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第十一章 別れそして出発

■第十一章 別れそして出発


退院して数ヶ月後、麗子の誕生日を祝うことにした。


待ち合わせのホテルのレストランについた。

受付に向かうと受付の女性が意味深に微笑んでいた。

予約を告げると、やっぱりという表情をした。

「お連れ様は、後ろでもうお待ちですよ」とニコリとした。


私は振り返った。

麗子はホテルのソファに座り手を振っていた。


「気が付いてるなら声かけてくれたらいいのに」と私は文句を言った。

「ちょっと眺めてたんだよ。いい男なんで」

「え~」

「久しぶり、元気そうだね」と麗子はニコリとした。


「いつもだけど、麗子はオシャレでキレイだな~」

「後ろ側も見せて」と私は麗子の後ろ姿を見た。


麗子は嬉しそうな表情をして体を一周させた。


今日の日のために準備してくれたんだなと嬉しかった。


光沢のある白い「ドレス」と表現するのが

ふさわしい服を着ていた。

どこで売ってるの?と思うようなオシャレな服だった。

麗子じゃないと絶対に着こなせない。


鮮やかなスカーフそしてヒール。

メイクも髪も念入り。


背が高くスタイルが良いので、

まるでモデルか女優?という感じ。


ホテルの受付さんが

そんな華やな麗子の相手はどんな男かと

興味を持ったのかもしれない。

それであの時の反応だったんだと思った。


ちょっと前に自死を図ったなんて誰も思わない。


麗子と私をお似合いの二人と感じたのか、

あるいは不倫カップルと思ったのかもしれない。

受付の女性は、満面の笑顔でテーブルに案内してくれた。


3年ぶりの再会を祝してシャンペンで乾杯した。


「病院で会ったから3カ月ぶりだよ」と麗子は訂正した。


一緒に行った横浜のこと、鎌倉のこと、TDSのこと。

原宿のこと、お台場のこと、銀座のこと。

はじめて出会ったときのこと。

偶然再会してランチしたときのこと。

メールに書いたこと。


話題が次から次へ出て来て

話がどんどん盛り上がった。


何年も前の些細なことを、麗子は全部覚えていた。

私も、全部覚えていた。


麗子は表情豊かで知的で

私の知っている本来の明るくお茶目で

気遣いの人柄そのままだった。


楽しかったことだけ話した。

麗子はとても楽しそうに笑っていた。


こんな時間は、もうこれが最後かもしれない

とお互い心の奥底では感じていた。

感じてはいたけど、そういうことは言葉にしなかった。


お店の人が私達の仲の良さを微笑ましく思ったのか

誕生日のケーキと一緒に写真を撮ってくれた。


二人ともとてもいい笑顔で最高の写真だった。

楽しい時間はあっという間に過ぎた。


麗子は笑顔で普通に

「美味しかったよ」

「ご馳走してくれて、ありがとう」

「じゃ〜またね」

と言った。


また来週も逢うかのような言い方。

いつも言わない、

「ありがとう」ということばを使っていた。


私は麗子の手に触れた。

キレイにネイルされている手は細かった。


「楽しかったね・・・」

と麗子は言って手を握り返してきた。

そしてじっと私の目を見つめた。

今日のことなのか、今までのことなのかわからなかった。


キレイな目をした女性だと思った。

遠い存在になってしまったように感じた。

それが、麗子から聞いた最後の言葉になった。


私は駅に向かう麗子が、見えなくなるまで後ろ姿を見ていた。

麗子は一度だけ振り返った。少し微笑んだように見えた。


その綺麗なスタイルの良い後ろ姿が、

麗子を見た最後になった。


その後、麗子から何度かメールが来た。

「知り合ってから、付き合った男は卓也さんだけ」

「他の男の話は全部作り話」

「卓也さんのこと、ずっと好きだったからね」

「ウソじゃないからね」

と書いてあった。


「ただ、ウソもついたよ」

「初めて出会った時の印象を聞かれたよね」


「私はスーツが素敵だったけど・・・」

「最初は好きなタイプじゃなかったって・・・言ったよね」


「スーツがカッコよかったのホント。他の社長さんとは全然違ってた」

「でもそれはスーツじゃなくて、卓也さんのスーツ姿が素敵だった」


「好きなタイプじゃなかったって言ったのは・・・・完全な大ウソ」

「私は素直じゃない、あまのじゃくだから、ごめんね」


「2回目に銀行で偶然に再会したよね」

「本当はね、卓也さんを見つけたのは私の方が先だったんだよ」

「卓也さんが気が付くように、わざと近くで大きい声だしたんだよ」


「卓也さんは私のハニートラップ?に見事にかかったね」


「卓也さんが声かけてくれなかったら、私が声かけてたよ。きっと」


今まで麗子から好きと言われた事は一度もなかった。

別れてからそんなこと言うなんて麗子らしいと思った。


「私は、いい女だから顧問先の社長とか言い寄る男は、たくさんいたけど、

全部振ってきたのは本当だからね」


「口で言う代わりに、ベッドの上では卓也さんにすご~く尽くしたでしょ」

「だからわかってたよね、私の気持ち」

とお茶目さは健在だった。


「たまには顔を見たいな」と何度目かのメール返信で書いたことがあった。

しばらくして返事があった。

「卓也さんとはもう、逢わないよ」


「ちょっとならいいんじゃないの?」

「同窓会みたいなもんだよ」私は返信した。


「同窓会か~。それならいいかと思ったけど」

「でもやっぱりダメ。だって逢ったらしたくなっちゃうし」


「また好きになったら、卓也さんが困るでしょう」

と困った顔の絵文字と一緒に返信がされてきた。


これで本当に別れたんだなと思った。

もう、お互い相手に依存することから卒業しんだと思った。


年下のご主人とも自殺騒ぎで距離が近づいたらしい。

感情障害の方も、病院にもキチンと通い

薬でコントロールできるよう頑張る事も書いていた。


上手く寛解することを心から望んでいる。

克服している人も沢山いる。


今は全くお互い連絡はしていない。


麗子の税理士事務所のホームページに

麗子の顔と略歴が出ている。

名前が載ったままだと元気なんだ〜とホッとする。


疲れた時にふっと麗子を思い出しす。

そして自然と苦笑いをする。

知らない人には不気味かも。


普段は、全く忘れている。

いつまでも引きずっているというのとは違う。


男は昔のことを別名で保存するが、

女は上書き保存するそうだ。

麗子は上書きして私のことはもう、忘れてるだろうと思う。


麗子の誕生日は7月だった。

夏になると麗子の記憶が少し蘇る。

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