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迫りくる業火に成す術はない。致死に達する距離を図ろうにも、一方的な燃焼の副作用は景色を歪ませ、炎との正確な距離は分からない。
まるで、手足をもがれた虫のように、抗うことも許されず死を受け入れなければならないなんて――。
「嫌だ……イヤだよ、リルファ。お願いだから、死なないで……」
勝のことは完全に忘れ去ったトトが、悲観にくれ、絶望した。
その直後だった。
――唐突に、業火が目の前から消え去ったのは。
「……?」
何が起きたのか理解できず、トトはただ目を丸くする。
状況の激変に、理解も感情も追い付かない。ただ、禍々しい紅蓮の炎に塞がれた景色が一気に晴れ、月明かりに浮かぶのは、見知った魔導士の後ろ姿だった。
「あ……な……な、んで――」
ただそこにいるだけで安心しきれる信頼。助かったという確信。そもそも不在というそれだけのためにここまで追い込まれる羽目になった張本人への不満。それらすべてを忘れさせる魔導士の登場シーン。そのインパクトは、敵の炎を排除するよりもなお、シンプルかつ強烈だった。
「――なんで、裸なんだお前はっっ!!」
公然わいせつな女に、トトは力の限りツッコんだ。