第三話 ここはどこだ
振動とこもった風切り音がレオンを起こした。目を覚ます前に手に重い感触を感じ、目を開けると枷がはめられておりどうやっても外せない。ガチャガチャと音を立てていると横から誰かが話しかけてきた。
「そんなことやっても無駄だよ。おとなしくしときな」
よく周りを見れば狭い閉鎖空間に何人もの子供たちが敷き詰められていた、状況を飲み込めないでいるとさっきの子が話を続けた。
「君、ずっと気絶してたけどどこから来たんだ? その服すごく上等だけど、もしかして国から来たのか」
何を言っているのかレオンはよく理解できなかった。
「ここはどこなの。お母さんのところに戻らないと」
「無理だよ。捕まってるんだ、母親と一緒にいるときに捕まったのか?」
「死んじゃった……殺されて…」
レオンは涙があふれてうつむいた。
「そうか、やっぱり国の子供は愛されてんだなぁ。こっちの奴らのほとんどは親に売られた奴か誘拐だよ。親無しだと守ってくれる大人もいないからな」
「どういうこと? 皆もそうなの? 僕たちはどこに連れてかれるの?」
「さあな、苦しまない場所だったらいいけどな」
身に降りかかった現実も湧きあがる悲しみにも対処できずレオンは黙ってうずくまった。
しばらく揺られていると部屋の後方で扉が開き、眩しさで目がくらむ。
「出ろ」
大人の声に子供たちはおとなしく言うことを聞きぞろぞろと出ていく。レオンも仕方なく降り、辺りの景色が目に入るとどこか遠いところに連れて来られたのだと現実を突きつけられた。
崖の上から見えた景色は崩壊した数個の建造物にくぼんだ地面、見たこともない軍用車両が錆びて朽ち果て、植物がそれらに絡み……微かな文明の後が植物に覆われ、まるで世界が崩壊した後のような光景。遠くを見ようとしても山が遮り、ここは孤立した場所なのだという絶望感がレオンの胸を絞めた。
「起きていたか」
振り返ると気絶させた青年がいた。憤りが沸き起こり向かっていった。
「お前! なんで…なんで! 母さんを!」
しかし首根っこを掴まれ宙に浮かされる。
「落ち着け、殺したのは俺じゃない。理由を聞きたきゃ教授に聞け」
教授と呼ばれた男は笑顔で子供たちを呼び集めていた、レオンもそのまま連れていかれ教授を目の前にすると憎しみが沸きじたばたと暴れるが振りほどけない、その様子を教授は見ながら説明を始める。
「これからいくつか試験を始める、まず三人組に分かれてもらおうかな」
乗ってきた物から大人が数人出てくるとそこで初めてそれが輸送用のヘリだったことに気が付いた。こんなものを用意できる人間達に父はどれだけ早く助けに来られるだろうとレオンは怯えた。
大人たちは子供たちの腕を乱暴に掴んで適当に三人選び枷でつないでいった。
「ここは崖になってる、君たちはあそこに見える建物に向かってここを下りて行ってもらう。簡単なことだ、ただ、凶暴な獣も出るからなるべく早く来た方がいい」
教授の差した場所にはただ一つ崩壊していない施設が明かりを灯していた。説明を終えた教授はレオンに近づいてそっと耳打ちした。
「子供たちが生き残れるかは君次第だ、助けてあげるといい。このナイフをあげるから頑張るんだよ」
教授はナイフを投げ崖下に落とした。レオンも見知らぬ子どもと繋がれた。
「おい、待て! なんでこんなことするんだ!」
教授たちは乗ってきた輸送機に乗って飛び立った。追いかけようとしたが枷に引っ張られてレオンは転んだ、振り返ると一緒に転んだ男子と女子は怯えてどうしたらいいかわからないようだった。その様子を見てレオンは怒りを抑え涙をぬぐった。
「ごめんね…何かあっても僕が何とかするから安心して。僕はレオン。君たちは?」
男子はキビア、女子はミオと名乗った。後ろからさっきの男の子が話しかけてきた。
「おい、面倒なことになったな。これじゃあ協力も難しいぞ」
返事をしようと思ったが彼とつながれた目つきの鋭い男の子が苛ついて遮った。
「協力なんて何ぬるいこと言ってんだ! こいつに何ができるんだ、顔を見てみろよ能天気な顔しやがって、国で優雅に暮らしてた顔だ。これが大人の遊びだってことも理解してないぜこいつは、生き残れる人数は決まってる。くだらないこと言ってないでさっさと来い」
「おい、ちょっと待てよ」
繋がっている少年の静止も聞かずに目つきの悪い少年は崖際まで他の二人を引っ張った。発言の意味を聞く暇もなく答えてもくれなそうな雰囲気にレオンはひとまず諦めた。目つきの悪い少年は下を注意深く見渡しあるところで止まった
「見ろ、あそこで一休みできるぞ。まずあそこを目指すぞ」
見ると中腹にちょうど三人ほどが立てそうなでっぱりがある。目つきの悪い少年は、いの一番で降りようとしたが静止する。
「まて! 無事に降りるには三人の息を合わせなきゃいけない、名前ぐらい聞かせろって」
年長だった彼はアシヌスと名乗り、続けて少女がイボメアと目つきの悪い少年がムステラと渋々名乗る。
「待って、僕たちが先に降りるよ。崩れる場所がないか確認しながらじゃないと危ない」
レオンがそう言うとムステラは挑発的に返す。
「やれんのかよ?」
「やってみる、僕の行くルートを覚えておいて。一列に並んでいくよ」
ミオとキビアは震えて今にも泣きそうにレオンを見る。
「ほんとに大丈夫なの…?」
「私、怖い」
「大丈夫、落ちないように支えるから。信用して」