第十二話 断頭地区は初めてでいっぱい!
街中を歩きながらレオンは地図を取り出し尋ねた。
「どういうルートで行くの? アテリーネさん」
「呼び捨てでいいよ、お坊ちゃま。良い物持ってるじゃないか、よっぽどあんたに生き延びてほしいらしいね、あの異常者は」
「そんなに有名なの? あいつ」
「どこの組織もあいつから人を売り買いしてる。あいつに掛かればどんな人間も壊して忠実にしてくれるらしい。それに頼まれればどんなことでもやるのさ悪人でもためらうようなことでもやる、だから評判がいいのさ誰よりも人の心がないってね。教授って呼ばれてるのは軽蔑と畏怖を含めてのことだよ」
その話にファラベラは眉をひそめた。
「あんた、よく生き延びたわねそんなクズから」
兄の背中に乗るファラベラには見えなかったがレオンは憎悪が思い出され表情が硬くなっていた。
「なにかの研究もしてるって噂もある。あんたは実験体かい?」
黙ったままのレオンから地図を取りアテリーネは指をさしながらルートを説明する。
「まず南東に向かってぐるっと回る、そこからまっすぐ西に行けば国境だ。なんの障害も無かったら数日ってとこかね」
街の中心部を歩いているとふとアテリーネが止まり道の端にずれるように言った。道の先に居た人々も慌てて道を開け始めレオンは不思議そうにその先を見た。すると大型の鳥のような生き物が悠々と道の真ん中を歩いてくる。それを見てシェトランドが驚愕した。
「変異体だ…!」
初めて聞く言葉と姿にレオンは目を見開いて凝視した。
「あんなの見たことない……」
「あれでも人間だよ、戦いすぎて体が変わっちまった奴の事さ。かかわんなきゃ害はないよ、無視しな」
四人は何事もなく鳥の横を通り過ぎた、しかし鳥はすれ違ってから少し経った後、振り返りぎょろっとした目でレオンに視線を合わせ首を傾げた。微かにレオンの背筋に寒気が走ったが気にせず進んだ。
アテリーネは街はずれにあった店に訪れた。
「おい、運転手いるか!」
すると中からくたびれた男が出てあくびをする。
「あいよ、配達かい…それとも運輸かい」
「隣町まで運んでくれ、四人だ」
「あいつの領地か、それだと一人500だな」
代金を支払うと男性は奥に消えていった。少しするとシャッターが開き荷台の付いた乗り物が現れた。
「乗んな」
ゆっくりと進み始めすぐに速度が上がる、廃れた道路が車体をガタガタと揺らしながら進んでそよ風が体に当たる。
「ねえ、さっきの町はあの変異体が支配してたの?」
レオンが尋ねるとアテリーネが退屈しのぎに答える。
「ああそうだ。おかしな奴でね、普段はおとなしくて誰かを殺すこともない。だがときどき思い出したかのように人を殺しまわって血の中で眠る」
「そんなの…おかしいよ」
「この地はどこも狂ってるよ、何でもありの無法地帯さ」
「だから……強い人が弱い人を殺すのも普通の事なの?」
「ああ、それが基本だ…だから弱者は協力し合うか他人を利用するかしないと生き残れない」
アテリーネが顔を近づけて忠告する。
「あんたは知らないだろうけど、ここじゃ誘拐、強盗、殺人。街を歩いてりゃどんな犯罪にでも出くわす、さっきは朝早いから出会わなかっただけだ。これからは常に気を張ってな、あんた運が悪いだろうからね。特に子供は誘拐されやすい。次の街にも組織はいない、だけどそんなことは関係ないよ」
「アテリーネは強いから護衛の仕事をしているの?」
「ああそうだよ、でも他人を守るためじゃない。逃げられないから殺すのさ、慣れてくると楽しいもんだ。ここじゃ一番の娯楽だよ もうそれしか楽しくないからね」
兄妹は表情が凍り黙る。
「気が変わったのも楽しそうだから?」
アテリーネはのけぞるように顔を上げてそっぽを向き壁にもたれて風に当たる。
「国の人間が足掻く様が見れるなんて面白そうじゃないか。こんな娯楽を逃したらもうお目に掛かれないよ」
昼頃には街に着き荷台を下りる。運転してくれた男にレオンがお礼を言っても返事もなく驚いた顔をしてさっさと運転手は帰ってしまった。レオン達が街を歩いてるとちらちらと大人たちが見てくる。
「また乗り物に運んでもらうの?」
「毎回乗ってたら金がなくなる、次は歩きだ。一日掛かるから食料を買ってさっさと街を出るよ、子供と一緒じゃ長居してもろくなことがない」
一番後ろを歩いているレオンに背後から一定の距離で浮浪者が付いてくる。アテリーネは気づいていたが何も言わない。後ろの浮浪者は前の二人が曲がり角を曲がった瞬間にレオンめがけて走り抱きかかえようとするそぶりを見せたが、その子供に足を引っかけられ思いもよらず反撃に会い。悪態をついて逃げていった。
「あの人…僕の子と誘拐しようとしたの…?」
「油断するとすぐさらわれちまうな、俺も気を付けないと」
「殺しちまえばよかったのに」
アテリーネは吐き捨てるように言った。
「そんな簡単に……殺せないよ。殺されそうになったわけじゃないし…」
「甘いこと言ってると国境まで生き残れないよ」
「こいつはやるときはやるよ、平気さ」