ケモミミ少女はお外でおしっこしません!
少しだけ時間ができたので短編を作りました!
前作に続いて下ネタですが、よろしくお願いします!
「シノ、お座り!」
「はい!」
「伏せ!」
「はいっ!」
異世界にケモミミ少女として転生した俺――じゃなくて私、シノ。
前世の名前は牝越智詩乃。
平日は朝から晩まで仕事、たまった疲れと洗濯物を休日に何とかする生活を無限ループしていた。
働くのは特別好きだった訳じゃない。
むしろ嫌いだ。
だけど一人暮らしっていうのは意外と金食い虫で……。
会社の命令には逆らえず、無茶なスケジュールと無神経な依頼に耐え、仕事に忙殺される哀れなサラリーマンだった。
「こんな生活やってられるかッ!!!!」
どうやら溜まっていたストレスは解消できていなかったらしい。
当時の私はやけになって退職届を突き付けて、自宅アパートにこもって電子書籍で買った怪しげな魔導書を読みふけった。
そしてうっかりあけてしまった『異世界の門』に飲み込まれてしまったのだ。
気が付くと神様の目の前に倒れていた。
一部始終を千里眼で見て大爆笑した神様の厚意で、私は無事に異世界に転生。
かわいい犬耳と白くて美しい毛並みを併せ持つケモミミ少女に変身!
貴族のお嬢様に気に入られてペットとして飼われることになった。
スローライフ願望と、ついでに隠していた色々な願望まで叶えられて、嬉しいような……恥ずかしいような……。
そして今は『男』『社会人』『三十歳』と、持っていたすべての尊厳を投げ捨てて、アリスお嬢様に遊んでもらっている。
恥ずかしくないのかって?
そりゃ恥ずかしいさ!
でも……し、仕方ないだろう?
だって、私のスローライフの命運はアリスが握ってるから……。
「シノはいい子だね~。なでなで~」
「わふぅ……」
そして頭やお腹をなでなでされると、めちゃくちゃ気持ちいいからっ!!!!
ほんと、たまんねぇんだわん……。
ペットになって女の子に服従するのは全人類の願望なんだわん……。
「シノは本当になでられるのが大好きだよね」
「わふっ。わふっ」
「あは、ちょっともう。くすぐったいよぉ」
私はお返しに頬をペロペロしてあげる。
大丈夫、今はケモミミ少女だから……ただのじゃれあいだからセーフ……。
◇
アリスの家は貴族だけあってめちゃくちゃ豪邸だ。
部屋の数は意味不明。
庭は野生のモンスターが現れる森付き。
お風呂は広くて二人で入っても余裕で泳げる。
そしてトイレもめちゃくちゃ広い。
「広いとちょっと落ち着かないんだけどね」
ぶるっと身震いをして、一休み。
「一人で入るのにこんなに広くする意味あるの?」
貴族様の考えることは分からん。
そう心の中で呟きながら慣れない豪邸トイレ(家族用)から出ると、女性の執事と一緒に本を片手に通路をトコトコ歩いている美少女がいた。
「あ、アリス」
「シノだ! トイレ一人でできたの? えらいね~」
「くぅ~ん」
遭遇したアリスに頭をなでなでしてもらう。
なでやすい高さに屈む日常にもすっかり慣れてしまった。
クセになってんだ、アリスに会ったら無意識でしゃがむの。
「アリスはお勉強?」
「うん。頑張ってお父様みたいな、いろんな人に尊敬される人になるんだ」
くぅ~~っ……えらすぎる!
「そっか。勉強おわったら、たくさん遊ぼうね」
「うんっ! 頑張って早くおわらせるから、オマグやアンと一緒にいい子で待っててね!」
笑顔で頬ずりするアリス。
やっぱり女の子は笑ってる顔が一番だ。
ちなみに『オマグ』『アン』というのは、アリスが飼ってる大型犬のことだ。
「ところでシノ?」
「ん? どしたの?」
「さっきあそこのトイレから出てきたよね」
そういってさっきまで私が入ってたトイレを指さすアリス。
「え? うん。そうだけど」
「ふーん……」
あれ、もしかして匂う?
くんくんくん……。
いや人間のアリスが気付くような匂いは残ってないはずだけど。
「シノは、オマグやアンみたいにお外でしないの?」
「お外で? 何を?」
「おしっこ」
おしっこ?
