第十五話 一撃必殺
カペンシスは目の前の一人の首を切り落とした、それを見た大人たちは激怒するがカペンシスは一瞬で爪を伸ばし辺りは血で染まる。切り落とした頭を思い切り投げつけ、レオンは剛速球の頭を一投目は避けたが次の弾に当たってしまう。頭部を肩に受けレオンは吹き飛び屋根から転げ落ち、しかし倒れるわけにはいかず、せき込みながらも空中で体制を整え着地し走り出す。
沸き立つように興奮した様子で追いかけてくるカペンシスとの距離はすぐに縮まる。もう一度同じ手をしようと考えていたが前方に仮面をつけた人が見え慌ててレオンは方向転換する、気づかれたかは分からないがとにかく路地裏を走ったが表通りに着いた瞬間追いつかれる。
「それじゃつまんねぇだろ!」
激しく打ち合いお互いに攻撃を食らう。
「いいねぇ、正面からでもやり合えるじゃねぇか…小細工なんかするなよ、それじゃ計れねぇ」
ダメージはレオンの方が多く、加減されなければ死んでいた。
「お前の考えなんか知ったことじゃない」
「くくく、まぁもう十分かもなぁ…その年でここまでやれる奴はいねぇ」
カペンシスはさっきよりも素早く距離を詰め一気に畳みかけその激しい乱打を防ぎきれずに強烈な一撃を抉りこむように腹に叩き込まれ体は宙に吹き飛ばされた。意識が飛びそうになるが古いビルの上階にぶつかる衝撃と痛みで気絶も出来なかった。
カペンシスは勝ちを確信して歩いて向かってくるが痛みがひどく立ち上がろうにも力がうまく入らない、こんなところで終われないとレオンは体に力を込めるが痛みも同時に強くなり苦悶の表情で喘ぐ。ここまでかと思われたが道で突然仮面の人物が現れカペンシスを攻撃した。必死に呼吸を整えレオンは立ち上がった、階段を降り隠れながら敵の下に向かっていく。
『何のつもりかは分からないけどこのチャンスを生かさないと…あいつはここで殺さないと必ず追ってくる、隙を見て殺るしかない!』
その頃、アテリーネ達は街の出口まで到達し男たちに絡まれていた。
「おめぇら、生活に困ってるって見てくれじゃねぇな…そのなりで草食って生きてるわけねぇよなぁ、そこの女! 国境に行くつもりだな!」
「ガタガタうるさいんだよ!」
男たちを切り捨て外に出る。
「止まらずに走りな!」
少し離れたところでローターが立ち止まる。
「ちょっと待って。レオンの事助けてやってよ!」
シェトランド達もうなずく。
「そうだな…アテリーネはあいつの事、助けに行ってくれ」
「無防備になる覚悟は出来てんのかい」
「隠れてりゃ大丈夫さ」
「はぁ…人使いが荒いね。死んでも文句言うんじゃないよ」
レオンは気をうかがっていた、二人は互角に戦っている。痛みを押し殺し呼吸を整え気配を殺す。二人はビルの中に移動し中にいた人々はとばっちりで死に逃げまどっていた。
『落ち着け…よく見ろ、動きを見切れ。できれば二人ともやれるタイミングを狙う…!』
仮面の人物が教授の手先なら殺さなければ皆に危害が及ぶ。同時にやらなければという緊張感が痛みを抑え奇妙な興奮を生んだ。吹き抜けになっているビルの中を縦横無尽に飛び回り攻防を続ける二人に気づかれないように隠れ続け、意識を集中していると痛みも興奮も緊張も溶け込んで消えていく感覚に呑まれレオンの集中は研ぎ澄まされていく。
その瞬間は思っていたよりすぐに来た。レオンには二人の攻防の流れがだんだんと読め始め、次の攻撃がぶつかり合った瞬間がその時だとレオンは考えるよりも前に飛び出した。
予想したとおりに攻撃がぶつかり合った瞬間につばぜり合いのように腕と剣の押し合いが発生し動きを止めたのだ。その時間はほんの一瞬、カペンシスの背後から剣を突き刺し貫通した剣はそのまま仮面の人物にまで刺さった。自分を突き刺した剣に驚きカペンシスは振り向いて納得した。
「たまげたねぇ……上玉……以上…だ」
剣を抜くとカペンシスはばたりと倒れた。今までと違い殺したことにレオンは安堵感を覚え複雑な感情を覚えつつもう一人に視線を向けた。仮面の男は膝をつき自分の傷も気にせずレオンを見ていた、もう死ぬだろうと思いその場を去ろうとしたが仮面の男の声が耳に響いた。
「レオン…そこに…いたのか……」
振り向くと仮面を脱いだそこには父の顔があった。感情が一瞬でぐちゃぐちゃになりながらそばによるとレオンは抱きしめられた。
「無事で…よかった」
「そんな! なんで……っ、こんなところに…はっ…はやく手当しないと!」
必死に傷に手を当てて血を止めようとするがあふれだす血が手を染めていく。
「レオン、聞きなさい…私はどの道……そこの男に殺されていただろう………お前が介入しなくても結果は変わらなかった…生き残るために殺したのは…悪い判断じゃない、いいな…お前のせいじゃない!」
「待ってよ…お母さんも…お父さんも……ぼくのせいで…なんで!」
混乱したレオンに父の声は届かなかった。耳には届いていても脳が処理できなければ聞こえていないのと同じだった。
「子供のために…命をささげることぐらい……どうってことはない。お前が……生きていて…くれればいい…んだ…………エリザ…を…後を……た…のむ」
父の体重がすべて自分の体にのしかかるとその罪の重さにレオンは数歩後ずさりし父親は床に倒れた。
「ぼく……ころして……ぼくが」
レオンは自分の手に付いた父親の血を見つめて震え、眩暈が襲う。息もうまくできず心と体がバラバラにならないようにうずくまった。この痛みは知っているはずなのにより深く、より強い自分自身が招いた苦しみが心を埋め尽くしていった。
ビルの騒ぎが収まり外には人が増え始め被害の確認をしている中をアテリーネが縫うように避けてビルの中に飛び込んできた。
「レオン! 何してんだ逃げるよ!」
呆けていて反応しないレオンの肩に手を置いて揺らすが微動だにせず困惑した。
「おい、どうしたんだ! くそ」
レオンを担ぎアテリーネは走り去った。それと入れ違うようにもう一人仮面の男が現れ遺体に近づいた。
「隊長……隊長! そんな…いったい何が?」
動転しながら仮面の男はルプスの遺体を抱き上げて辺りを見渡し一体の死体を見下ろし、すぐその場を後にした。
「戦ったのなら……坊ちゃんを見つけたんですよね…隊長…そうですよね……?」