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偏見的短編集  作者: 迫る騎士シカマル
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濡れ女

 雨女がいるのかは、ここではさしたる問題ではない。仮にそのような存在がいたとしても、私が現在抱える状況を知れば、同情をされるに違いないことは明確だ。

 「私は曲がりなりにも天変地異を司る力を宿しているのに、あなたといったら」なんて具合に。ああ、考えるだけで腹正しいので、可及的速やかなる問題解決を図ることにする。


 自宅で今日あったことを振り返る。最近は弟子入り試験の勉学に励んでいたため、少なくとも病気的な類ではないことは確かであると思う。それは、突然の出来事であった。まるで、天災。私にはどうすることもできない壮大な何かによって、二本の糸を無理やり結び付けられたのだ。


 試験が合格であるという旨が伝えられ、有頂天になる私。この喜びを表現する方法を持ち合わせていなかった。どうしたものか。このまま放出しなければ、どこからか針でもさされた拍子に爆発してしまう。産み落とされて初めての感情に混乱する。そこで私は、スキップ(片足で二本ずつ交互に跳ぶ行為である)をした。


 やはりここしかない。スキップをしたこと以外でいつもと違うことをした記憶は考える限りではない。家が惨事にならないようにするべく、外に繰り出して実践をする。


 スキップ、スキップ、ランランラン。愉快に鼻歌なんてしていたので、水が鼻に入り込み、全力でむせ返る。むせ返ったところまで完全再現する必要はなかったが、予想通りの結果である。


 全身、大雨に打たれたと言わんばかりのずぶ濡れよう。体内から水があふれ出ているのだ。お天道様が何らかの天罰として雨を降り注いでいるのであれば、頭をを中心に濡れるはず。そうでないことを再び理解し、乾くまで茫然とそこで過ごすことにした。


 スキップすると濡れるという摩訶不思議な体になっていることを聞くには、お師匠様しかいないと考え、向かう。そうしたところ、なんとお師匠様の家が燃えてるではないか。


 中には呻き声らしきものがかすかに聞こえる。きっとお師匠様に違いない。あいにく天は青空であり、雨などとは縁を持つ気はないらしい。


 しぶしぶ、己に宿されし水生成の術を使う。家の周りを幾重もスキップする。途中、遮二無二に雨乞いをするものたちに睨まれるが、そんなことは構わない。祈るだけしかできない者たちとの差をお師匠様に示すよい機会とまで思考を巡らせたところで、水は家を囲んだ。


 それをわが手柄とばかりに騒ぎ立てる者どもは、手や足やを使い鎮火作業に取り掛かる。私はスキップをしながらいまだ燃え盛る家へと足を向ける。


 最初からこうしておけばよかったと今になって後悔しているが、お師匠様が呻きながらも無事であったので、結果として大きな問題ではない。


 「すまぬな、貴君よ」

 「いえ、お師匠様」

 「ところでそなたの力は一体」

 「どうやら、水を生成する術のようです」


 実際は、スキップをすると体から水があふれ出る格好の悪いものだが。それでも、お師匠様は私の力を非常に褒め、褒美なんかももらってしまった。


 帰り際、「お主なら、この世に潤沢な水をもたらしめよう」との言葉を頂いた。乾ききったこの世に潤いを与えられる存在とのこと。いささか信じられなかったが、まあ特段やることもないので、あてもなくスキップすることにした。


 

 何年も何年もスキップをした後、世界にはふんだんに水が。しかし一つだけ問題も。それは、スキップをする彼女自身の汗も交じってしまっているため、いささか塩辛くなってしまったことである。





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