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第三章 横浜

■第三章 横浜


麗子とはメールで交流を続け、

時に時間を合わせてランチをした。

私はそれでだけでも充分に楽しく

日々に潤いが生まれた。


ホテルの気取ったランチの日もあれば、

麗子が見つけてきた銀座のハンバーグ屋さんに

行ったこともあった。


麗子はいつも楽しそうに食事をした。

食事と同じで、次はどこのランチ行こうかと

麗子は楽しそうに言った。


「すごく美味しかったね」とは言っても

「ご馳走様」といようなお礼の言い方はしなかった。

麗子の楽しそうな笑顔をみれば

そんな言葉は必要なかった。


ランチに行ったある日

私が洗面所に行っている間に麗子が会計を済ませていたことがあった。


「美味しかったね」とだけ私も言った。

お礼は言わなかった。

もし、お礼を言えば麗子にも、次回から言わせてしまうような気がした。


夕方は麗子は娘を保育園へのお迎えがあったので

デートは夕方までと決まっていた。


麗子は職業柄、平日の昼間に

自由な時間を作ることができた。

私は麗子の予定優先で、会社を抜けた。

私は社長なのでルーティンはなかった。

いくらでも時間調整はできた。


最初のランチをしてから3か月目ぐらいの初夏のころだった。

麗子を横浜へデートに誘った。

その日はお互い調整して会社を休んだ。

朝からの1日のデートを計画した。

麗子は実家に娘を預け、夜まで時間を作ってくれた。


麗子は

「横浜か~。これってデートの王道だね」

と言ってとても喜んだ。


横浜で待ち合わせた。

待ち合わせ場所に歩いてくる麗子は

遠くからでもひと際、輝いていて眩しかった。


麗子も私を見つけると満面笑みで、少し小走りに近づいてきた。

白いワンピース姿は、ファッション雑誌から

飛び出してきたような華やかさがあった。


何人もが振り返って、小走りの麗子を眺めていた。

髪が少しゆれた。

際立って華やかな雰囲気が、

モデルか女優とでも思ったのかもしれない。


初夏の明るい横浜の街は健康的な香りがした。

遊覧船に乗り、元町を歩いた。

この日、私は初めて麗子と手をつないだ。


「デートって感じだね」と麗子も強く握り返してきてくれた。


時に麗子は私の腕に自分の腕を絡めたりもした。

自分の腕に麗子の体の一部が触れた。

今までで一番麗子に近づいたと感じた。


麗子の髪の香りが私の鼻腔を刺激した。

清潔な石鹸のような香りがした。


横浜の異国情緒ある街並みが気持ちをさらに高揚させた。


予約しておいたホテルでランチをした。

横浜港が一望できた。

「すごく美味しい。いいお店だね。眺めも最高」

と麗子は楽しそううな表情をした。

「昼間からワイン、贅沢だよね」


食事が済んだあと、

「デイユースで部屋も予約してあるんだ」

「夏の午後は日差しも強いしは熱いよね」

「少し休んでから涼しい夕方から横浜を散策したらと思って」

言い訳をたくさんして麗子を誘った。


麗子は微笑んでうなずいた。

驚いたような表情はしなかった。

何も言わずに黙ってついてきてくれた。


初めて二人で部屋に入った。

明るく反射している横浜の海が眩しかった。

窓際に二人で並んで港を眺めた。

ベイブリッジが遠くに見えた。


食事中はあんなに楽しく会話できたのに

部屋ではお互い無言になってしまった。


私はどう切り出せばいいか困惑していた。

今、麗子とホテルの部屋にいる。

傍らにはベッドがある。

これは非日常の極致だと思った。


そんな雰囲気を和ませようとしてくれたのは麗子だった。


「卓也さんは規則正しい生活だよね」麗子は明るい笑顔でいった

「別にそんなこともないけどな~」

「だって毎日夜の11時に決まったようにメール書いてくれるよね」

「よくもあんな長いメール、毎日書いてくれたね」

「すごいよ、文才あるよ」


「思いつきだから中身なし、読むの大変だよね」


「パソコンを見るのが毎日楽しみだったよ」

それは初めての麗子の私への好意の表現のように思った。


私は麗子の横顔を見た。

麗子は窓から海を眺めていた。

そっと私の肩に頭を近づけてきた。


私は一瞬、硬直し全神経を肩に集中させた。

私は少し震えるような感覚をもちながら、

麗子に顔を近づけ、そっとキスをした。

まるで中学生のように触れるか触れないかの感じだった。

