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断頭地区  作者: 自堕落才
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第十三話 尽きない善意

 前方から親子が歩いてきた。母親とその胸に抱かれた子供だ。レオンと同じぐらいの背丈で妙にぐったりしていた、母親の足はふらついてよたよたと歩いていてレオンは心配に思いながらも今はどうしようもない無力感に苛まれながらすれ違った。しかしその瞬間に微かな声が聞こえた。

「たすけてくれ……」

 とっさに振り返ると、子供は微かに手を伸ばしていた。


「ちょっと待ってください! その子どうしたんですか? 大丈夫ですか?」

 レオンが話しかけると女性は止まって振り向き、じっとレオンを見下ろして子供を下したかと思えば、いきなりナイフを取り出して襲い掛かってきた。

「クソガキがぁ、気安く話しかけてんじゃねぇよ! てめぇも売ってやろうか」


 使い慣れない振り方でナイフを振り回し切りかかってくる女性を避けてレオンは子供に駆け寄った。

「君、大丈夫?」

 レオンが話しかけてもうまく体を動かせないようだった。

「何かされたの?」

「てめぇはなんだぁ~、いきなり突っかかてきやがって。今、薬で動けなくしてんだよ! 自分の子供を高値で売るためにここまで育ててきたんだよ、早く売らないと逃げられるだろうがよぉ!」


「おいおい、レオン。目ぇ離した間になに面倒起こしてんだ!」

 子供の手がレオンに伸びた。

「た…すけてくれ…るのか……?」

 向かってくる女性をレオンは殴り飛ばし。一撃で気絶した女性は鼻血を出して倒れた。

「とりあえず…一緒に行こうか。動けるようになったら話を聞かせてね」

 レオンは子供を背負う。

「どうすんだそいつ?」


「分からないけど、薬が切れるまで面倒見るよ」

「慈悲深いねぇ」

 アテリーネが食料の買い物をしている最中に子供は動けるようになった。

「それで、どうしてあんなことに? あの人は母親なの?」

「そうだよ…別に珍しい事じゃないだろ、親が子供を売るなんて……」

 シェットランドが補足する。

「ある程度の年齢まで子供を育てて時期が来たら売るのさ、子供の値段は高い。別の街じゃ競売もあるし売るために子供を誘拐する奴も多い」

「売るためなんて……親だったら愛情だって生まれるでしょ? 無かったら子供にだって気づかれるよ」

「子供に気付かせないために愛情のあるふりをする、いくら外で話を聞いても自分だけは違うと思いたいってのが子供の心理だろ?」

 常識だといわんばかりの口調にレオンは顔をしかめた。

「あんたらたまり場の人か?」

 その言葉も初めて聞きレオンはしかめた顔のまま首を傾げた。


「たまり場ってのは子供が身を寄せ合って悪い大人から隠れる場所だ。大人が協力して匿うこともあるが悪人からよく狙われるんだ」

「そのたまり場の場所は分かってるの? 一人じゃ危ないから送っていくよ」

「しらないんだ…誰に聞けばいいのかも分からない」

「じゃあ、探そう。僕たちはこれから街の外に向かうから行きながら探そう、危ないかもしれないけど知ってる人が見つけられるかも」

 子供は驚いた顔をした。

「あんた……その善意…どこから湧いてくるの?」

 ファラベラが疲れた声でそう言われるとレオンは。

「生まれつきだから」

 恥ずかしげもなくそう返された兄妹は自分たちとはまるっきり違う人間なのだと悟った。

「助け合うのは不思議な事じゃないよ」

 そう言って手を差し出してきたレオンに彼は何も考えずに掴んだ。痛みをさらけ出すことも何の意味も持たない世界で唯一縋りつけるものを見つけたような気分だった。

「僕……ローター…」

 名乗ったローターにレオンを改めて自己紹介をした。


 その後、買い物を終えたアテリーネと共に町の大人たちに尋ねて回ったが知っている者はいなかった。もうそろそろ街の外れに付きそうになり子供の顔が暗くなっていく。

「ローター、見つかるまでは一緒に…」

突然、アテリーネが足を止めた。道の先には仮面をつけた男が道を阻んでいた。明らかな敵意を向けていた。なにも言葉を発さず不意に針を投げアテリーネがレオンに向かっていたそれを叩き落した。

「前に出ろ」

 微かに男はそう言った。落とした針には見覚えがあった。

「アテリーネ、出番だぞ」

 路地に隠れながらシェトランドが言い。アテリーネは武器を構えてレオンに尋ねた。

「あんた、あいつと後ろの隠れてる二人、どっちがいい?」

 レオンは悩まずに前に出る。

「僕が戦う……ねぇ! どうして僕を?」

 相手は仮面越しのくぐもった声で返す。

「教授はお前を見ているぞ…」

 その言葉にレオンは一気に心が燃え上がった。抜刀と共に距離を詰め、胴体に向け横薙ぎに剣を振るうがそれをぎりぎりの跳躍で飛び越えるように躱され着地の瞬間に顔面に蹴りを食らった。

