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南門は西門ほど立派では無く、どちらかと言うと、実用性重視と形容できる見た目だ。
厚く強固な木材で作られ、鉄の補強が所々に施されているが、華美な装飾は見られない。
それでも、その門が長い間この地を守り続けてきたことは、その頑丈さと風雨にさらされ色褪せた木材から伺える。
門の下部には大きな石のブロックが積み上げられており、その石には長年の風雨でできた苔が薄く覆っている。
石の間に刻まれた古代文字が、かつての栄光と伝統を物語っているようだ。
門の根元に伸びる列は長く、まるで蛇のようにくねりながら私の所まで伸びている。
並んでいる者たちは多種多様で、地球では見られない特徴を持つ者たちが目立つ。
ツンと張った獣の耳を持った者や、大きな剣を背中に携えた者、ローブを深く被った者など、その姿は異世界ならではの光景だ。
彼らは一様に少し小汚い。
旅の疲れや試験の準備で忙しいのだろう。
「ここが異世界なのだな」と実感する私。
この世界の文化や人々、そしてこれから待ち受ける試練に対する期待と不安が入り混じる。
すると、後ろから不意に声を掛けられる。
「そこの者、並んでいるのか?並んでおらぬのか?」
咄嗟の声がけに動揺した私は、一拍おいて後ろを振り向き、告げる。
「申し訳ない、列を眺めていたんですよ」
「列を…?変な御仁だな、大した街でも無いだろう」
そう言って、珍しい者を見る目で私の顔を覗き込むのは金髪の美女だ。陽光を反射してキラリと輝く碧い瞳に、思わず吸い込まれそうになる。
彼女の金髪はポニーテールにまとめられ、風に揺れている。その顔立ちは整っており、鋭さと美しさが共存している。鎧の下から覗く肌は白く、健康的な輝きを放っている。
彼女が纏う鎧は光沢のある金属製で、そのデザインは機能性を重視しながらも優雅さを失わないものだ。
腰には青白く光る柄のロングソードが収められており、その美しい剣と佇まいからは彼女の戦士としての高い実力が伺える。
鎧には様々な傷や擦れが見られ、それが彼女が幾多の戦いや旅を経てきた証拠であることを示している。
怪訝な顔をして私を見つめる彼女に、慌てて言葉を続ける。
「探索者ってヤツになりたいなあと思い、田舎から…」
頭を掻きながら、既に考えてあった言い訳をツラツラと述べる。
頭からつま先まで私を一瞥した彼女は、ふとため息をつく。
「そうは言うが、お主、得物持たずに試験とは。死にたいのか、舐めているのか分からんな」
私の言葉とは裏腹に、彼女は面白い馬鹿だなという表情で、風が吹くように笑う。
クスリと崩した顔に見惚れてしまいそうになるが、何でも無いですという表情で取り繕う。
「思わず、貴方の素敵な笑顔に見惚れてました」
「お主、随分軟派な男じゃの〜?じゃが、褒める間と余裕感は二重丸じゃな。ありがとうの」
サラッと褒めてみたが、流石美人、言われ慣れているようで簡単に返されてしまった。
「私は地元でフェンシングを11年ほど、武器は道中で破損してしまったので買い替えたいなあと」
「ふむ、細剣使いかお主。背筋と立ち振る舞い、姿勢が綺麗じゃからの〜。何かしら”使える”とは思っておったが、道理で。」
やはり、見る者が見たら分かるようで、武を嗜む者は武を見抜くことに長けている。
見抜く事に長けている物は、その人間の立ち姿である程度実力が分かる物だ。
現に、彼女の類稀なる姿勢の良さは、体幹を鍛えている証左であり、維持するための筋肉がそれだけあるということになる。
「細剣なら押収品の中にあったの〜〜〜?」
モゾモゾと体を弄り、「ほれ。」と彼女が言うと、何も無い空間を右手で掴み、レイピアがのっそりと出てくる。