そのとき麗子は目を閉じていた。


私は麗子の方を向き、肩に手をかけてもう一度キスをした。

麗子は手も体もほとんど動かさずにいた。

キスをしたままで時間が過ぎた。


遠くで汽笛の音が聞こえた。


きっかがつかめないでいることを察したのか

「先にシャワーしてきて。ここまで来ちゃったんだし」

麗子は優しい明るい笑顔でいった。

また、麗子に気を遣わせてしまったと思った。


「そうするね」と言って

はやる心を落ち着かせながら、

私はゆっくりな動きでバスルームへ向かった。

心臓の鼓動は強まった。


私はシャワーを済ませた。

港の見える窓のカーテンを引き、照明を落とした。

麗子のシャワーの音を聞きながら、私はベッドに横になった。

これからのことで心臓が高鳴った。


今まで何人かと関係を持ったが、

こんな気持ちになったことはなかった。


麗子はシャワーから出てベッドの横に立って

「私は、ベッドのどっち側にいけばいいかのかな~」と笑った。

「あの、私、すごい久しぶりなんだよね」

「やり方忘れちゃってるかもね」

私の緊張をほぐすようなお茶目さだった。

優しい女だと思った。


これからすることは、明るい楽しい自然なことなんだよと

麗子に教えられているようだった。

確かに健康な男女が好意を持ったら

この関係は自然なことだと思った。


後で聞いたことだけれど、私が手慣れた態度ではなく

あまりに緊張している姿に麗子は

とても好感を持ったと言ってくれた。

麗子自身も本当はとても緊張していたが、

私の緊張が可笑しくて逆にリラックスできたらしい。


ベッドの中で目を閉じている麗子の顔は

整っていて上品で知的で美しかった。

私は麗子にキスをした。

麗子は目を開けて私を見た。

その目は優しく微笑んでいた。

すべてを受け入れている目をしていた。

ただ、何も言わなかった。


タオル地のガウンの下に白い下着をつけていた。

下着モデルのような美しいバランスの体で戸惑った。

肌は輝くような透明感あふれる白さだった。


私は自分のガウンを取りそして麗子を強く抱きしめた。

麗子の温かい肌の感触を全身に感じた。


「麗子さんと、こうしたかったんだ」

麗子の耳元でささやいた。

「私も」と小さな声が聞こえた。

「今日は誘ってくれて、部屋も用意してくれて嬉しかった」


それを聞いてから、心の底から優しい気持ちで麗子にキスをした。

麗子は自分から少し舌を絡ませてきた。

私は強く舌を絡ませ、激しくキスをした。

麗子は私の背中の手に力を入れて体を密着させてきた。


「胸に触れてもいい?」と聞いた。

麗子は私の目を見ながら小さくうなずいた。

その目はどこか遠いところを眺めているように感じた。

知性が溢れていて何もかもお見通しのような目をしていた。


胸から下着を取り、そこからあらわれた胸は

とても綺麗な形をしていいた。

理想的なバランスの良い上品な大きさだった。

細い体に比較すると豊かだった。

その先端に優しく触れた瞬間、麗子の全身に鳥肌が立ち、

小さな吐息が漏れた。


洋服の上からでもその美しいスタイルはわかっていた。

実際に見るとまるで、西洋美術の彫刻のように美しい体だった。


清楚で聡明で、言葉使いも知的な麗子しか知らなかったが、

ベッドの上では別人のように激しく反応し声をだした。


美しい声だった。


麗子は強く私の背中を抱いた。

そして私に激しくキスを求めた。

夢中で求め合っていた。


麗子の中に入ると

麗子は大きく頭をのけぞらして、

さらに大きな声をだした。


麗子は能面のような表情になっていった。

麗子は最高潮に達しそうだという意味の言葉を発した。

私もその最高の時間に近づいた。


最後の激しい動きを続けて、そしてその瞬間を迎えた。

その瞬間、麗子は今までにないような大きな声をだした。


麗子は全身を硬直させて痙攣しながら

私にしがみついてきた。

お互いが相手の体を強く抱きしめ

至福の時間を一緒に共有した。


終わったあと麗子とベッドの上で

心地よい余韻の時間を過ごした。


麗子は自分の脚を私の脚からませて、

私の肩あたりに顔を寄せていた。


私は麗子の艶やかな髪と頭を優しく撫ぜた。

しばらくお互い無言でいた。


麗子はガウンで自分の体は隠すことを望んだ。

その恥じらいの態度が上品な女に感じた。


「ちょっと恥ずかしいよ」

麗子は私の目を見ずに言った


