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乙女ゲームに婚約破棄は付きものだというならば  作者: 白井夢子
乙女ゲームの世界とは

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20/78

20.食パンを作りながら


ロングスタン家から寮に戻ったルシールとネネシーは、明日のための食パン作りを始めた。


パンは焼き上がるまでに時間がかかるので、平日は夕方から作り出す事が多い。朝食用のパンを、夜に焼き上げておくのだ。


ネネシーが力強くこねあげてくれる生地は、とても美味しく焼き上がる。

何度か生地を休ませたり発酵させたりする必要はあるが、二人でお喋りしながら発酵を待つ時間も楽しい。

だからパン作りは二人にとっての楽しい時間でもあった。


ルシール達がパンに使う材料は、バターではなくてオイルだ。

食パンの材料は、粉と砂糖と塩とドライイーストとスキムミルクとオイルさえあれば出来るので、材料のストックさえあれば買い物に出かける必要もない。

街に出れば、ついつい美味しいものに目がくらんでしまうので、買い物要らずの食パン作りは節約料理と言えるだろう。


将来カフェ開店を目指すルシール達には、素晴らしい料理とも言えるものの一つだった。



今日もネネシーが力強く生地をこねあげてくれた生地を休ませながら、二人はお喋りをする。




話題は自然と、討伐合宿に同じチームに参加してくれる事になったフィナンの事になる。


「フィナン様、本当に優しいね。魔物が出る討伐地は危ないからって、同じチームに入ってくれるなんて。試合で剣を持つ時は、目を瞑っちゃ駄目だって、ネネちゃんにアドバイスもくれてたね」


「剣を向けられると、勝手に目が閉じちゃうんだ。もし目を開けていられたとしても、何も出来ないんだけどね。

もしも貧乏じゃなかったら、騎士の道は選ばなかったと思うな」


ふうとネネシーがため息をつく。


「その気持ちは分かるよ、ネネちゃん。私も貧乏じゃなかったら、魔法科は選ばなかったと思うわ。魔物を見るのも怖いし、攻撃魔法なんて高度な魔法は一生使える気がしないもの」


ふうとルシールもため息をつく。


そして、「そういえば」と思い出す。

「乙女ゲームの世界に婚約破棄は付きものだけど。

私に婚約破棄を突きつけたヒーロー役のハロルド様は、自宅謹慎しちゃってるわね。

そんなヒーローの乙女ゲームって、需要があるのかしら?」


「私の乙女ゲームのヒーロー役のヴェイル様も、同じく自宅謹慎中だしね。

婚約破棄を無事に終えたヴェイル様は、ハッピーエンドのエンディングを迎えてたはずなんだけど……

ハッピーエンドの先って、それほど幸せはないものなんだね。

ヒロイン役は幼馴染のサブリナだけど、あの子の求めた幸せってこれなのかな」


ネネシーが話しながら首をかしげる。



「私の乙女ゲームのヒロイン役は、同じ寮のシンディだけど……平民寮から貴族寮へは来れないから会うこともないし、彼女が幸せかは私も分からないわ。彼女は普通科で科も違うから、学園でも会わないもの。

だけどヒロインは、ヒーローと幸せになるっていう決まりがあるわ。

ヒロインはどんなヒーローとでも、一緒にいるだけで幸せなはずよ」


ルシールがそう言うなら、そうなんだろうなとネネシーは思う。

「そっか……そうだね。それなら安心だよ。幼馴染のサブリナはちょっと怖い子だから、幸せで穏やかな気持ちでいてほしいんだ」




――ちょっと怖い子。

その言葉にルシールが引っかかる。

もし少しでもネネシーに危険があるなら、いざという時に守れるくらいに強くなりたい。


『少しくらい攻撃魔法が使えるように練習してみようかしら?』

ネネシーを想って、少し魔法の特訓でもしてみようかしらとルシールは考えてみた。


『一番良いのは、フィナン様がネネちゃんのヒーローとして、ネネちゃんを守ってくれると安心なんだけどな。騎士のフィナン様は乙女ゲームの条件を満たしているし、同じ騎士科だから学園でいつでも近くにいられるもの』

そんな風にも思う。


『ネネちゃんの気持ちを確かめよう』

そう考えたルシールは、ネネシーに尋ねる。


「ネネちゃん、フィナン様って素敵だと思わない?乙女ゲームのヒーローは騎士様って決まってるから。フィナン様がヒーローじゃないかと思うの」





「えっ!」

ネネシーは驚く。

ルシールがフィナンを「素敵」と言ったことに衝撃を受けた。



ピンクの髪の可愛いルシールは、どう考えても乙女ゲームのヒロインだ。

確かに元婚約者のハロルドから、ルシールは婚約破棄を突きつけられたが、濃紺の髪と濃紺の瞳を持つハロルドは、ヒーローカラーではない。

あの男はただのたかり野郎で、ルシールのヒーローとしてノーカウントだ。


ルシールのヒーローはきっと、「金髪」碧眼のクレイグだ。

――「銀髪」碧眼のフィナンではない。

ヒーローの職業に、魔法使いだとも騎士だとも限定はされていないはずだが、ヒーローカラーは絶対だ。

大好きなルシールには幸せになってほしい。


「確かにフィナン様は素敵だけど、クレイグ様はもっと素敵じゃない?だってほら、あのたかり野郎共から守ってくれたのは、クレイグ様だよ?

まるで王子様みたいだったと思わない?」





「えっ!」

ルシールは驚く。

ネネシーの真の運命の相手は、騎士のフィナン様だ。

――だって乙女ゲームではそう決まっている。


だけどネネシーがルシールを見つめる目は、真剣そのものだ。

きっとネネシーの心はすでにクレイグへと傾いているのだろう。


大好きなネネシーには、幸せになってほしいと思う。

出来れば運命の人と結ばれてほしい。

だけど一番大事なのは、ネネシーの気持だ。


ルシールはふうと静かに息をはきだし、優しく微笑んだ。

「そうだね。確かにクレイグ様は素敵だよね」


ルシールがそう言葉を返すと、ネネシーはホッとした様子を見せた。

きっとルシールに、自分の気持ちを肯定されて安心したのだろう。





少し微妙な空気が流れたので、『このお話は、今日はお終いね』と考えて、少し早いけど食パン作りの次の工程に移ることにする。



「じゃあ生地は休ませたし、そろそろ分割しようかな」

そう話しながら、空気を変えるようにルシールは立ち上がった。









誰が誰を応援してるのか、よく分からなくなってきましたね。

そろそろ説明図が必要になってきたでしょうか……

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