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 火種もなく、大地の上で燃え上がる不自然現象を消し飛ばした直後の喋る猫からの第一声。なんで裸なんだお前はというツッコミを皮切りに吐き出される言葉の台風の目を聞き流しながら、シェリーはとりあえずの安堵とそれとは相反する感情を胸にしまいこんだ。


 とにかく「この馬鹿っ! こんな大変な時にっぁああ、もう、ホント信じらんないよ、後ちょっとで死ぬとこだったんだよ僕達、ねえっ! それとも、狙ってんの!? ピンチを間一髪で救うヒーローでも狙ってるわけ、どーなのさ!? ルーズなのは方向感覚だけにしとけぇっっ!!」などと、興奮冷めやらぬトトを先になだめなければ話は先に進まない。シェリーは仕方なく暴言の隙間を縫って、トトとの会話を試みた。


「……ああ、トトか。こんなところで何をやっていたのだ。火遊びも大概にしておかないと命を落とすことになるぞ」


「あれが遊びのレベルに見えるお前の目は節穴かっ!」


「何を怒っている。ただの冗談だ」


「だから怒ってんだよっ!!」


「何を言う。ここは笑うところだろう。さあ、笑え」


「死にかけた直後に笑えるかっ! 空気読めぇっ!」


 どうやら、冗談の一つでは収まらない事態だったらしいが、シェリーにはその自覚が今一つ掴めなかった。自分たちの置かれる立場から何が起こっていたかは想像に難くない。だが、その想像の前提となる「敵」がどこにも見当たらないのだ。が、変わり果てた姿で地面に寝るリルファを目にしたシェリーは、自覚した。


 たった今、シェリーの胸の奥でざわめいたもの。それが恐怖か憤りかは本人にも図りかねた。


「……なるほどな。承知した。本当に危うかったというわけか。それで、トト。私は間に合ったのか?」


「――シェリー……」


「リルは無事なのかと聞いている」


「どこをどう見れば無事に見えるのさ。でも……生きてるよ、リルファは」


 そっぽを向き、口を尖らせながらのトトの言葉にシェリーは「そうか」と肯いて、今一度辺りの様子を窺った。


「ところで、トト。お前達は敵に襲われていたのか」


「え? ……何言ってるのさ。そんなの見れば分かるでしょ」


「何を言う。この場に魔導士らしき敵は存在しないではないか」


「……あそこで倒れてる赤いコートを着た中年に僕らは殺されかけてたんだよ。あれ、シェリーがやったんでしょ。敵じゃなきゃなんのつもりであいつをぶっ飛ばしたのさ」


 トトの呆れ顔に向け、シェリーは一片の躊躇もなく答えを提示した。


「奴のファッション(アフロ)が不快だった」


「……うん、結果オーライ。ってか、裸のくせに人のこと言えないでしょ、全く」


 ため息交じりに、トトは変身魔法トランスを唱え、それをシェリーにかけた。トトの瞳から放出される小さな光の玉。ふわふわと宙を舞い向かってくるそれをシェリーは黙って受け入れた。


 薄い光が体の輪郭を覆い、やがて光は凝縮し物質へと変化する。が――。


 光は水着へと昇華し、シェリーの露出度を抑えることはなかった。


「……ふむ。今回は水着か」


「し、しょうがないでしょ。僕の変身魔法トランスは僕の記憶に基づくイメージの中からランダムに抽出されて、相手に反映しちゃうんだから」


「いい。このほうが動きやすいからな。ところで、トト。リルの隣で寝ている娘と、そこで倒れている青年は何者だ?」


「え゛……」


「ここに向かう途中、リルの魔力の光を見たのだが?」


「え、えーとねえ。そ、そそ、そ、それはねぇ……?」


 見るからにうろたえながら目を泳がし出したトトに、シェリーは一歩詰め寄り、しゃがみ込んだ。


「どうした。何を辟易している。ありのままを全て話して――」


「! シェリー!!」


 弾けた声とともに、背後に迫る熱。トトの驚愕の表情がその後を追う。振り返ると、巨大な炎の塊が眼前まで唸りを上げて迫って来ていた。だが、炎が対象を焼き尽くすよりも先に、シェリーの手は熱源に触れその全てを無に帰した。


 突き出した掌の向こう。直線上に立っている目障りな対象を、シェリーはようやく「敵」と認識し、立ち上がる。


「シ、シェリー……」


「止めを刺してくる。話はその後だ」


「う゛、うん……。が、ガンバッテネ」


 裏返ったトトの声を気に留めず、シェリーは駆逐を開始する。








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