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断頭地区  作者: 自堕落才
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第三十四話 因果応報 ①

 少年は目を覚ますと自分が柔らかい布で包まれていてそれがベッドだと気がつくのに少し時間がかかった。体にかけられたタオルケットを掴むと触り心地の良さに驚て夢中で触っているとナース服の女性が現れ、ベッドから離れられるように警戒した。

「あっ! 起きたのね。今、先生を呼ぶから待ってて」

 そんな警戒心も徒労だと言われるように女性はどこかに行ってしまい少年は戸惑った。逃げ出すべきかと少年は思ったが助けてくれた同じ年頃の少年の姿を思い出し、自分がいる場所をまさかと疑った。

「おはよう」

 医者が現れると少年はベッドから飛び降りたがその様子に白衣の男性は微笑みかけた。

「ここは病院、怪我や病気を治療して元気にする場所だよ」

 疑っていた現実が真実だった、それを簡単に信じることは難しい。

「ここは……国…か?」

「そうだよ、騎士が君を連れてきたんだ。名前を聞いてもいいかな?」

 目の前の男の穏やかさは決して断頭地区では見れないもの、そのことが事実を決定づけるには十分な事だった。

「……シ…シバ…」

「僕は医者のエレファス。じゃあ診察をするから上着を脱いで」

 診察というものがシバには何なのか分からなかったが医者は丁寧に説明し、警戒心を消そうとしていた。その甲斐もあってかシバは大人しくしていたが手や道具で体を触られるとくすぐったくなり気持ち悪さを感じていた。

「特に体に異常はないし…問題なく今すぐにでも退院できるよ」

 体の一部を盗られる前に麻痺させる薬を打たれただけでその心配はしていなかった。

「俺はこれから、どうなるんだ?!」

「孤児院に住むことになる。今ちょうど施設の人が来ているから話してくるから待ってて」

『孤児院ってなんだ?』

 状況も飲み込めず待っていると突然扉が開き、きつい眼をした女の子が自分を睨むように見てくることに苛立ち、シバは睨み返した。

「あんたでしょ、向こうから来たって奴! ねぇ、白髪の子供に助けられなかった!」

 想像していた口調よりずっと必死で痛みを感じ、シバは不意を突かれたように戸惑った。

「えっ? ああ、俺と同い年くらいの子供に助けられた、髪もたしか……白髪だった」

「やっぱり止められないんだ…あいつ……」

「おい…お前も向こうから来たのか? あいつのこと知ってるのか?!」

「そう。あたしもあいつに助けられてここに来た」

 同類がいることに驚きがあったが疑問を晴らしたくてシバは必死だった。

「俺、どうなるんだ? あいつなんで俺を助けたんだ? 孤児院ってどこだ?」

「心配しなくてもただ平穏に暮らすだけ。孤児院ってのは身寄りのない子供たちを集めて生活させる場所のこと。あたし達も知らなかったから最初は驚いたけど……本当に平和な場所。向こうとは別世界……嘘みたいに…」

 嘘のような発言だと驚くシバに女子に見た方が早いと言われるがまま病室を出た。ロビーを目にすると脳天を打つ抜かれた様に衝撃が走った。病院と呼ばれる場所の穏やかで殺伐さのかけらもない空気、医者たちは子供たちに笑顔で話しかけ子供もまた笑顔を見せる。大人の患者も穏やかに医者や看護師にお礼を言う、見たことのない笑顔という表情がシバに疎外感を与えた。

「なんだ……これ……あいつら…人を殺しても…薬を使ってるわけでもないのに笑ってるぜ…」

「ここにそんなことで笑うクソはいない、ここだけじゃなく国全体で善人なんだと思う。あいつも…こういう国で育ったから人助けが趣味になった…見捨てられない性分だからあんたも助けられた」

 ロビーを歩いているとエレファスと施設の女性が話していてシバに気付くと近づいてきた。

「この子が今、話していたシバ君です」

 女性は穏やかにシバに話しかける。

「初めましてシバさん。ファラベラさんも一緒なのね」

「私から話した方が信じやすいかと思って」

 女性はファラベラにお礼を言ってからシバに話しかけた。

「私は孤児院でみんなと一緒に暮らしてるの、君もこれからそこで暮らすことになるの。突然でよく分からないと思うけど説明は施設でするからちょっと待ってくれる? 戸惑わせちゃってごめんなさいね」

