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 まだリルファは十二歳なんだから、我儘わがままなのは仕方ないとトトは思う。でも、いつもリルファは自分勝手を言わない。リルファの我儘は、いつだって自分のことを二の次にした我儘だから、心配だった。


 心配なんていくらしてみたところで、危険を払える訳じゃない。願いを叶えることもできない。でも、そんなことをトトが漏らした時、リルファは言った。


 ――心配は優しい気持ちから生まれるものだから、トトが私を心配してくれるのはすごく嬉しいよ。


 それなら、トトはリルファのことを心配しようと思った。守ることはできなくても、それで少しでもリルファが喜んでくれるなら、心配してあげようと思った。そして、その結果、リルファは自分の代わりに敵の炎に焼かれた。


 目の前でリルファが炎に呑みこまれた瞬間、トトはリルファの背負う重荷を実感していた。


 守られるということに伴う代価。


 二度目の光は炎をかき消し、リルファは結果死なずに済んだ。でも、それは約束された結果じゃなかった。


 トトは、悲鳴を上げるように、地面に倒れたリルファに必死に呼びかけた。


 自分を守るせいで、誰かが死ぬかもしれない。


 その誰かが、大切な人であればある程。


 ――これが……守られる側の恐怖。リルファの……重荷。







 だからこそ庇わずにはいられなかったのだと、倒れたリルファの姿を目の前にトトは痛感する。間の当たりにした想像しただけで絶望する光景が脳裏に焼きつく。でも、光はそんな絶望もかき消してくれた。リルファは生きてくれていた。


 焼け焦げた衣服とは対照的に、リルファの肌は健やかな白色のまま、素肌には火傷一つ見当たらない。気を失いながらも、あどけないその寝顔はまるでベッドの上で眠っているように呑気なものだった。


 いつの間に変身魔法が解けたのか、ようやくトトは自分が猫の姿に戻っていたことを自覚した。リルファの胸に顔を埋め、そのぬくもりと平穏な鼓動の中で、頭に昇りきった血を下げていく。生きた心地とともに、戻ってくる現実感。だが、一時の安心を握りつぶすように、敵が次の行動を起こす瞬間をトトは目撃した。


 まだ、窮地から逃れたわけではなかったのだ。


 敵が離れた場所からこちらに向けて手を伸ばし、掌を向ける。そんな何気ない行為でさえ、命を摘む手段になるのが魔導士という生き物なのだ。


 発火。炎上。脱出不可。その流れを見守ることしかできない自分にトトは唇を噛むことしかできなかった。それでも、光が誘った奇跡がこの場にいてくれるなら、絶望するにはまだ早い。そう。リルファが召喚した召喚獣がここに――。


「やっぱり、桜も女の子なんだなぁ……」


 ――いたが、その瞬間トトは召喚失敗を懸念した。それでこそリルファだとも、危機感を通り越して、少し思った。


「猫の話を聞けえっ!!」


 いくら呼んでも女の寝顔に釘づけの大男に、トトは渾身の猫パンチをお見舞いしたのだった。


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