後ろに仰け反るも体制は崩さず、相手はナイフを取り出した。レオンは攻撃の手を休めずに剣を振るうがかわされてしまう。その度に反撃を食らい、攻撃がまったく当たらない。

『読まれてるのか?』

 レオンは斬りつけられながらも致命傷は避けていた。

「なにやってんだ、しっかり相手の動きを見な! ビビってるんじゃないよ!」

 アテリーネの叱責が飛び、レオンはまず動きを見切ることに集中するように作戦を変えた。すると相手の動き方が段々と分かってきた。

『そうか……! 動きの間の硬直する瞬間、そこを狙っているのか!』

 相手の動くタイミングがわかると完全に避けられるようになりレオンは攻めに転じた。

『こっちも同じようにやれば……!』

 レオンの一撃が肌を切ると相手は距離を取った、攻め時だとレオンは突っ込む。しかし相手はわざと避けようとせず腕でガードした。腕には手甲が仕込まれておりレオンの剣は防がれ反撃の刃が肩に刺さった。痛みで硬直するとすかさず腹に蹴りを入れられ後ろに吹き飛び地面に倒れて一瞬動けなくなる。止めを刺されると思ったがアテリーネが止めた。首を掴み三人の方にレオンを投げた。


「おい、刺さってるぞどうすりゃいいんだ!」

 レオンはナイフを自分で抜き傷を抑える。立ち上がろうとするのを皆が止める。

「無理すんじゃねーって!」

「戦わないと!」

 レオンに鬼気迫る表情にシェトランドはたじろいだ、しかしそれを邪魔するように後ろから聞き覚えのある声がした。

「さっきはよくもぶん殴ってくれやがったなこのゴミガキ。股の間から生まれた癖に女を殴りやがって」

「てめぇのせいで余計な出費が出ちまったぜ。この代金はおめぇらを売った金で賄ってもらうぞ」

 隠れていたローターの母親と誘拐しようとした男が姿を現し、手加減なしにレオンを二人で殴った。

「やめろ!」

 シェトランドとローターが止めようとしたが男の力はシェトランドとローターではかなわずに殴られ倒されてしまう。レオンは肩を抑えて立ち上がろうとするが母親が踏みつけて押さえつける。

「こっちが終わるまで何とかしな!」

 アテリーネが叫ぶがレオンは傷を踏みつけられ痛みに叫ぶ。

「こんなにガキが居ればいい値で売れるだろうさ」

 男の言葉にシェトランドは怒り体当たりで地面に倒し、馬乗りになろうとしたが掴み合ってグルグルと転がり逆に馬乗りになられてしまった。何度か顔を殴られ口の中が切れて血が飛ぶ、ローターが後ろから飛び掛かったがすぐ投げ飛ばされてしまいファラベラはどうしようもなく悔しそうにそれを見ている。

 レオンが痛みをこらえて踏みつけている足を跳ね除けようとした、だがそこに突然ふらりとけだるげな男が現れた。


「おまえらなに下らねぇことしてんだ…」

 その男の顔を見ると大人たちは急に委縮し怯え始めた。

「こっこどもを連れ戻そうとしただけだよ! あんたは関係ないだろ!」

 母親が怯えながら言うと男はゆっくり近づいた。

「俺が言い訳しろって言ったか…?」

 次の瞬間、母親は蹴り飛ばされ声にならない叫びと共に背骨の骨が折れて虫のように地面でもがいた。誘拐犯の男は怯えて逃げようとしたが頭を蹴られると首は真横に折れ動かなくなった。ぴくぴくと痙攣するように動く母親にローターは近づき手を伸ばそうとした。

「母さん……」

 その横から足音が近づき真横で音が止むと母親の頭は踏みつぶされ返り血が全身を染めた。ローターは叫ぶ事も出来ず何も動けず何も考えられなくなった。

「悲しいのか? なら一緒に死ぬか?」

 レオンはローターの前に出た。男の冷めた目に目を合わせていると今にも殺されそうで恐ろしく思いつつも動かなかった。すると男は興味なさげに顔を逸らした。

「この街で騒ぐな、殺されたくなかったらほかの街に行け」

 男は去っていき、後ろでアテリーネが仮面の男に止めを刺していた。

「ローター……みんなもごめん。僕が弱かったからこんなことに……」

「いいんだ…死んで当然の人だった。僕が勝手に愛情を感じてただけだったんだ、この気持ちもすぐ無くなるさ…」

 シェトランドは慰めの言葉も出ずローターの肩に手を置いた。

「すぐそこは街の外だ、あんたどうすんだい」

 アテリーネがローターに尋ねる。

「僕も一緒に連れてってくれないか、とりあえずこの街から離れたいんだ…」

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