01 転生①
窓から差し込む朝日によって目が覚める。
昨日も残業でやけ酒をしたので、二日酔いのせいか頭が痛く、体もだるい。
――こんなことなら家に帰ってすぐに寝ればよかったかも。
体を起こし、視界がはっきりしてきて、やっと違和感に気づく。
私が横になっていたのは何年も愛用している質素な敷布団ではなく、ダブルほどのサイズがあり、美しい装飾が施されたベッドだった。
枕もシーツも触れただけでわかるほどの一級品で明らかに我が家のものではないことがわかる。
それに、部屋は私の部屋の5倍ほどの広さがあり、家具は全て、欧米の貴族が使うようなラグジュアリーな雰囲気のものばかりだった。
――…え、ここどこ?
私はおもむろに立ち上がり、ベッドの前に設置されている、ドレッサーへと向かう。
――こ、これって…!
鏡に写る姿は本当の自分ではなかった。
幼い顔立ちではあるが、艶のあるブロンドヘアーに彫刻のように白く美しい肌。最大の特徴はとても美しい翡翠色の瞳だろう。
なぜか、頭には包帯が巻かれていたが、本当の私には何一つ当てはまらないほど素晴らしい容姿だ。
しかし、私はこの姿に覚えがあった。
これは、私がハマっていた『禁断の恋の行方』という乙女ゲームの悪女、ベル・ハレスそのもの。
現実を受け止めきれず、呆然とした。
転生なんて、現実世界では到底起こり得ない話だ。
『禁断の恋の行方』
聖女候補に選ばれたヒロインが王都に訪れ、攻略対象と出会い、会話やイベントを重ねて攻略対象の好感度を上げていくゲームだ。
このゲームは無名の絵師が絵を描いているということで、最初こそは注目されていなかったが、ゲーマーの中で絵の美しさが評判となり、たちまち大人気乙女ゲームの仲間入りを果たした。
私自身も友達の勧めでプレイし始めたが、初めて絵を見たときはその美しさに言葉も出ないほどだった。
ベルは『禁断の恋の行方』の悪女として登場する。選択した攻略キャラの婚約者となり、ヒロインの恋の邪魔をするのだ。
最終的に、ヒロインと攻略キャラが結ばれてしまえば、ベルはヒロインをいじめてきたことをあかるみにされ、ベルは処刑され、ハレス公爵家は貴族としての爵位を失い、断罪される。だが、そんなベルは悪女にもかかわらず、その素晴らしい容姿から、ファンが大勢いた。
――っていうのが、乙女ゲームの内容なんだけど。
本当に乙女ゲームの中に転生したのかは未だ分からない。
だが、とりあえずゲームの内容を振り返りながら頭の中を整理していると、誰かがこの部屋の扉を叩く音が聞こえる。
「ベル様、エミリーです。失礼いたします。」
扉の向こうの人は私のことを[ベル]と、確かにそう呼んだ。