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Q2 もし、豪華な朝食が食べられたら?

 梨華に誘われる形で、今まで貧乏暮らしだった自分には不相応な位に豪華な家に住む事になってしまった事に、亘宏は未だ受け入れられずにいた。

 決して嬉しくない訳ではないが、何せ身の回りにあるものが今まで実物で見た事がないものばかりだからだ。異世界とまではいかないけど、別世界に転移した気分である。

 ベッドで重い瞼を開けて目をこすりながら、亘宏はそんな事を思っていた。しかし、目を開けて真っ先に視界に入る、天井にぶら下がったシャンデリアが、これが夢ではない事を教えてくれる。

「失礼します」

 ドアの向こうからノック音の後に、若い女性の声が聞こえた。

「あっ、はい。どうぞ」

 亘宏が返事をすると、加奈が部屋に入って来た。

「おはようございます、亘宏様。お目覚めの方は、いかがですか?」

「あぁ、凄く気分が良いよ」

「それでは、朝の身支度を済ませたら朝食がございますので、お早めに準備してください。食堂までは私がご案内します。梨華様もいらっしゃいますので、お早めに」

 そう告げると、加奈は部屋を出た。


 身支度を終えて、加奈に案内される形で食堂に入った。

「おはよう、亘宏君」

 テーブルの向こう側に座っていたのは、梨華だった。そして、彼女の隣にはコックコートを着た女性が立っていた。それを見て、彼女がこの屋敷のシェフだと理解した。

「梨華さん、おはようございます」

 亘宏は、はにかみながら礼をした。梨華に話しかけるのは、未だに緊張する。

「亘宏君は、手前の席に座って」

 梨華に言われて、加奈が引いた手前の椅子に座った。

 テーブルには今日の朝食であるスクランブルエッグとバターロール、サラダ、コーンポタージュ、紅茶があった。彩りがきれいになる様に盛り付けられており、栄養バランスもきちんと考えられている様だ。

「それじゃあ、あなた達は部屋を出て良いわよ」

「はい。では、失礼します」

 と告げると、加奈とシェフは食堂から出て行き、残ったのは亘宏と梨華の二人だけとなった。食堂が広いので、二人きりだと何だか少し寂しい気もするが、運転手がいないので自動車に乗った時以上の緊張感がある。

「あ、あの……これ、食べても良いですか?」

「うん、良いわよ」

 そう言って、麗華は先に「いただきます」と口にした後、スプーンを手に取り、スクランブルエッグをすくって口に運んだ。マナーが良くて品があるので、少し見惚れてしまっていた。

 レストランには、ほとんど行った事が無いが、それでもマナー違反にならない様、梨華の手つきを見ながら、それを真似て食事を摂る。

 梨華と二人きりで食事を摂れるのは嬉しいけど、やっぱりかなり緊張する。

「どう、お味は?」

 亘宏の緊張を察したのか、梨華が微笑みながら、感想を訊いてきた。

「あっ、お、美味しいです……」

 それを聞いて、梨華は「それは良かったわ」と喜んだ。正直、修学旅行で食べたホテルの朝食より絶品の味だったし、彼女の笑顔を見るだけで、その旨さが更に引き立つ気分だ。

「それじゃあ、紅茶も一口飲んでみたら? これ、私のお気に入りなの」

 梨華に勧められて、亘宏は野ばらをあしらったアンティークのティーカップに注がれた紅茶に目を向けた。紅茶の色は少し黒っぽくて色が濃く、芳醇な香りがする。普段、紅茶は飲まない亘宏だが、試しに一口飲んでみた。

 すると、亘宏の舌に電撃が流れる程の衝撃が走った。フルーティーな味わいでコクがあり、優しい味が口の中に広がっていくのが分かる。

「何だ、これ……凄く美味しい……」

 グルメリポーターの様な大きなリアクションや気の利いたコメントは出来ないが、ただただ感心してしまった。本当に美味しいものは、口にした人間の言葉を一時的に失わせる程の力があるのだと、この紅茶を見て思った。

 どうにか、言葉を取り戻した後、亘宏は梨華に質問した。

「これ、一体どんな紅茶なんですか?」

「あぁそれ? アッサムよ」

「あっさむ?」

 聞いた事がない名前である。

「アッサムはコクが強いけど、濃厚だから美味しいの。ミルクティーで飲む人もいるけど、私はストレートで飲む事が多いわね。しかも、これファーストフラッシュだから渋みも無いのよ」

「へ、へぇ……そうなんですか」

 紅茶に詳しくないので話についていけないが、とりあえず適当に相槌を打つ事にした。

 その時、せっかく梨華と会話出来る機会なので、亘宏は昨日から気になっていた事を質問する事にした。

「ところで、ちょっと気になった事があるのですけど」

「何かしら?」

「梨華さんの家は凄く立派ですけど、梨華さんのご両親って一体どんなお仕事をされているのですか? あと、梨華さんは、どんな仕事をされているのですか?」

 その質問に、梨華はすぐに答えた。

「ゴールデンウィングっていう会社、聴いた事あるかしら? あそこ、私のお父さんが社長を務めていて、私も今そこで働いているの」

「えぇっ?!」

 それを聞いて亘宏は思わず、椅子から転げ落ちそうになった。

 ゴールデンウィングという会社は、大手企業グループであり、CMでも度々流れているので亘宏も名前は聴いた事があった。

 ゴールデンウィングは、元々は金融業を営んでいたが、次第に業績を上げていく中で、エンタメ、介護、医療、飲食、出版、IT、ファッション、不動産、スポーツ界など幅広い分野に参入して勢力を伸ばしていき、近々社長が政界にも進出するのではないかと噂されている。それだけ勢力が大きい一流企業グループなのである。

 その社長令嬢が梨華であるとは。それなら、これだけ立派な豪邸や大勢の使用人を抱えていても、おかしくない。

 そんなお嬢様と出会えるなんて、案外世の中は狭いものなのかもしれない。

「ところで、今日はイメチェンをしてみない?」

「えっ?」

 突然のお誘いに、亘宏は耳を疑った。

「い、今なんて……い、イメチェンだなんて、そんな……」

 驚きのあまり、再び言語が崩壊しかけている亘宏に梨華は、

「だって、あんなよれよれのパジャマみたいな服にだらしない顔じゃ、カッコ悪いでしょ。だから、私がコーディネイトしてあげようと思って」

 それを言われて、亘宏は内心軽いショックを受けた。自分がブサイクである事は自覚しているが、それでもサラッと言われるのは、たとえ恩人であっても心が痛かった。

 おしゃれに関しても、お金を掛けられる程の贅沢は出来なかったのだが、やっぱりテレビに映っているイケメン俳優やアイドルが着ていた服と同じものを着たいと思った事は、数えきれない程あった。

「でも、大丈夫なんですか? 自分で言うのもなんですけど、僕、周りからブサイクだと言われてたんですよ」

 すると、梨華は笑顔で返してきた。

「大丈夫。男の人だって綺麗にすれば、見違えるから」

 それを聞いて、微かな希望が生まれた。もしかしたら、これを機にイケメンに生まれ変われるのかもしれない。しかも、今まで指をくわえてみるだけだった、あの服が着れるチャンスかもしれない。そう考えた亘宏は、答えた。

「だったら、お願いします!」

前回の投稿で二重投稿されていた様です。ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。

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