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「ねえ、トト。どうして? どうして私達がこんな目に遭わなきゃいけないの?」
紅の業火に呑まれた家屋。黒煙は徐々に部屋を満たし、少女の逃げ道を閉ざしていく。外の世界は満月の夜。月明かりの元、紅蓮に染まりゆく景色はやがて全てをその炎に呑まれ、塵と化していく。
「そんなことより、リルファ! 早く逃げなきゃっ!」
少女の足元で、小さな黒猫が首に巻いた首輪の鈴を鳴らしながら声を荒げる。
「ちくしょう! あいつら、シェリーの留守を狙って来たんだ! 魔導師の留守中に寝込みを襲ってくるなんて……って、早く逃げようよ、リルファ! このままじゃ焼け死んじゃうよ! この炎……ただの炎じゃないよ!」
「力がないからこんな目に遭わなきゃいけないの? 力がないと何も望むことは許されないの? ……だったら、私は力が欲しい。私の望みとみんなを守る力が欲しいよ」
少女の首から下がるペンダントが、その胸元で淡い光を醸し出す。例えるならその輝きは、少女の願いのように儚く、だが、少女の決意のように強く強く輝きを増していく。
「ち、ち、ちょっ! だ、駄目だよ、リルファっ! 召喚魔法は――」
「ごめんね、トト。……シェリー」
「後で僕がシェリーに殺されるんだからーーーー!!!」
黒猫の断末魔とともに、少女の魔力を乗せた願いの光は天を貫き、奇跡にさえその手を伸ばした。