第二話 異常者としっぽの青年
翌日、レオンは母親と護衛のシーヌとメイドのカーラを連れ街外れにある墓地に来ていた。整然と並ぶ墓石達の間に伸びる少し狭い道を進み奥まで到達すると他の墓石からつまはじきにされたように置かれた奇妙な墓石が見える。それには名も記されず、多くの墓石が一塊のように密集して置かれ誰も足を踏み入れる事はないがれっきとした墓。母のローデアはそこに花を手向けた、誰のための墓かもわからないがレオンはそこの掃除を手伝うよう両親に言いつけられていた。最初にこの場所に連れて来られた時……誰の墓? レオンはそう尋ねたが父は「いずれ教える」と言い、普段の優しい言い方と違うとても静かな口調に聞いてはいけないことだと咄嗟に理解した。
いつもならば父も来るはずだったのだが明朝に事件が起こったと出かけてしまったため母と来たのだ。
掃除も終わろうとしていた時、どこからか二人組の男が現れた。メガネの男が青年に一方的に話して青年の方は聞いているのか返事もしていなかった。
「君は巡り合わせを信じるかい? 物事には適切なタイミングがありその時が来なければ何をやってもうまくいかないらしい。私は今日信じたくなったよ」
二人の服装は見なれないもので男は足首まで長さのある祭服に似た白いつなぎ服、青年の方は所々に擦り切れやほつれがある体格よりも少し大きなロングコートに身を包み、不自然なほど前のボタンをすべてきっちりと閉めている。二人が王都の人間ではないだろうというのは見た目で判断できる。しかしメイドは危機意識が抜けていた、それは国が平和であった事と貴族が狙われることはないだろうという思い込みがその意識を育てることをさせなかった。
「迷われたなら道をお教えいたしましょうか?」
メガネをかけた男は流れるような動作でカーラの額に針を刺した。あっ、という小さな声を漏らしてカーラは倒れ絶命する。
「どうしようかいろいろ考えていたんだが、まさか孤立してくれるなんて思ってもみなかったよ。今日は記念日にしてもいいな……君次第だが」
シーヌは取り押さえようと剣も抜かずに向かっていく、しかしたどり着く前に針を何本も顔に投げ込まれ倒れた。突然の事にレオンは呆気にとられて身動きできず固まっていた。
「レオン!!!」
ローデアは叫ぶとレオンを抱き上げて力の限り走った、だが数歩逃げたところで背中に針を撃ち込まれて地面に転び、刺された箇所から自分が逃げられないことを悟った。初めて見る母親の血にレオンは恐怖に叫んだ。
「レオン……逃げなさい、お父さんのところに……」
「お母さん! 血が…死なないで」
「お母さんはあなたが生きてくれればいいの……早く逃げっ……」
言い終わる前に針が母の脳を貫いた。
「だめだめ、逃がすわけないだろう。運が悪いと思ってあきらめなさい。それより目の前で大事な人が死んだが君はどんな感情が沸くのかな?」
レオンは訳も分からずに叫び、男に飛び掛かった。しかしそれを阻止する鞭のような攻撃が向かってきた、それを一瞬の反射で避け目の前まで接近したが後ろから何かに掴まれ体は宙に浮きこぶしは届かずにじたばたと暴れる。レオンは自分の感情が怒りとも分からずにその感情に支配された、これほどまでの憤りを感じることなどありはしなかったからだ。
鼻息の洗いレオンに青年が近づいてくる、青年の臀部からしっぽが伸びていてそれが自分を掴んでいるのレオンは気づく間もなく腹を殴られぐったりと意識が遠のいた。
「驚いたな、避けられるとは思わなかった」
「評判通りじゃないか。さあ、断頭地区に戻ろうか」