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乙女ゲームに婚約破棄は付きものだというならば  作者: 白井夢子
乙女ゲームの世界とは

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19.執事デリクの推し


「大変な目に合われたとお聞きしましたよ。

お嬢様達にたかろうとする、騎士の風上にも置けない者共の家には、フィナン様を通じてロングスタン家からも抗議を入れさせてもらいましたからね。

もう二度とお嬢様達に声をかける事もないでしょう」


ロングスタン家の執事のデリクが、ほほと笑いながらルシールとネネシーに声をかけた。


「ありがとうございます。デリクさん」

「フィナン様もありがとうございます」



今日もルシールとネネシーは、デリクに黒豆茶を届けるためにロングスタン家に立ち寄っていた。

以前煎りたての黒豆茶を届けた時に、デリクに「煎りたては格別に香りがいいですね」と褒められた事があった。それから二人は、なるべく新しい黒豆茶を届けようと、ちょこちょこロングスタン家に向かっている。ついでに森の食材を集めるコースにもなっていた。


忙しいデリクを気遣って、手渡してすぐ帰る事がほとんどだが、フィナンが顔を出す時は「是非に」とデリクに勧められて皆でお茶を飲む。


今日は帰るところをフィナンに会って、呼び止められたのだった。



「全く。フィナン様がもう少し早く駆けつける事が出来れば、そんな輩は切り捨ててやれたというのに……奴等も命拾いしましたね」


ふうとため息をつきながら話すデリクを、『僕はそんな事はしない』と思いながらも、何も言わずにフィナンは黙って聞いていた。


デリクはこの二人の少女が大変お気に入りなのだ。

元婚約者達のルシール達への狼藉を聞いて、真っ先に抗議の声を上げたのはデリクだった。

「そんな男の家など潰してやろうか」と、物騒な事を言い出したので、フィナンから『同じ騎士として』とその男達の家に抗議の声を届ける事で、デリクを落ち着かせていた。


武家の家であるロングスタン家を敵に回すような家はないので、もうルシール達に危険がある事はないだろう。

そこは確かにフィナンとしても安心できる事ではあった。


それでもルシール達の前で、直接男達に制裁出来なかった事をデリクが悔しがるのは、彼女達を助けたのが魔法使いのクレイグだからだろうと思われる。


武家のロングスタン家と、魔法家系のマクブライト家との仲はお互い良好だが、「剣は魔法より勝る」と考えるロングスタン家と、「魔法は剣より勝る」と考えるマクブライト家では、根底ではプライドの掛け合いがある。


密かにデリクがライバル意識を持つ、マクブライト家のワルツには負けたくないのだろう。

「ワルツさんと今度女子会を開く」という二人の話に、一瞬だがデリクは悔しそうな顔を見せていた。



でもフィナンとしても、二人の恩人とはもっと話をしてみたいと思う。

ルシールもネネシーも貴族らしくはないが、お互いを思い遣る姿は好ましいし、二人共に特別な能力を持っている。気にならないはずがない。


こうして一緒にいても、なかなか自分は相手にしてもらえないが、今度共に過ごせる機会を持てる学園行事がある。


『学園行事なら、デリクに二人の意識を持って行かれることはないだろう』

そう考えて、フィナンは二人に申し出た。


「もし良ければ、今度の騎士科と魔法科の合同討伐合宿は、僕とチームを組まないか?

もちろんネネシー嬢とルシール嬢でチームを組むだろうけど、討伐地は大型の獣も魔獣も出ることがあるからね。その辺の討伐は任せてほしい。

僕も君達のチームに入れてもらえないだろうか?」



「え……?」

ルシールとネネシーは、フィナンの申し出に戸惑った。


確かに近いうちに、騎士科と魔法科の合同討伐合宿がある。チームは何名でもいいが、チームごとにキャンプをして討伐の点数を稼ぐ。

討伐した魔物の大きさや数で点数が付けられ、討伐期間の合計点数を、チームの頭数で割って個人の成績となるのだ。


最弱のルシールとネネシーは、みんなのお荷物にしかならないので、誰にも声をかけられる事はない。

だから二人でチームを組んで、討伐は最初から挑むつもりはなくて、ただ二人のアウトドア生活を楽しもうと話をしていた。


そんな最弱の自分達がフィナンとチームを組めば、ただ彼の点数をルシール達に割られていくだけだ。

フィナンに何のメリットもない。



「あの……フィナン様。私は小さな魔物一匹倒せないと思うんです。成績は最下位確定なので、もうキャンプ生活を充実させるために、ルルちゃんとはご飯とかオヤツの計画しか立てていないんですよ」


「私もフィナン様のご迷惑にしかならないと思います。実は私は攻撃魔法が使えないんです。

火の魔法はちょっとチーズとかを炙れるだけだし、水の魔法は小さなコップ一杯の水を出せるだけだし、風の魔法はうちわであおぐくらいの力だし、土の魔法は小さい土兎を作れるくらいなんです」


「つちうさぎ?」

「はい。土で出来た兎です」



『土兎で何をするのだろう』

フィナンはそう思うが、そこを話題にすればまた話がズレてきてしまう。


「二人は料理やお菓子作りが得意だから、そこを助けてくれると嬉しい。僕は討伐くらいしか出来ないからね。

討伐成績は三人で点数を割っても、誰にも負けないくらいの魔物を倒せばいいだけだ。それは僕にとっての訓練にもなるし、気にしないでほしい。


「フィナン様を助けてくれませんか?フィナン様は料理の腕が皆無ですからね。討伐合宿中のひどい食生活で倒れてしまわないか心配なんです」

――デリクが援護する。




食事など数日分くらい持って行けばいい話だが、デリクはルシールとネネシーを気に入っていた。


二人共に心根の優しい素晴らしいお嬢さんだが、デリクは出来ればフィナンとルシールが上手くいってほしいと願っている。


「魔法より剣が勝る」とデリクは密かに考えているが、聖魔法は別だ。あれは尊い力だ。

フィナンを、そんな尊い力を持つ者が支えてくれれば、デリクとしては心強い。


マクブライト家のクレイグは、ルシールを気にかけているようなので、クレイグの友人であるフィナンが積極的にルシールに好意を示すとは思えないが――もしフィナンがルシール達と距離を詰めようとするならば、デリクとしても是非とも応援したいところだった。




ルシールとネネシーは、フィナンとデリクの言葉に顔を見合わせたが、そう言ってくれるなら、と好意を受け取る事にした。


「では……ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします。お料理は任せてくださいね」

そう返事をして笑顔を見せた。




「ルルちゃん、もっと元気が出るようなガッツリお料理を考えようか」

「そうね。携帯できるオヤツも考えよう」

ルシールとネネシーが、フィナンを加えた討伐合宿のことを考え出す。


「フィナン様がお好きな料理はなんですか?」

「フィナン様も討伐の非常食としてクッキーはどうですか?」


ようやく自分の方に意識を向けてくれそうだと、フィナンは少し気分が上がっているのを感じていた。



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