24.合宿初日で作るもの
討伐合宿初日。
学園を早朝に出発して、お昼前にはキャンプ地に着いた学園生達は今、各々のチームに別れて討伐用テントを立てているところだ。
そのほとんどのテントは、簡易キッチンやシャワールームの付いた、学園から貸し出される物である。
だけどルシール達のチームは、フィナンが家で使う本格的なテントを用意してくれたので、より快適なキャンプ生活を送れそうだった。
さすが武家のロングスタン家だ。
本格キッチン付きである事はもちろん、大きな個室の中にはゆったりと入れる湯船付きのシャワールームまで設備されていて、ルシールやネネシーの貧乏男爵家よりも豪華な造りだった。
フィナンのテントは組み立ても簡単で、他の生徒達がテントを組み立ている中、すでにルシール達四人は自分達の荷物の片付けも終わっていたので、早めの昼食をとってしまおうかという話になった。
フィナンとクレイグは昼食後に早速、現地の下見を兼ねて討伐に出るらしい。
明日クレイグと共にネネシーが討伐に出る予定なので、危険がない場所を確認してくるとの事だった。
本当に頼りになるヒーロー達だと、ルシールとネネシーは心の中で思い合っていた。
『ネネちゃんのヒーローになるクレイグ様は、ネネちゃんに危険がないように気遣ってくれるのね。
騎士のフィナン様は、ネネちゃんとの恋が報われない攻略対象者になっちゃったけど、クレイグ様に協力を惜しまないなんて立派だわ』
そうルシールは安心する。
『フィナン様は、明日ルルちゃんを守るために、今日のうちに討伐を進めたいのね。フィナン様は銀髪だけど、本当に頼りになるルルちゃんのヒーローね。
クレイグ様は、そこに協力してあげるなんて立派だわ』
そうネネシーは感心する。
二人の立派なヒーロー達のために、ルシールとネネシーは手早くお昼ご飯の準備をする事にした。
今日のお昼はボリュームサンドイッチだ。
ネネシーが目玉焼きを焼いた後に、分厚く切ったベーコンをじゅうじゅうと焼く。
その間にルシールは、昨夜作った食パンをカットしてトーストする。レタスを洗って水気を切り、トマトをスライスして、下準備は整った。
あとは組み立てていくだけだ。
トースト二枚にバターを塗って、片方のトーストにレタスを敷く。
その上に、ベーコンを置き、目玉焼きを置き、さらにスライスチーズも重ねる。
マヨネーズと粒マスタードを合わせたソースを全体にたっぷりかけて、スライスしたトマトを乗せて、更にレタスを乗せて、もう一枚のトーストで蓋をして組み立て完成だ。
そのままでは分厚すぎて崩れてしまうので、クッキングシートに包んで、シートごと半分にカットして、美味しそうな断面が見えるようにお皿に置く。
ルシールとネネシー特製のBLTサンドだ。
ベーコンは少し粗挽き胡椒多め、特製ソースは粒マスタード多めの、二人のこだわりのサンドイッチである。
いつもはトーストにバターなんて塗らないし、ベーコンさえ入らない事が多い。
だけどこの討伐キャンプは、フィナンとクレイグが食べる物なので、節約料理は封印する事にしていた。
食材もフィナンとクレイグの家から、たっぷり用意してもらっている。
サンドイッチは、焼いて挟んだだけの物なので、自信を持ってフィナン達には出す事が出来た。
「本当に料理が上手いな」
「すごく美味しいですね」
簡単な手料理ではあったが、褒めながら美味しそうに食べてくれるフィナン達に、ルシールとネネシーは嬉しくなってしまう。
「魔獣に気をつけてくださいね」
「帰る頃には夜ご飯もオヤツも用意してますからね」
そう言って二人の男達を外まで見送ると、二人は少し照れたように手を振って討伐地に向かって行った。
「よし!色々作ってみよう!」
「カッコいい!ルルちゃん!」
パチパチパチとネネシーが盛り上げる。
魔法の保存袋には食材がたくさん詰まっている。
ルシールとネネシーの憧れのバターはもちろん、スパイスもお肉もたっぷりだ。
討伐前に作ってみたいと思った物のレシピを、図書館で調べて書き写してきたので、迷いなく作ることが出来る。
「こんなにスパイスがあるなら、クラフトコーラ作りは必須だよね。スパイスたっぷりのクラフトコーラは、栄養たっぷりだし、疲労回復に効くから作ってみよう!」
「コーラなんて素敵!」
二人は盛り上がる。
ルシールとネネシーは、たくさんのスパイスの中から、クンクンと匂いをかいで、好きなスパイスを選んでみる。
クラフトコーラ作りは簡単だ。
レモンを輪切りにして、砂糖と好きなスパイス入れて10分ほど煮込んで完成だ。
「討伐から二人が帰ったら、早速炭酸で割って飲んでみよう!」
「楽しみだね」
早速一品完成で、ルシールとネネシーは笑い合う。
そしてコーラと一緒につまめる、軽いクッキー作りに取り掛かる。
討伐地でのクッキーは、バターたっぷりの贅沢クッキーにする。
バターとお砂糖をネネシーがくるくると泡立て器で混ぜると、あっという間にクリーム状になる。
そこに卵を混ぜ合わせて、粉を入れてさっくり混ぜれば、生地の完成だ。
時間はたっぷりあるので、いつもの棒状に伸ばしたものをカットするのではなく、可愛い形に型抜きする事にした。
ポコポコとクッキー生地から型を抜きながら、ネネシーはふと気になった事をルシールに尋ねた。
「ルルちゃん、攻撃魔法の訓練をしてるんだね。ルルちゃんも討伐参加希望なの?」
ルシールが攻撃魔法を訓練するのは、いざという時はネネシーを守れる力を持ちたいためだ。
「討伐をしたい訳じゃなくて……ほら、ネネちゃん話してたでしょう?ネネちゃんの幼馴染の子、ちょっと怖い子だって。
もしもネネちゃんに危険があった時、私に力があればちゃんと助けられるから、少し強くなりたいの」
「ルルちゃん……!!」
ネネシーは涙が出そうなくらいに、ルシールの言葉が嬉しかった。
ネネシーと同じくらい臆病なルシールが、自分のために強くなりたいと思ってくれた事に心を打たれたのだ。
そんなルシールを、ネネシーもいざという時には守ってあげたいと強く思った。
『私もルルちゃんのために強くなりたいな。剣……は無理だけど、私のこの力が役に立てたらいいのにな」
そんな風にネネシーも考えた。