外で?
私が?
――確かにッッ!!!!!!!!!!
ケモミミ少女は人間と違って、動物としての習性がいくつか残っている。
人と同じようにトイレでするんじゃなく、外で堂々とするというのも一理ある。
さすが聡明なアリスお嬢様だ。
「しません」
女執事さんが眼鏡をクイッとしながら冷静に指摘する。
「そうなの?」
「はい。シノはちゃんとシツケがされた人狼ですから、そんな事はいたしません」
「なーんだ。そうなんだ~」
「そうですよね、シノ」
「え? あ、そ、そうなんですよ。シノは賢いので。えへん」
あぶねぇあぶねぇ……。
今の私は尻尾とケモミミが生えてる以外は普通の女の子だ。
そんな私が何もない外でおしっこしてるなんてことになったら、アリスの教育上あまりよろしくないかもしれない。
お嬢様が変な事を学ばないように先手を打つとは。
さすが女執事さんだ。
まあ私はケモミミ少女ですし、元人間ですし?
女の子になった今、そんな事するはずがないんですけどね。
それこそ緊急事態でもなければ……
◇ ◇
「はあっ……はあっ……」
興奮のあまり息が上がってしまう私。
「いや~どうしましょう。すごくトイレ行きたいな~。なんせメイドさんの紅茶があまりにもおいしすぎて、うっかりティーポット五杯分お代わりしちゃったから。でもしまったなぁ~。ここはお屋敷のとてもひろ~いお庭だし、トイレなんて近くにないしなぁ~」
めちゃくちゃ説明口調で私は庭をひっそりと散策していた。
屋敷から少し離れた場所で、周囲にメイドや魔物の気配はない。
「あれれ~道に迷っちゃったな~。うーん、困ったな……」
キョロキョロと私は周りを見回した。
近くには建物がない代わりに、所々に草木が生い茂っている。
座り込めば周囲の茂みのおかげで肩から下はかなり見えないだろう。
うっかり、いつの間にか見られてました、何てことはないはずだ。
「こ、このあたりなら……ゴクリ……」
お嬢様の行動予定もバッチリ把握済み。
お昼を食べてからおやつの時間までは女執事さんとミッチリ勉強時間だ。
邪魔されることは絶対にない。
むしろ今がベストタイミングッッ!
「はぁ、はぁっ……これは生理現象だから……仕方なくだから、ね?」
私はおもむろに自分のショートパンツを掴む。
その下に履いていたモノごと、おろしながら屈んだ。
日常のありふれた行為。
それでもトイレや脱衣室でするのとはまた違う感覚がある。
例えば、そよ風が吹き抜けて、太ももの間をスルリとなぞる。
ゾクゾクッと背筋から電気信号が走り抜けた。
頭が痺れる。
「んひっ」
快楽物質がドバドバ出ているのを感じる。
バカになった頭でも理解してしまう。
「やっちゃだめなやつだ、これ……。絶対に、アリスが覚えたりしないようにしなきゃ……私がしっかり見張って、ないと……あはぁ……♡」
未知の感覚に溺れながら、はっと我に返る。
草むらで、ズボンおろして、ヨダレ垂らす。
「このままじゃただのヘンタイじゃん……」
いや、これからする事もなかなかのヘンタイな訳だけど。
私は覚悟を決めて、キュッとお腹の下あたりに力を入れる。
「ちゃんと、やることやらないと……んっ」
緊張のせいか、なかなか出ない。
それでも全神経を集中して、やっと、体がぶるぶるっと震える。
来た。
やがて生暖かい感覚が、ぶしゃっと勢いよく放たれた。
「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……」
思わずため息が出た。
ほっとする安らぎのひととき。
鳥のさえずりや、木の葉のざわめきに紛れて、ぴちゃぴちゃと水音が鳴り続けている。
メイドさんが高い茶葉で入れた紅茶を、私の体でろ過して出来た生命の水。
それが足元の緑を黄金色に滴らせ、地面を黒く湿らせていく。
「あはは……すごい出るじゃん……はず」
思ったよりも水流が強くて、誰かが見てる訳じゃないけど顔が熱くなった。
でもいつかその栄養が草木に種を付け、大地から新芽が育まれるだろう。
ちょっとした自然の摂理。
何も変な事じゃない、多分。
「もう少し勢いつけたら、向こうの根っこに届くかな……?」
そう言いながら私は一メートルくらい離れた所に生えている樹木を見つめる。
楽しくなってきた私は「よぉし」とニヤリとしながら向きを少し変えて力を強めた。
高さが必要なので、若干上に向けて腰を少し持ち上げて。
けど私の意思に反して、水流は衰えていってしまう。
「ありゃ、もうちょっと頑張ってよぉ」
ちょろちょろ、と情けない音を立てて、あえなく終焉。
放水は打ち止めになってしまった。
「残念、燃料切れだ。仕方ない、また今度にすればいいか」
また今度?