 言われたことのない言葉の数々に言いようのない気持ち悪さを感じた。

「ファラベラさんの病気はもう完治していますから他の子と同じように走り回れるようになるのにそう時間はかからないはずですよ」

「ありがとう。先生」

 その後に施設に連れられると子供たちが集まって来て、口々におかえりと言って出迎えた。その屈託のない笑顔に同じ人間だとシバは思えなかった。

「この子、新しい子~? 目つきワル~い」

「みんな、ちょっかいかけてケンカしないようにね! 困ってたら手伝ってあげるのよ」

「はーい」

 子供たちが彼女を信頼しているのがその笑顔で分かった。その空気感がどうにも慣れなかった。その中で一人の少年が話しかけてきた。

「おい、お前さ。誰にムカついてんのか分かんねぇけどよ、ここにいりゃそのうちそんな奴らの事どうでもよくなるからよ。あんまり引きずるなよ」

 その言葉はシバの怒りに火をつけた。知った風な口を利く相手を殴ろうとしたがファラベラに腕を引っ張られ部屋に連れ込まれた。

「いきなり暴力沙汰なんか起こす気? もう少し考えなよ馬鹿」

 シバは舌打ちをして掴まれた腕を振り払った。

「やっぱり最初は慣れないよね」

 部屋にもう一人いた少年にシバは睨んだ。

「ローター。こいつがあいつが助けてきた新人。それよりあいつがどこにいるか分かったの?」

「分からないけど、最近お姫様が城下に出る時に子供が一緒にいるらしいんだけど…それが白髪で長い剣を持っててすごく目つきが悪いらしいんだ。もしかして彼じゃないか?」

「そいつだ!」

 シバが大声を出すとその口をファラベラが塞いだ。

「言っとくけど、あいつに助けられたって言わないで。多分あいつ、秘密にしてるから」

 シバはファラベラの腕を掴んで口から外した。

「それよりそいつに会いてぇ、どこに行けば会える?」

「さぁ、多分王城近くに行けば会えるかもだけど…ここからじゃバスに乗らないと……でもお金がないし」

「だったら走ればいいだろ!」


 その頃、レオンは刑務所の庭でがむしゃらに剣を素振りし、荒れた心を落ち着かせようとしていた。未熟な精神を変えるための成長への切っ掛けを欲しても都合よく見つかりはしない、それが焦りを生んでいた。

「ほどほどにしないとぶっ倒れるぜ。ただ剣を振るだけじゃもう意味ねぇだろ」

 声を聞けば誰か分かった。面倒に思いながら振り向くとラニウスとティトがいた。

「街を出ていいのか?」

「たまに、お前の顔が見たくなるんだよ」

 嘘をつけとレオンは思った。ティトにでも言われてきたのだろうと思ったがいちいち口に出すのも馬鹿馬鹿しく感じた。

「火傷はどうですか? 言っても来ないでしょうから見に来ました」

「もう治ってる、必要ない」

「お腹に爆発をもらった傷がそんな早く治りませんよ」

 ティトが見ると完全に治っていた。

「後も残らず火傷が治ってる? あんな大きな火傷が一週間程度で完治するなんてそんなはずは……」

 驚くティトにラニウスはとぼけた様に別の話題を口にした。

「まぁ、治ってるならいいじゃねぇか。それより、また向こうに行って一人連れて帰ってきたんだって?」

「ああ……今頃、孤児院で迎え入れられてるはずだ」

「こっちに馴染めりゃいいが…どうだろうな」

「さぁな…大人がどうにかしてくれるだろ。俺が関わるよりよっぽどいい」

 まるっきり他人事のように言うレオンだったが忠告のようにティトが反論した。

「それはどうでしょうね。心の傷というのは理解されないのがつらいですからね」

「あんたらにもあるのか? ティトは向こうから来たんだろ」

「当然ありますが……わたしはこの国出身ですよ。医術の勉強は向こうではできませんから。昔、向こうに行ったんですよ」

 思いがけない言葉にレオンは驚いた、言われれば当然だが気づかなかったのだ。

「人助けに行ったのか?」

「ええ。自分が傲慢だったと思い知らされましたよ……戻ってからはラニウスの手伝いを」

「なぜ手伝ってるんだ? 病院で働く事も出来たろう」

 平然と相手に踏み込もうとする、自然としてしまうその行動の意味をレオンはまるで考えていなかった。

「少しでも近くに居たかったんですよ、大きなものを失いましたが…ラニウスやボルトを見ていると私でもまだ何かできるんじゃないかと……」

 ティトの顔に影が落ち、その声には自信のなさと諦めの悪さが混じる。それに対してラニウスが憎まれ口をたたくように言った。

「馬鹿な奴だよ……わざわざ苦しみに来るなんてよ。ボルトの野郎も悩み続けて…みんな馬鹿さ」

「死に場所が欲しいなら……来いと伝えろ。俺が作ってやる」

 誰もが強がっていた、彼らの言動は己を鼓舞するためでもある。

「馬鹿野郎、俺の役目を取るんじゃねぇ。お前が考えることは他にあるだろ」

 叱るようなラニウスの言葉をレオンは突っぱねた。

「そんなものはない。俺は役目を果たすだけだ」

「人が行動すれば自然と賛同者が集まるものです、あなたが望まなくても結果としてそれは現れる」

「言っただろう、弱い奴には何もできないと!」

「人の気持ちはどうしようもありません、たとえ破滅の道を歩もうとしていても止める方法など…私達は知りはしません、己自身がそうなのですから」


 レオンはその後。シャワーを浴び、街を目的もなくぶらついた。夕暮れに街灯の明かりが付き始め、ふと見上げると知らぬ間に王城の近くまで来ていた。足が向いてしまった自分を叱りながら離れようとすると大声が響いた。

「いやがったな! 何時間も張ってたかいがあったぜ」

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