22.落ちこぼれ達の評価
結局討伐合宿は、フィナンとクレイグ、そしてネネシーとルシールの四人でグループを組むことになった。
フィナンと討伐合宿チームを組むことが決まった翌日に、クレイグも「是非自分も」と名乗り出てくれたのだ。
ルシールとネネシーは、自分達が討伐点数を稼げない事を説明したが、「それでも」とクレイグは言ってくれたので、奇跡の四人チームが出来上がった。
騎士科イチ、魔法科イチの実力者のフィナンとクレイグ。騎士科イチ、魔法科イチの落ちこぼれのネネシーとルシール。
――これがチームメンバーだ。
この組み合わせを奇跡と言わなくて何と表現したらいいだろう。
優秀な彼等の足を引っ張るしかないルシールとネネシーに、皆が厳しい目を向けてくる事を二人は予想していたが、意外にも周りの反応は穏やかなものだった。
落ちこぼれの自分達が足を引っ張る事で、他のグループと成績バランスが取れるようになるため、むしろ喜ばれている雰囲気さえ感じられるほどだった。
『最弱理由が喜ばれるなら良かった』
ルシールとネネシーはそう思う事にした。
二人で最弱なら心強かった。
討伐合宿期間は一週間もある。
だけど1週間もと感じているのは、ルシールとネネシーくらいかもしれない。
最弱な二人が例外なだけで、他の生徒達は真剣に騎士や魔法使いを目指している。
無事夢が叶った場合、卒業後には魔物討伐に向かう事も大いにあり得るし、その場合一週間どころの旅で終わる訳がない。
「討伐の模擬体験みたいなものとはいえ、合宿が一週間なんて短い」
――クラスの中ではよく話されている話題だった。
呑気に『一週間分の献立を考えるのは大変』と考えているのは、ルシールとネネシーくらいのものだろう。
討伐合宿前は、授業の代わりに事前計画相談の時間を多く取られていて、その時間は大教室の中で、チームごとに別れて討伐計画を練る事になっている。
領地での魔獣討伐に慣れているフィナンとクレイグは、討伐の流れを完全に掴めているため、サラサラと迷いなくチームの討伐計画書を書き上げて、早々に提出していた。
そんな彼等の姿を見て、
『さすがヒーローは違うわね』
ルシールとネネシーは感心した。
討伐計画書を提出した後は自由時間になる。
その時間は四人で机を囲み、ルシールとネネシーが連日真剣な顔で討議する時間となっていた。
「ネネちゃん、メニューはこんな感じかな。朝ごはんは食パンかベーグルかパンケーキで、お昼のお弁当は日替わりサンドイッチにする?」
「お弁当にキッシュの日も作ろう。あ、パンプディングも試してみたいな。お肉は下味を付けたものを持っていく?」
ルシールはガリガリとメニューを書き出していく。
「ココの実は討伐地にも落ちてるかな?レモンシロップも持って行こうね!」
「はちみつも持っていかなくちゃ。夜ごはんにネネちゃんが好きなチキンのハニーマスタード焼きも作ろうかな」
「大きなお鍋がないから、お鍋が二つは要るね。フライパンも二つ。オーブンは……馬車に入るかな?」
二人の話を楽しそうに聞いていたフィナンが言葉をかける。
「僕の家の討伐用テントは、キッチンも個別寝室もあるし、家財道具や調理道具も揃ってるから、大きな荷物は必要ないよ」
クレイグもフィナンの言葉に続く。
「僕の家の魔法の収納袋は、限界がないからどれだけでも入りますよ。保存魔法をかければ食材が傷むこともないですし。今度みんなで買い出しにでも行きましょうか」
「すごいね……」
ルシールとネネシーは感心するしかない。
それだけの物があれば、自分達の料理など必要無いのではないかと思うが、先生達から「君達には討伐地は危険だから、良いグループを組めて良かったな」と声をかけられているし、そのままフィナン達のチームに入らせてもらう事にする。
「たくさん荷物が持って行けるなら、お砂糖や粉も30kgの袋ごと持って行っちゃおうか」
「ネネちゃん素敵!いつもネネちゃんのおかげで、大きな袋で買えてるよね。それだけの粉があれば、討伐地で計画以上に色々な物が作れそう!」
「じゃあスコーンも食べたいな」
「スコーン、良いよね!チョコ入りとナッツ入りと……ベーコンチーズ入りも良いかも」
「ルルちゃん素敵!合宿がすごく楽しみ」
キャッキャッと盛り上がるルシールとネネシーの席に、他のチームの者達が羨ましそうな視線を向ける。
魔法科と騎士科で最弱の二人は、どちらの科でも実は好意的に見られている。
ルシールは貴重な光魔法保持者だし、ネネシーは超越した「力」の持ち主だ。更にネネシーは、皆が嫌がるような力仕事も、進んでスイスイとひとり片付けていってくれる。
プライドの高い者達が揃うSクラスの中で、穏やかそうな二人はわりと癒しの存在だった。
人気があるにも関わらず、誰も二人に話しかけない事には理由がある。
入学してからすぐに婚約者を作った二人は、すぐにバイト漬けの生活で、いつも忙しそうだった。
放課後は終礼の鐘が鳴ると同時に教室を出て行ってしまうし、休み時間は課題に必死に取り組んでいた。
話しかけるのが憚られるほど、いつも何かに追われている様子を見せていたのだ。
婚約者と破綻したという噂が流れると同時に、バイト漬け生活も終わりを告げたようだが、今度は仲の良過ぎる親友を見つけたようで、授業以外に教室で彼女達を見かける事は無くなった。
いつも楽しそうに笑い合っている二人とお近づきになりたいと願う男子生徒も多くいたが、Sクラスイチのモテ男達が気にする様子を見せる彼女達に、気軽に声をかける事も出来なかったのだ。
きっとフィナンとクレイグの率いるチームの討伐合宿は、「楽しい」しかないに違いない。
二人の男ならば討伐点数に心配は無いし、テントに戻れば仲良く楽しんでいる二人が待っている。――それは癒しの空間だろう。
『あのチームが羨ましい』
奇跡の四人チームは、皆の羨望を密かに集めるチームだった。




