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Q7 もし、自分の部屋にカメラが仕込んであったら?

 加奈からパソコンを教わった後、亘宏は早速パソコンでネットサーフィンをやる事にした。

 検索するものは、もちろん決まっている。先程、加奈から「程々にしてください」と釘を刺されて恥ずかしい思いをしたとはいえ、「見ないでください」とまでは言わなかった。それなら、見る事自体は問題無いとこじつけて、亘宏はブラウザを開いた。

 まず、検索欄に「美少女 エロ画像」というキーワードを入力して、検索ボタンを押すと、画面に検索結果がズラッと並んだ。

 亘宏は目の前に飛び込んで来た美少女の姿に興奮し、すぐさまティッシュを出して、モノを包みこんだ。

 画面が大きくなった分、絵が見やすくなっているし細かいタッチも鮮明に描かれている。亘宏はそれを見る度に絶頂を味わい、いつしか自身の周辺は丸めたティッシュで散らかっていた。

 その時である。ティッシュが無くなってしまったのである。仕方ないのでティッシュボクスを開けて空き箱を捨てて使用人に新しいティッシュを持って来てもらおうと考えながら、空き箱を潰そうとした時である。

 白くてハイソな雰囲気に包まれたティッシュボックスの皮革に縫われた会社のロゴマークに、ごくごく小さな穴が開いているのが見えた。そして、その向こう側から何か黒く光っている様な気がした。そこを指で軽く突いてみると、他の箇所よりも若干固さがあった。怪しいと思った亘宏は、そのロゴマークを指で剥がした。

 きっちりと縫われていたので、手間取ったが、ロゴマークの下には黒くて小さな立方体があった。更に、前方にレンズが埋め込まれていたのである。隠しカメラだ。

 こんな所にカメラが仕込まれているとは思わなかった。

 もしや、先程加奈が言っていたDVDの様に、自分の私生活が誰かに覗き見されているのではないか、隠しカメラの向こう側で自分を観察している人物がいるのではないかと思った。そうだとしたら、何とかしないといけない。


「すみません、加奈さんはいらっしゃいませんか?」

 亘宏は加奈の名前を呼んだが、返事はしない。台所、風呂場、客室、寝室と色々な部屋を探し回ったが、加奈の姿は全く見当たらなかった。他の使用人に尋ねても、存じないと返されるだけだった。一体、彼女はどこにいるのだろうか。

 加奈を探し回っていると、倉庫付近に地下に通じる階段を見つけた。屋敷中を探し回っても見つからなかったのだから、残るのはこの地下階だけである。

 初日に木水から地下階に通じる階段には立ち入ってはいけないと言われているけど、使用人を探すくらいなら、別に入っても問題無いだろう。そう思って、階段に踏み入れようとした。

「亘宏様、どちらに行かれるのですか?」

 後ろから声がしたので振り返ると、そこにいたのは執事の木水だった。

「あぁ、木水さん。加奈さんがどこに行ったか、知りませんか?」

「あぁ、鳴海さんでしたら、現在外で洗濯をしておりますが、彼女に何か御用でもあるのでしょうか?」

「えっと……部屋にこんな物が出て来たので、ちょっと尋ねたいと思いまして……」

 亘宏はズボンのポケットから黒くて小さな立方体――超小型カメラを木水に見せた。

 木水はそれを受け取り、目を顰めながらじっくりと観察する。

「亘宏様、これはどうやって探し当てたのですか?」

「はい。ティッシュが無くなったので交換しようと思ったら、ティッシュボックスに小さな穴を見つけたのですけど、何だか違和感があったので指で剥がしてみたらカメラがあったんです」

 それを聞いて木水は深く頷いた。そして、木水は険しい表情で告げた。

「亘宏様、どうやらあなたは誰かに狙われている様ですね」

「えぇっ?!」

 亘宏は顔面蒼白になった。

「ちょっと待ってくださいよ。何で僕が狙われなきゃいけないのですか?!」

「この家では、犯罪者から狙われる事が多いのですよ。過去に強盗や誘拐、ストーカー目的で、この家が襲われた事が何度もありました。きっと、あなたも里山家の関係者とみなされたのかもしれません」

 それを聞いて、亘宏はゾッとした。金持ちなのだから、誘拐犯や強盗に狙われやすいのは分かるが、よりによって自分が狙われるなんて。

「そ、そんな。じゃあ、どうすれば……」

「そうですね。隠しカメラを使った盗撮が目的なら、犯人が直接危害を加える恐れはありません」

 それを聞いて安堵したが、やはり気味の悪さは拭えなかった。自分の私生活を見られるのは羞恥を感じる。

「じゃあ、誰が犯人なのですか?」

「このカメラは家の私物に仕込まれたものですから、恐らく屋敷の使用人の誰かが仕込んだものなのでしょう。とにかく、そのカメラはこちらで預かっておきます」

 木水は亘宏から受け取った超小型カメラをポケットに入れて、その場を立ち去ろうとしたが、去り際に「あと、言い忘れていましたが……」と振り向きながら告げた。

「初日に申し上げましたが、地下階は関係者以外の立ち入りは禁止されています。もし、今後この様な事があった場合、すぐさまここから出て行ってもらいますので、以後お気を付けください」

 下には何があるのか気になったが、執事が冷静な口調ながらも、何だかとてつもない威圧を感じたので、それ以上は深く聞かない方が良いと直感した。なので、亘宏は「はい」と返すしかなかった。


 その日の夕食の事である。食堂で、梨華がチキンソテーを口にしながら「ところで、亘宏君」と話しかけて来た。

「木水から聞いたわよ。あなたの部屋に隠しカメラが仕込んであったんだって」

「はい。あの時は、ゾッとしましたけど、もう犯人が掴めたんですか?」

「えぇ。木水の部下達が捜査してくれたからね」

「それで、犯人は誰だったんですか?」

「木水の予想通り、私の家のフットマンが犯人だったわ。彼、仕事のストレスが溜まっていて、客室用の部屋にカメラを仕込んでいたみたい。それをパソコンに録画して部屋でこっそりと動画で見て楽しんでストレスを発散していたそうよ。あなたの他にも、以前屋敷を訪れた客の様子を盗撮していたわ」

 見た目からして、使用人の仕事は自分には到底務まらない位にハードでストレスが溜まりそうだと思っていたが、どうやらそれ以上に想像を絶するものがあると感じた。人間ストレスを溜め込むと何をやらかすか分からないものである。

「……それで、そのフットマンはどうしたのですか?」

「決まっているじゃない。今日付けで解雇して、直ちにこの家から出て行ってもらう事にしたわ。仕掛けてあったカメラや録画してあったデータも全て処分してね」

 余裕のある口調で語る梨華に、亘宏は返す言葉が無かった。

 犯人が分かって安心したし彼女が犯人に下した処分も妥当ではあるけど、目の前で優雅に食事をしながら話す女から何だか得体のしれない恐怖を感じた。

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