Q5 もし、美女と一緒にプリクラ撮影が出来たら?
「せっかくのランチなのに、嫌な思いをさせちゃって、ごめんなさいね」
「梨華さんが謝る必要は無いですよ。悪いのは、アイツらですから」
「それでも、嫌な思いはしたでしょ。SNSに顔を晒されちゃったんだし。機嫌直しに、他に何か欲しいものを買ってあげるから」
それを言われて、亘宏は再び考え込んで答えた。
「……もう、これ以上欲しいものは無いかな」
「えっ、本当に良いの?」
意外な返答だったのか、梨華は若干戸惑いを見せた。
「うん、午前中に色々な物を買ってもらって、スマホも手に入った事だし、他に欲しいと思うものは特にないな」
「じゃあ、他にやりたい事は? 例えば、映画を観るとかカラオケで思い切り歌うとか」
「映画館は入ると気分が悪くなるんですよ。カラオケも苦手ですし、親もそれには厳しかったし」
花村家では、「ウチは無駄な物や遊びにお金を使うだけの余裕は無い」「ロクな成績を出していないのに、遊んでいるのはマズイ」という理由で、映画やカラオケなどの娯楽は一切禁じられていた。
しかし、それを聞いて梨華は少し寂しそうな表情になった。
もしや、さっきの発言が原因で、梨華を傷つけてしまったのか。
「あ、あの……ご、ごめんなさい。別に梨華さんを傷つけるつもりは……」
亘宏は、予想外の反応でパニックになりつつも、どうにかお詫びの言葉を出そうとしたが、梨華が先に口を開いた。
「それなら、ゲームセンターに行くのもダメ?」
「アーケードのゲームは、ちょっと苦手で……」
「私と一緒にプリクラを撮るのも?」
その言葉に、亘宏は反応した。
プリクラは、リア充の女子高生が友人や彼氏と一緒に撮るもので、自分の様な非リア充男子を一切近寄らせないオーラがあった。
だが、梨華と一緒にプリクラを撮るなら、狭い空間の中で彼女と一緒にシールが撮れるだけではなく、画面に入る中で梨華と身体を密着させる事が出来る。かなり、ドキドキ出来るシチュエーションだ。
「そ、それなら……良いです」
亘宏は、顔を赤らめてぎこちない返事ながらも了承した。
ゲームセンターは、人気のアーケードや子供に人気のものが色々と置かれていた。
「うわー。最近のゲームセンターって、こんなに賑やかだったんだ。凄いな」
「そうだけど、最近のプリクラだって凄いわよ。肌色を良くしたり目を大きくしたりして、美化する事だって出来るんだから」
「マジで?!」
「うん、最近のプリクラも性能が上がっているからね」
だとしたら、自分のビジュアルもイケメンモデルやジャニーズアイドルみたいになれるのではないかと思った。無論、そこまでの高い性能は無いが。
早速、プリクラに入り、お金を入れるとアナウンスが流れた。
「好きなフレームを選んでね」
画面には、色々な種類のフレームが表示された。豊富な種類があって、どれにしようか迷ってしまったが、無数の桃色のハートに囲まれたフレームを選択した。
「じゃあ、どんなポーズを撮る?」
「えーっと……」
いきなり聞かれても、戸惑う。女子高生は撮影時に色々とポーズを取っているそうだけど、そう簡単には思い浮かばない。迷った末に、亘宏はぎこちない笑顔でピースサインをした。
「じゃあ、私も一緒にやるわね」
と言って、梨華は亘宏の腕を絡ませて身体を寄せた。身体が密着する上に甘い香りがして、胸が高まる。
「それじゃあ、撮影するよ。3、2、1……」
撮影音が鳴った後、画面には梨華と一緒にピースした写真が表示された。
「次は、写真に落書きをするよ」
アナウンスの声に亘宏は少し驚いた。
「えっ、落描きも出来るのですか?」
「うん。スタンプを押したり文字を書いたりする事が出来るのよ」
「へ、へぇー……」
そんな機能まで付いていたとは知らなかった。
「で、どうするの?」
「えっ? ぼ、僕はどうすれば良いのか分からないので、梨華さんが描いて下さい!」
正直、自分がやったところでせっかくのシールが台無しになりそうな気がしたからだ。
亘宏の言葉に、梨華はペンにスタンプや名前を書き込んだ。やり慣れているのか、割と可愛らしいデザインだ。
そして、数分後。遂に写真シールが出て来た。もちろん、梨華の落書きもきちんと再現されている。
ブサイクな自分が綺麗なお嬢様のツーショット写真を手に取りながら見る亘宏の手は震えていた。他の人に見せたら、合成写真と疑われてもおかしくない位だ。
「どうだった?」
「凄く嬉しいです」
亘宏は満面の笑みで答えた。
このシールは、亘宏にとって世界中のどんなブランド品よりも、ずっと価値がある思い出のものになった。
「ところで、この後はどうするの?」
「もう十分満足したよ。プリクラも撮れたし、そろそろ家に帰ろう」
「本当に、それだけで満足なの?」
梨華の意味深な言葉に、亘宏は首を傾げた。
「それだけでって……他に何かあるのですか?」
「このデパートの屋上にはホールがあるのよ」
「それがどうしたの?」
「今、ここでは最新のテレビゲームやスマホゲームが楽しめるイベントがあるのよ」
梨華はスマートフォンを操作して亘宏に画面を見せた。そこには、実際にいたら誰もが振り向くだろう二次元美少女――今話題の美少女ゲームのキャラクターのイラストがあった。
「そんなイベントまで、あるんだ……」
そんなイベントは東京ビッグサイトなど大規模なイベントホールでしか開かれないと思っていた。
「今もイベントをやっているから、体験してみない?」
梨華の誘いに、亘宏は「うん」と大きく頷いた。
その後、二人は最新ゲームフェスティバルで、色々なゲームを思う存分楽しんだのであった。