たまたまトイレが近くになかったから仕方なく……だったのに?
すっかり建前を気にしなくなっていた自分と、非日常な状況が面白おかしくて、クスクスと笑い声が漏れてしまう。
「さて、誰かに見つかる前に退散するとしますか……」
私は用意していた紙を取り出そうとする。
「あんっ」
「へ? アン!?」
いつの間にか、茂みから紫髪の大型犬が首を出してこちらを見ていた。
お嬢様の飼っている愛犬の一匹だ。
行為に集中していたせいか、こんなに近くに来ていても気が付かなかった。
「わんっ」
「オマグも!?」
いや、二匹が気付いたのも当たり前じゃないか。
マーキングだ。
この屋敷の愛犬として自分よりも長く住んでいる二匹。
だったらその庭は、どれだけ広くても二匹が時間をかけてマーキングして、しっかり縄張りを形成していてもおかしくない。
そして、そこへ突如として現れた私のマーキング。
二匹は縄張りへの侵入者を確かめに来たんだ!
「あん! あん!」
「わんっ! ハッハッハッ」
二匹は正体が私だと分かると、顔を見合わせて、飛び掛かってきた。
「わっ!」
勢いに負けた私は後ろに押し倒されてしまう。
私がケモミミ少女だからか、この二匹はいつも強めにじゃれついてくる。
抱き着いてきたり体をこすりつけてきたり……もしかすると同じ犬だと思われているのかもしれない。
「今はやめなさいって! あとでしっかり遊んであげるからっ!」
ハーフパンツに手が届かない。
慌てて服の裾を引っ張ってガードするけど、二匹は容赦なく長い鼻で押しのけて匂いの根源をたどってまさぐってくる。
クンクン、スーハースーハー。ペロペロ。
「ちょっと! やめないか! まだ汚いからっ!!!」
「わんわん!」
「あんあん!」
「ちょ、ダメ、引っ張らないで!!!」
アンよりも一回り大きな巨体で覆いかぶさって私の動きを封じるオマグ。
その隙になぜか私の履いていたモノを剥ぎ取って、しきりにスンスンと匂いを嗅ぐアン。
「私のパンツがっ!!! っていうか嗅ぐな! もしかして匂うの!?!?」
なんとかオマグをどかそうと頑張るが、強いオスには敵わない。ペロペロされまくってしまう。
あ~~~!!!
いつの間にか紙もどこかに行っちゃうし! もう誰か何とかして!!!!
「アン~? オマグ~?」
あ、アリス!?
どうしてアリスがここに……? まだ勉強中じゃ……。
「せっかくオヤツの前に少しだけ遊ぶ時間貰えたのに~。どこ行ったの~?」
説明ありがとう! でも今はこっちに来ちゃいけないよ!!!
「あん!」
「わん! わん!」
「あ、バカっ、こらっ……!」
二匹の呼び声にアリスがこっちを振り向く。
「アン、オマグ! もう勝手に行っちゃだめだよ。あれ、シノ?」
「あわわわわっ。駄目! こっちに来ちゃ――」
「シノ? 探したんだよ~。こんなところで何をして……る、の?」
「っ~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!」
ご主人様が来た事で、ご丁寧にどいてくれる二匹。
おかげでアリスの目には、アンモニア臭が漂う水浸しの草むらで、下半身まる出しで顔だけ隠して仰向けになっているケモミミ少女が映っているだろう。
私の方は、恥ずかしすぎて、もう、いっそ殺して……。
その後、私は女執事さんからこっぴどく叱られて、ご飯抜きにされて。
そしてあの事件以来、アリスの視線が妙に生暖かくなったのだった。
「ひーん! もうお外でおしっこはこりごりだよ~~~!!!」
読んでいただきありがとうございました!