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乙女ゲームに婚約破棄は付きものだというならば  作者: 白井夢子
乙女ゲームの世界とは

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17.執事のワルツさん


「まあまあまあ!ようこそお越しくださいました。どうぞゆっくりしていってくださいね」


クレイグの自宅謹慎初日の放課後、ルシールとネネシーはマクブライト侯爵家を訪問した。


『クレイグ様の華麗な経歴に傷を付ける事になった自分達が、侯爵家の者に良く思われるはずがない』


そう思っていたため、かなり緊張しての訪問だったが、迎え出てくれた侯爵家のおばあちゃん執事のワルツさんは、二人が困惑するくらいの歓迎ぶりを見せてくれた。


お互いに自己紹介をして、なごやかな雰囲気の中、応接室に二人を通してくれた。




ルシールとネネシーは、クレイグを待ちながらカバンから手土産を出していく。

ぎゅうぎゅうに詰め込んでいるので、あらかじめ出しておいた方がスマートに渡せるだろうと判断したからだ。


テーブルの上にゴロゴロと拾いたてのココの実を並べていくネネシーを眺めながら、ワルツがネネシーに尋ねた。



「トロバンお嬢様、それは……?」

不思議そうにココの実を見るワルツに笑顔を見せて、ネネシーが答える。


「これは先ほど森で拾ったばかりのココの実です。殻を割りたてが一番美味しいですよね。おひとついかがですか?」

「ネネちゃんはココの実割りの名人なんです!」

ルシールがすかさずフォローを入れる。


微笑ましい二人に笑顔を見せたワルツが、「お願いします」と望んでくれたので、早速ネネシーはコンコンと殻を拳で軽く叩いてヒビを入れ、卵の殻を剥くように超硬質の殻を剥いてみせた。

殻を剥いたココの実に、ストローをプスリと刺してワルツに手渡す。


ちなみにココの実に刺すストローは、中がストロー状に空洞になった、ココの木の硬質な細い木の枝だ。

それはココの実を拾う時に、必ずネネシーがストローとしてセットで手折ってくる枝である。


「はいどうぞ」とネネシーに手渡されたココの実ジュースを、ワルツが感心したように受け取ってストローに口をつけて飲んでみる。


「とても美味しいジュースをご馳走していただいてありがとうございます。……クレイグ様から度々お話は伺っていますが、本当に素晴らしいお力ですね」





『クレイグ様がネネちゃんの話を!』

ルシールはワルツの言葉に密かに衝撃を受ける。


確かに昨日は、クレイグはネネシーのピンチに駆けつけてくれた。

どうやらネネシーは着実にクレイグを攻略していっているようだ。


『自然体でいるだけで、魔法科イチのモテ男を惹きつけてしまうなんて、さすがネネちゃんね』

ルシールは自分の事のように嬉しくなってしまう。





ココの実を手にしたまま、ワルツがコホンと小さく咳払いをしてわ、ネネシーに言葉を続けた。


「踏み込んだお話になってしまいますが……。

トロバン様は、契約魔道具を粉砕されるご活躍を見せたと伺ったのですが、本当ですか?」



――契約魔石の粉砕。

『ヴェイル様との婚約破棄時に、支払い義務を押し付けてやったヤツだ』

ネネシーはフッと笑う。


「はい、本当です。元婚約者の誕生日のお祝いに、魔剣を用意したのですが……彼は私に魔剣の支払いを押し付けるために、贈り物を受け取ってから婚約破棄を告げてきたんです。

そんなたかり野郎の為に払うお金は無いですからね。目の前で支払い返済の督促魔道具を粉々にしてやりました!」


「ネネちゃん、カッコいい!」

パチパチパチパチとルシールが勢いよく手を叩く。

――何度聞いても、胸がすく思いのする話だ。



「なんと……なんとご立派な……!!」

ワルツが感嘆の声をあげる。

「実は私も若い頃、ろくでもない男に借金を押し付けられましてね。私の魔法では、借金返済の督促魔道具を壊すことが出来ず、大変悔しい思いをしたものです」



少し遠い目をするらワルツに、ろくでもないない男の裏切りを知るルシールとネネシーは悲しくなる。


「ワルツさん……」

何と声をかければいいのか分からない。


ワルツは当時の事を懐かしむような顔を見せて、言葉を続けた。


「借金の返済督促魔道具からは逃れられませんでしたが、男の事業は乗っ取ってやりました。そこで手に入れたお金から借金を返済して、残りは湯水のように使ってやったものです。

――もうずいぶんと昔の話ですけどね」



「ワルツさん、カッコいい!」

「素敵!!」

パチパチパチパチと力強くルシールとネネシーが拍手を送った。


借金以上の仕返しを成功させたワルツは、尊敬すべき存在だ。

たかり男を知るルシールとネネシーには、ワルツの武勇伝に胸を震わせた。



二人の拍手にまんざらでもない様子を見せたワルツに、ネネシーが張り切って話す。

「ルルちゃんも、浮気野郎に婚約破棄を告げられた時に、高級カフェ代を押し付けてやったんですよ!

浮気野郎は後期分のお小遣いを全部使い切っちゃったんだって!」

「勝手に浮気相手を連れて来たから、三人分のお茶セット代を払うことになったんですよ。ザマアミロです!」


ルシールが握った拳を天に突き上げる様子を見て、ネネシーがパチパチパチパチと激しく手を叩く。


ワルツも大きく頷いて、顔を輝かせる。

「オルコット様もご立派な仕返しを……。

なんて素晴らしいお二人でしょう。今日お会い出来たことを、本当に喜ばしく思いますよ」


「私もです!」

「私もワルツさんと出会えて嬉しいです!」


出会って間もない三人だったが、とても固い絆で結ばれたように心を通い合わせて、三人でキャッキャッと盛り上がる。






扉を開けて部屋に入っていたクレイグは、部屋の入り口で盛り上がる三人を黙ってただ眺めていた。


ルシール達の訪問があったと使用人が呼びに来てくれた時、クレイグは応接室に向かいながら、その知らせを届けたのが執事のワルツでは無かった事を少し不思議に思っていた。


応接室をノックしても何の返事もなく、扉を開けると三人はお喋りに夢中になっていた。


確かに「ずば抜けた力」を持つネネシーが、支払い督促魔道具を破壊したらしいとの噂話をワルツに話した時、とても興味を見せていたなと思い出す。


「その強大な力を使って、効率よく魔法を使う事ができるか」という魔法研究者の視点からの興味だと思っていたが……どうやら以前からネネシーの事をやたらと尋ねていたのは、昔の男とトラブルがあったからのようだ。

魔道具を押し付けられたネネシーに昔の自分を重ねて、その魔道具を粉砕した彼女に溜飲が下がる思いをしたのだろう。




いまだ盛り上がる様子を見せる三人に、クレイグは声をかける事が出来ない。

「ろくでもない男」「たかり野郎」「浮気野郎」と男を罵倒する会話に、どうやって入れというのか。


 

クレイグはただ、扉の前で黙って女達の盛り上がりを眺めることしか出来なかった。







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