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敵は魔女の刺客、魔導士なのだという。魔導士は魔法を使役する人間を表す総称で、今まさにその魔導士に襲われている。周りを囲む炎も魔法によるものだ。そして、今からその炎を生身のまま突進してぶち抜き、炎の外にいる魔導士をなんとかしてこいというのが、喋る猫の言い分だった。
ちなみに、桜の横で眠っている女の子により、自分達は召喚された。お前らは彼女を守る義務があるというのも喋る猫の言い分だ。
「ね、猫ちゃん? い、今なんて――?」
「リルファのペンダントは退魔効果があるんだ。それを貸してあげるから頑張って」
「いや、そこじゃなくてっ! 肝心な頑張る具体的な内容飛ばしたら駄目でしょっ! ってか、それ頑張ってどうにかなる問題!?」
「アフロに全身を覆う真っ赤なコート。それに手袋もね。そんな髪型と格好を好き好むモノ好きはいないだろうから、あれは敵の弱みそのものだと思う。つまりね、炎の魔法を扱うのに、あの赤のコートと手袋は必要不可欠な耐火の魔道装備品ってこと。自分自身に炎の耐性はないんだと思う。それは炎のせいでチリチリに出来上がったあのアフロ頭が物語ってる。だから、敵のコートを剥ぎ取って接近戦に持ち込めば、敵はおいそれと魔法は使えなくなる。勝機は十分あるよ」
「いやあのだから。何で僕がやるって前提で話が進んでるの?」
猫が喋る事実さえ寛容される窮地の中、一方的に押し付けられる無理難題。桜との付き合いにより、理不尽を味わい尽くしてきたさすがの勝でも、炎に向かって生身で突っ込めなどという命令、もとい扱いはさすがに受けたことはないのだ。
だが、黒猫は平然と言い放つ。
「あのね。状況見てモノ言ってよ。この炎の内側の酸素は燃焼されてどんどん薄くなっていってるんだ。後、十分もしないうちに僕達全員窒息しちゃうって分かんない? おまけに、見てよ。炎の範囲が徐々に狭まってきてる。一刻の猶予もないんだ。僕はリルファをこんなところで死なせるわけにはいかないんだっ! 君はどうなのさ!」
黒猫の言葉に、勝ははっとして、桜へと目を向けた。
そうだ。これがいくら夢だろうと、桜を見殺しになんてできるわけがない。なんだかんだ言っても、結局いつも桜は自分を助けてくれた。守ってくれた。その行為に報いる日が来ることを――桜をこの手で守れる日が来ることを、本当は心の奥底でずっと待ちわびていたのだ。
「――そうだ。僕は桜を……桜は……僕が……」
先走る願望は、状況も危機感もシカトして、勝のテンションを突き上げる。燃えたぎる炎の熱よりも熱く、勝は握り拳を天に向け突き上げた。
「分かったよ、猫ちゃんっ! ――桜は、僕が守るっ!!」
猫に言いくるめられる人間の姿がそこにはあった。