「なにが~?」麗子に聞いた。


「なんか、こういうの慣れた女みたいでさ」


「そんな風に全然、思わないよ」と答えた。


「卓也さんよりはベテランかもよ」

「私は悪い女なんだよ」と言って笑った。


「卓也さん、私をよく部屋に誘えたよね。根性あるね、見直したよ」


「それに・・・・卓也さんは、最初緊張してたみたいだけど、途中から変身したよね」

「キャラにないようなエッチなことするし」

「若者みたいに激しいし」

いたずらっ子のような表情をして、

絡めた脚で私の脚を押した。


「そんな感想言わないで欲しいな、こっちが恥ずかしいよ」と抗議した。


「褒めてるのにな~」


「今度から私のこと麗子って呼び捨てにしてね」

「麗子さんじゃダメだよ」と言った。

「だって、あの瞬間も麗子さんって」

「変だよ~。卓也さんは私より一回り年上なのに」


「それにいつまでも丁寧語だし」

「時々敬語つかったりするし、それ疲れるんだよ」とわざと怖い顔した。


「敬意を持って接してるんだよ」

「それに麗子さんっていう感じなんだよね~」と私は答えた。


「そんな清楚系じゃないよ私は。卓也さんは勘違いし過ぎ」

「あんまり買いかぶらないでね」

「私は、素直じゃないし」

「私は、あまのじゃくなんだから気を付けた方がいいよ」

「いつか失望するよ」


「私、卓也さんの無駄に長~いメール楽しみだったよ」

「卓也さんの人柄がわかったし。いつも一人で大笑いしていた」

「なんだか癒されるんだよね」


「無駄にって・・・・」可笑しくて苦笑いした。


「私のこと大好きだって事は最初からバレバレなのに」

「そのことは避けて真面目にいろんな話を書いてくれた」

「直接的な表現は絶対しなかったね。卓也さんは品があるよ」


「私、税理士だから中小企業の社長さんに結構モテて、露骨に誘われるんだよね」

「ほら、私いい女だしね。世の中、品のない男が多いよ」

「全部軽く流して、仕事だから我慢してるけどね」

「セクハラ社長が多い」

「ホステスじゃないんだって」と漫才のようにツッコミをしていた。


「卓也さんとこんなことになっちゃったけど、これって不倫だよね」

「私、結婚してから初めてだよ。卓也さんは?」


「ちょっとはあったかも・・・・」私は正直に言った。


「へ~すごいね。やるじゃん」

「卓也さん誠実ぽいから意外とモテるかもね」

「メールも話し方も堅いけどね。それがいいんだよ」

と笑って過去のことは何も聞いてこなかった。


「誠実ぽいって・・・・。軽くディスってるね」


「まあ、いい意味だよ」

「だけど、私をよく誘えたよね。私はツンとして近寄り難い女でしょ」

「卓也さんは真面目そうで謙虚そうで、意外と自信家なんだね」


「いや~そんなことないよ」


「こういう付き合いはお互い、ほどほどにしないとね」

「のめり込んだらおしまい」

少し憂いを帯びているような表情に感じた。


「あと、今度から私としたくなったらラブホでいいんだよ」

「こんなデートの手続きしなくてもね」

「ラブホは嫌というほど清楚系でもないんだからさ」


「いつも仮面を被って演じてるんだよ」

「清楚な淑女をね」

「騙されないように気を付けてね」


「卓也さん,騙されやすいよ」


「あと、ご家族に絶対にバレないようにね」

「これは不倫なんだからね」


麗子は気遣いの女なんだと感じた。

関係を重くしないように気遣ってるなと思った。

私の負担を軽くしようとしたんだろうと思う。


そのあと麗子には2度求めた。麗子は拒まなかった。


麗子との時間はあっという間に過ぎた。

夕方にになりお腹が空いたねという話になり、

ホテルを出て中華街に向かった。


「中華街はお客が多くて、汚そうなところが美味しいんだよ」

と言って麗子は庶民的な感じの店を選んだ。


「ハードな運動の後は、食事が美味しいね。」

と言ってたくさん食べた。


「運動って・・・・」

私はユーモアのある麗子をますます好ましく感じた。


食事の後は、港の見える丘公園のベンチに座った。

横浜港の夜景を見ながら若者と同じようにキスをした。

ソフトなキスだった。

それが新鮮で、幸福感に満たされた。


「少し中華の香りがするね」

と言って麗子はお茶目に笑った。


これはまさにデートの王道だと思った。


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