「これをお主に貸して進ぜよう、貸し一個、じゃな」
そう言うと彼女はにへり、と相好を崩す。
私はこんなにも初対面で良くして貰う事に疑念を抱く。
「なんですか?」
「なんでと言われてもの、シンプルに顔がタイプじゃから、かの?」
潔い良いぐらい気持ちの良い返答だった。
「そうですか」
と少し照れる私の表情を見て、彼女はしてやったりといった表情だった。
どうやら、彼女は私と同じく探索者志望のようで、列に並びながら色々と教えてくれる。
「探索者試験とはな?人間としての誉れ、至高の存在なのだ。冒険者とは比にならない名誉、財産、実力を示す、武人としての究極。ここに居る皆が試験に受かる夢を見ているの、だよ」
彼女は熱を込めて語り、掌に力をグッと込める。
「と言っても、ここに見える九割九分九厘は試験には合格せんのだがな」
彼女は周りには聞こえない声でボソッと補足する。
「ここはセリガー辺境伯のお膝元、ソイソダ。今年の一次試験開催予定の街。世界を変えてやろう、俺が天才だって顔つきの馬鹿が集まる街だ」
「じゃあ、その馬鹿二人って事ですね。俺と貴方も」
「そういうことになるだろうな!」
彼女は大胆に笑い、返しが気に入ったようで手を差し出してくる。
「これは?」
「握手じゃ握手、少ーしだけ、お主を気に入った。名は何と申す?」
名は?と言われても困る。前世の名を使うのは些か面白くない。この世界の名付けの法則や規則性も知らない私は、前世でよく見かけた普遍的な名前を使うことにした。
「田中です、田中」
「ここらでは聞かぬ響きだな!私はハイケルド。ソヨゴの教会騎士である。よしなに」
ハイケルドと私は握手を交わす。彼女の手は冷たくもあり、強さを感じさせる。
少しだけ握力を強められ、苦い顔をすると、彼女は悪戯成功と言わんばかりの顔で笑っている。
ソヨゴと言えば、あの行商人が言っていた霊峰の名だ。彼女に信者的な真面目さは無さそうで、イメージと現実のギャップを感じる。
彼女の着る金属鎧に目を向けると、五芒星のマークが刻まれており、あれがソヨゴのマークかと、思わずにいられなかった。
「次!」
門にも負けぬ無意味な大きさで衛兵が声を掛ける。
私とハルケイドは慌てて門の下へ向かう。
雑談に夢中で、列が捌けていることに気付かなかったようだ。
「目的は?いや、言わなくてもいい、受験希望者であろう?一時通行許可の紙を渡す、紛失しないように。紛失した場合、金貨一枚、又は二年以下の懲役だ。くれぐれも、私たちの仕事を増やしたり、問題が起きんよう、注意する事」
衛兵から渡された紙を慎重に受け取り、ポケットに
しっかりとしまう。
私とソイソダは目を見合わせ、随分と早口な衛兵だったなと苦笑いする。
私とハイケルドは街へ足を踏み入れた。
白蛇がくねったように細長く湾曲したような街で、側溝の近くに生えている街路樹は、微風に揺られ、生き生きと靡いている。
木々の緑は街の喧騒の中に安らぎをもたらし、その下を通る人々に一瞬の涼しさを与えていた。葉が擦れる音がかすかに聞こえ、自然の調べが街の騒音に混じって耳に届いた。
街路樹の間から覗く建物は、古い石造りの家屋と近代的な金属構造が混在しており、その対比がこの街の独特な魅力を醸し出していた
活気に満ちており、様々な店が軒を連ね、異形の動植物や魔法が融合した奇妙な商品が並ぶ市場が広がっている。
商人たちの威勢のいい呼び声があちこちから響き渡り、私はその光景に圧倒された。
私が歩みを進めようとすると、前方に仁王立ちしながら、私をジッと見つめる女が目に入る。
「アナタ、匂いますね?」
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