04 記憶喪失①
よほど緊張が和らいだのか、私はいつの間にか眠りについていたようだ。
目が覚めると窓の外は暗くなっていて、灯りもキャンドルの光のみだった。
手に温もりを感じ、視線をやるとそこには先ほどベルのことをとても心配してくれたエミリーがいた。
ベルの手を握りながら眠ってしまったらしい。
ベルが寝ている間、彼女はずっとそばにいてくれたのだろうか。
少しの間エミリーを見つめていると、彼女の体が震える。
――寒いのかな。
私は体を起こして、近くにあったブランケットを手に取り、起こさないようにそっとエミリーにかける。
「んっ…」
小さい声で唸りながら、徐々にエミリーの目が開いていく。
彼女はベルと目が合うと、顔を青ざめ、すごい勢いで立ち上がるや否や思い切り頭を下げた。
「申し訳ありません!」
「え?」
突然の謝罪に、私は思わず目を見開いた。
――私に謝るようなことしてたっけ?
思い出そうとしても、何も浮かばない。
「ベル様が寝ておられる間に部屋に入り、しかも一緒に眠るなんて…。無礼をお許しください!」
この世界の人々は、というか、貴族たちはそんなことで腹を立てるのか。
――私は腹を立てるどころか、心配してくれることにありがたみさえ感じてたんだけど…
「エミリー」
ベルが彼女の名を呼ぶと、彼女の体がビクッと動いた。
――ベルは下の者たちに好かれているけど、怖がられてもいるみたい。
「顔を上げてちょうだい。私はそんなことで怒ったりはしないわ」
「ベル様…」
「さぁ、さっきみたいに近くに座って。話したいことがあるの」
彼女はおずおずと先ほどまで座っていた椅子に腰をかけて、ベルを見つめる。
ベルはエミリーを見つめ返しながらも、彼女が立ち上がったことによって落ちたブランケットをとり、もう一度彼女にかけた。
そして、彼女に視線を戻すと、とても驚いた様子でこちらを見ていた。
「どうしたの?」
「べ、ベル様はお優しいのですね…」
「…寒そうにしている人に毛布をかけるのは当たり前じゃないかしら」
私は当然のことをしたまでなのにと思いつつ言葉を返すと、エミリーは頬を赤らめながら呆気にとられていた。
「エミリー?どうかした?」
「い、いえ!何でもございません!」
私の問いかけに慌てふためく彼女がとても可愛らしく、思わず笑みが溢れる。
ふと、話をしなければいけなかったことを思い出し、気持ちを切り替えて、真剣にエミリーに向き合う。
エミリーも私の表情の変化を感じ取ったのか、背筋を伸ばして私を見つめた。
「これからいうことはあなたにしか言わないわ。だから、誰にも話してはいけない。もちろんお父様とお母様にもよ。わかった?」
「もちろんです。誰にも話しません」
私はエミリーを信じて口を開く。
「実は私、事故前の記憶がないのよ」
「…え?」