第六章 感情障害 躁(ソウ)ステージ
■第六章 気分障害 躁ステージ
ある日、突然に連絡がきて
今すぐに逢いたいので来て欲しい。
赤坂にいるからという連絡。
何事かもわからず指定場所に向かう。
「アルコールが飲みたいから付き合って欲しい」という。
店では何故か笑いが止まらずハイな状態。
手を打ちながらオーバーアクション。
まだ、酔うほど飲んではいないのに。
まるで酩酊状態。
いつもの麗子とは雰囲気が明らかに違う。
そして突然に堰を切ったように非難の言葉が
何の前ぶりもなく発せられた。
「あんたは私と付き合っているつもり?」
「自惚れてんじゃないの?」
「私みたいないい女と釣り合うわけないでしょ。」
「お情けで付き合ってあげてるんだからさ」
「まさか両想いだなんて錯覚してないよね」
「あんたに男としての魅力一度も感じたことないよ」
「ちょっと優しくしたら、付け上がってさ」
いままで、「あんた」という言葉を聞いたことがなかった。
何に怒りを感じているのかわからない。
麗子が激しい言葉を投げかけてくる。
汚い言葉づかい。
人に対していう言葉ではない。
凄まじい人格攻撃。
次々に発せられれ尊大で傲慢な言葉。
美しい知的な顔立ちとのギャップ。
人を非難するのになぜか、薄笑いを浮かべている。
そして怒っている。
あちこちに話が飛ぶ。
私は戸惑い、麗子の興奮が収まるのを待つ。
それは収まることはない。
今は、自分は万能の女であるように感じているようだ。
「もう、今日で全部終わりにしようね」
「せいせいするよ。迷惑だったんだよね」
その怒りは突然、事業の話となる。
思考にまとまりがない。
麗子は気分が高揚して早口になる。
「全国に酸素カプセルの店を展開したいんだけど」
「エステの店なら成功の自信あるんだけど」
「美容には詳しいし」
「どう私に投資してみない?」
「男として付き合うつもりはないけど」
「ビジネスパートナーなら付き合ってあげてもいいけど」
「不動産でもいいよ。株式投資でまず資金増やそうか」
まるでジョークとしか思えない話を延々と続ける。
麗子の目はどこか焦点があっていない事が多い。
自分の知っている麗子とは別人。
手に負えない。
一体何が起きているのかわからなかった
映画や小説に出てくる多重人格者の世界。
と最初は思った。
あまりの困惑で何を話せばいいのか背筋が寒くなるのを感じた。
少し落ち着くのを待って、今日は帰ろうよと言ったが
興奮は止まらない。
別れ際に麗子は薄笑いを浮かべた。
「今日で、全部おしまい。2度と連絡して来ないでね」
「もともと付き合ってたわけじゃないけどさ」
そんな言葉を吐き出しながら
目が悲し気になっていた。
その時のことは記憶に残るらしい。
感情をコントロールできない状態となってしまう。
それを後で思い出し、絶望する。
その後、数日間
夜も全然眠れない。
頭が冴えてしょうがない。
朝まで街をうろついていた。
男に声をかけられついていった。
というような一方的な危うい内容のメールが何通も続く。
こんな状態は長く続かず、数日後にはそのエネルギーが尽きる。
深い闇の世界に沈み込んでいく。
そして躁状態ステージから鬱状態ステージへ変化していく。
私は振り回された。