1
件名・自称女の子→性別メス(分類・猛獣)なあなたへ。
――初めまして。そして、ご機嫌よう、猿野郎。唐突ですが、あなた様は今世紀最大最高の幸せ者だと言っても過言ではありません(笑)。さてさて、あなた様は、これより30秒以内にこのメールと同じ内容のものを友達百人に送らなければ不幸になりますが、そんなに友達をお持ちでない根暗なあなたの人生ならば差し支えないこととお察しします。えーもう10秒は経ちましたでしょうか、ちなみにこれ百通送ったとしても不幸になりますので無駄なことはしなくていいです。いいじゃないですか、どうせ負け犬人生――っと失礼しました、勝手に決めつけるのはよくありませんよね、くうぅ~ん(負け犬鳴き真似)。
くんくんくうう~ん、きゅうん、くんくんくぅ~ん?(あ、負け犬語じゃなくても通じるんですか?) 失礼しました。では、そろそろ本題に入りますね。
お前はもう、不幸になっている(ビシッ)。
PS あなたの足長おじさんより。
四月。桜咲く麗らかな春の朝。入学初日の今日、家を出たばかりの勝を待ち受けていたのは、幼馴染の女の子の可愛らしい笑顔だった。
爽やかを絵にかいたようなその微笑は、門扉を出たばかりの勝の目と足をその場に釘付けにするには充分だった。柔らかな朝の陽光を一身に浴びた可愛らしい純真な笑顔。親しい相手にだけ許す微笑ましい心象風景=笑顔。の下でその身につけた新調したての制服が、まるで「君に見せたくて」的な意味合いをちらつかせるのは、その笑顔の持ち主が「ねえ、勝。一緒に学校行こ」と言わんばかりの笑顔を普段決して勝に向けることも、ましてお出迎えなんて可愛い行為もしないことに起因する。
朝一番のサプライズ。そして、サプライズとは時として人を喜ばせることもあればその逆も然りだが、両成分を兼ね備えたサプライズとなれば、それは滅多にお目にはかかれない代物だ。が、あえて、具体例を挙げれば――そう。
最高の笑顔をくれた幼馴染の女の子が一転、鬼の形相で「どらあぁ!」などとやくざ顔負けな咆哮を上げ、自分より一回りも体格の大きな幼馴染の男の子に飛びつきラリアートを手加減なしで喉元に食い込ませ、あまつさえノックアウトしてしまうという、そんなたった今起きたばかりの、嘘のような本当の話。
爽やかな朝の片隅で突発したその事故に目撃者はおらず、結果だけがその場に取り残された。つまり、家の前の道路脇でひれ伏す大の男と、その傍に立つ小柄な女子高生の図だ。一見して二人の関係を表す幼馴染という言葉の説得力は見る影もなくなったが、「好きな女の子の笑顔に見惚れた顔」のまま意識を断たれた勝は本望そうで、実際本望だったのだ。そう、なぜに高校入学初日の朝っぱらから片恋中の女子にキツイ一撃をかまされなければならないのかは謎だが、そんな理不尽も作り笑顔一つで帳消しになるほど、片思いとは儚いものなのだ。勝は満足の中、静かに眠りに――。
「ちょっと、勝っ! 何寝てんのよ、起きなさいよっ!!」
――つけないからこその理不尽がそこにはあった。
勝の学ランの襟首を両手でむんずと掴み上げた彼女は、前後左右力一杯勝の脳を振り回し、台詞と行動の噛み合わない言動に気付くこともなく荒療治を延々続行した。その介あってというか、ここで目を覚まさなければ本気で目覚める機会を失ってしまいかねないと懸念した自己防衛本能というか、とにかく勝は奇跡的に目を覚ました。
「さ、桜……ちょ、あの……」
が、そのもはや攻撃が止むことはなかった。
「起きろってのよ、勝ぅ!!」
「た、たすけ……」
「勝ぅーー!!!」
次に勝が目覚めた時、そこは慣れ親しんだ自分の部屋のベッドの上だった。
更新は不定期、勝手気ままになります。