅっとパン生地をネネシーがこねている間に、ルシールは朝食のスコーンを用意する。


いつもはオイルスコーンだけど、今日は贅沢バターたっぷりスコーンにする。

小さくカットしたバターを、砂糖と塩を入れた粉の中でポロポロに潰して、牛乳を加えてまとめ、何度か生地を折りたたむ。

その生地を丸い型で抜いて、牛乳を表面に塗って、オーブンに入れて15分焼いたら完成だ。

スコーンはこれでよし。



スコーンが焼き終わると、寝かせておいたベーグル生地を輪っか状にして、砂糖を加えたお湯で茹で、オーブンで15分焼けばベーグルも完成だ。

ベーグルが冷めれば後は具材を挟むだけだし、ベーグルサンドお弁当も、これで大丈夫。


あとは朝食に簡単サラダと大きなウインナーを炒めて、スコーンに添える生クリームやジャムやフルーツを用意すれば、朝ごはんは完璧だ。



「ベーグルサンドは、クリームチーズとサーモンとレタスがいいな」

「スパイス効いたお肉のスライスと、チーズと、薄切り玉ねぎの、ボリュームある組み合わせも要るよね」

「トマトもゆで卵も入れちゃおう」


そんな相談をしていると、フィナンとクレイグがダイニングに入ってきた。

「二人ともこんな朝早くから朝食の準備をしてくれたんだな。とても美味しそうだ」

「お弁当の用意ですか?お昼も楽しみですね。ありがとうございます」



「フィナン様、クレイグ様、おはようございます。お二人とも早いですね」

「おはようございます。早速朝食にしましょう。飲み物は、紅茶とココジュースを用意してますよ」


ルシールとネネシーも挨拶をして、四人でワイワイとテーブルを囲んだ。



フィナンとクレイグとは、この討伐合宿のための相談を重なるうちに、以前より気安く話せる仲になっていった。


騎士科イチ、魔法科イチのモテ男達。

ルシールもネネシーも、モテ男の一人とは同じクラスだったが、自分とは関わる事のない遠い人で、気にした事もない人だった。


入学してからすぐに出来た婚約者のためのバイトに明け暮れて、婚約者との仲を深める事さえ気が回らなかったのに、他の者などに視線を向ける余裕が無かったのだ。


こうして話していると、彼等がモテ男である事に納得が出来る。

能力がある上に、顔良し、スタイル良し、性格良しであれば、惹かれない者などいないだろう。


そんな彼等を射止める事が出来るのは、きっとこの世界の選ばれしヒロインくらいだ。


『ヒロインのネネちゃんならともかく』

『ヒロインのルルちゃんならともかく』

とルシールとネネシーは思う。


『今日一日、素敵な彼と過ごす事になっても、玉砕する未来しかない彼の事を、うっかり好きになったりしないように気をつけなくちゃ』

そう自分に言い聞かせた。





ルシールはチラリと隣にいるフィナンを見る。


朝食後の今は、クレイグとネネシーは今日向かう討伐地の打ち合わせ中だ。

真剣な顔をして向かい合う二人に、ルシールが入り込む隙はない。

お似合いの二人を嬉しく思うが、大好きなネネシーが、クレイグにだけ意識を待って行かれる事は少し寂しく思う。


二人の恋を応援するルシールさえそうなのだ。

本当はネネシーのヒーローだった騎士のフィナンの寂しさは計り知れないだろう。



「フィナン様。お昼のお弁当作りを手伝ってもらえませんか?お肉の塊のパストラミをスライスしてもらえると助かります」

「何でも言ってくれ」


フィナンの寂しい気持ちが少しでも紛れるようにと、ルシールが手伝いを頼むと、フィナンが快く応えてくれた。




「わあ!フィナン様、お肉のスライス上手ですね!さすが騎士様です!」


パストラミはスパイスが効いたお肉だ。

討伐前の買い出して買ったパストラミを、フィナンがスライスしてくれているのだが、薄く均一にカットする様子を見て、思わずルシールはパチパチパチとフィナンに拍手を送る。


「包丁を持ったのは初めてだが、なかなか面白いな」

そう笑って楽しそうにルシールの手伝いをしてくれた。


ルシールが、横半分にカットしたベーグルに具材を詰めていくと、隣でフィナンが完成したサンドをワックスペーパーで包んでくれていく。

彼はなかなか手先が器用なようで、危なげなくボリュームベーグルサンドを包んでくれていった。




ワイワイと二人がお弁当を作っていく姿を、ネネシーは複雑な気持ちで眺めていた。

ルシールと一緒に料理をする相手が自分ではない事を、少し寂しく思ってしまう。


チラリとネネシーの横に座るクレイグを見る。

今、今日の打ち合わせをするクレイグも、ネネシーと同じ寂しさを感じでいるようだ。

――いや、ネネシー以上と言えるだろう。


当たり前だ。金髪碧眼の彼こそが、本当のルシールのヒーローだったのだ。銀髪のフィナンと仲良くする様子を見て、何も感じないはずがない。



『少しでもクレイグ様の気が紛れますように』

そうネネシーは思いながら、クレイグに声をかける。


「今日の討伐実験が成功したら、今夜はみんなでお祝いしましょうね!」

そう言ってフィナンに明るく声をかけた。



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