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 猫は一日の大半を優雅に寝て過ごすものだが、トトの場合はその例に漏れる。そもそも、トトは精霊だ。猫の体はトトにとってはただの容れ物に過ぎないのだが、この場合の例外が指すのはトトの正体ではなく、トトの苦労だったりする。


 眠気というのはただの猫にも、ケット・シーにも皆平等なのだ。旅の道中リルファに抱き抱えられてしまうと、ただの数秒で数時間は目の覚めない楽園へ隔離されてしまうほど、猫というのは眠気に弱い動物だ。が、トトにはその弱点を克服する必要があった。


 故に、その日もトトは弱点克服のため、リルファの胸に抱かれ――連日の蓄積した眠気にも抱かれ――今に至る。


 今に至るまでをわざわざ端折ったのは、せめてものトトの嫌味だが、それを言って聞かせる本人も今はこの場にはいないから始末が悪い。本当に間の抜けた話である。


「うーん……! うーん……!」


 そして、理不尽に焼き殺されかねなかった状況で、その場から逃げもせず一生懸命、うんうんと召喚に勤しむリルファにトトは、溜息をつかずにいられない。この緊迫した状況で、そんな間の抜けた光景に。


「ね、ねえ、リルファ。よく考えてよ。僕達は今、殺されかけたんだよ。ううん。僕達じゃない。リルファなんだ。あの炎の標的はリルファ、君なんだよ。魔女の手先の魔導士がこんなとこまで追って来たんだ。何より、今シェリーはここにはいないんだ。誰もリルファを守ってくれないんだよ、だから――」

「うん。でもね、トト。ここで逃げちゃったら、私の願いはもう叶わない気がする。立ち向かわなきゃ、何も変えることなんてでき――」

「それが無謀だって言ってるんだっ! 魔導士相手にリルファになにができるのさっ!」

「できなくてもやるもんっ!!」

「……うん、まあ。とりあえず、僕は声を荒げて反対したから、後があったらシェリーにちゃんと言っといてね」


 言っても利かないリルファの性格は把握済みのトトである。差し迫る現在より未来の自分を守るという消極的保身は、トトに出来得るせめてもの強がりだった。前向き、覚悟、願い、純粋。リルファの持つそれらすべても、理不尽な力の前では何の意味も成さないことを、トトは知っている。それでも、頑なにリルファを止められないのは、そんなリルファが好きだからに他ならなかった。


「――ごめんね、トト」


 そう言って、リルファは微笑みをトトに向けた。危機的状況での微笑みに宿る感情と、その予兆。その全てを払拭するように、トトはリルファにそっぽを向いて声を尖らせる。


「縁起でもないから、こういう時はありがとうって言った方がいいと僕は思う」

「そだね。……ありがと」

「どういたしまして」


 まるで、死の宣告のように着実に接近してくる強力な魔力の波動をその尾に感じながら、トトは声を返した。




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