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Q16 もし、今までの出来事が全て仕組まれたものだったら?-1

 チホからのプロポーズを受け入れた翌日。亘宏はいつもの様に、目を覚ました。

 背伸びをしながら、身体を起こし、服に着替えると、 ドアの向こうからノック音が聞こえた。

 今日も、いつもの様にメイドがやって来て、梨華と一緒に朝食を食べた後、職業訓練を受ける。

 梨華や加奈からのレッスンは思った程、上手く進んでいるし、起業計画も順調だと聞いている。この調子なら、就職も大丈夫だ。

 そして、チホとの結婚に向けて準備もしなくてはならない。昨日チホからプロポーズを受けた事を話すと、皆一斉に祝福してくれた。この調子でいけば、結婚も近い。

 今までどん底の暮らしを送っていた自分が、まさかこんな大逆転をする日が来るとは思わなかった。彼女達の為にも頑張らないと。

 そんな期待を膨らませながら、返事をした。

「どうぞ」

 きっと、いつものメイドだろうと思い、亘宏は返事をした。

 ところが、ドアを開けて中に入って来たのは、眼鏡を掛けたスーツ姿のビジネスマン風の男達だった。何故玄関を通り越して、この部屋までやって来たのか全く分からないが、とてつもない威圧感を感じたので訊く勇気が出ず、亘宏はただ固唾を飲んだ。

「花村亘宏さんは、どちらですか?」

「えっ、ぼ、僕ですけど……」

 見覚えの無い冷徹な男達を眼前に亘宏は混乱しつつも、反射的に答えてしまった。

「花村様。あなたには、借金を返済してもらいます」

 身に覚えのない借金に亘宏の目は点になった。

「えぇっ、借金?! 僕はお金なんて借りていませんよ!」

 亘宏は慌てて否定したが、男達は

「実は、あなたには一千万円もの借金があるんです」

 と言って、一千万円と書かれた借用証明書を亘宏の目の前に突き付けた。

「そ、そんな! 僕は本当に、借金はしていないんです!」

 証明書にも、自分の名前のサインが書かれてあり、筆跡も自分の者だが、証明書にサインした記憶は全く無かった。

「そんな! これは何かの間違いです!」

 亘宏は納得がいかず、反論するが、

「うるせぇ! つべこべ言うんじゃねぇ!!」

 今までの落ち着いた態度から一変、突如ヤクザの如く怒鳴り、亘宏の腕を乱暴に掴み、強引に部屋から連れ出そうとした。

「梨華さん! 大変です! 金貸し屋がやって来ました!」

 亘宏は大声で梨華の名前を呼んだ。しかし、梨華はおろか使用人が駆けつける気配が全く無かった。まるで、そんな人物が最初からいなかったかの様に。

 強引に引っ張られるも、身体をバタバタと動かして抵抗する亘宏。

「うるさい奴だ! しばらく大人しくしてろ!」

 業を煮やした金貸し屋は、白いハンカチで彼の口を無理やり押させると、亘宏の意識はだんだんと遠のいていき、そのまま眠らされてしまった。


 暗闇の中、亘宏はハッと目を覚ました。

(――ここは……どこ?)

 意識を取り戻して、声を発しようとしたが、口の中に何かを咥えられている事に気付いた。口の感触からして、恐らく会話が出来ない様に口にもタオルを入れて縛り付けられていたのだ。更に、手足をロープで縛られ、しかもそのロープが棒に結ばれたされた状態で吊り下げられていた事に気付いた。おまけに、服も全て脱ぎ取られ、生まれたばかりの姿にされていた。

 一体、自分がどうしてこんな事になってしまったのか?

 亘宏は、ここに至るまでの経緯を思い出した。

 確か、身に覚えの無い借金を請求されて、屋敷から連れ出されそうになり、薬で眠らされたところまでは覚えているが、それ以降どうなったかは全く分からない。

 突然の事態に困惑していたその時、突如、どこからともなくアナウンスが流れた。

「皆さん、今回はカニバショーにお越しいただき、誠にありがとうございました」

 ステージには、黒いマスクに、ボンテージとロングブーツを着たグラマーな美女が、マイクを片手に、司会進行をしていた。

 会場内には、マスクを着けた観客が大勢いる。観客席には、ざっと五十人程度と少ない人数だが、年齢層は二十代から八十代と幅広い。しかも、客席との距離が非常に近い。このまま柵を乗り越えれば、あっという間にステージに入れる程の距離だ。

 カニバショーの意味が気になるが、カニでも出てくるのだろうか。そういえば、昔、組の金を盗んだヤクザがドラム缶に蟹を入れられて、殺されたという噂話があった事を思い出した。

 もしや、自分も、あのヤクザの様にホースから、蟹を流し込まれて、体内を浸食されて死ぬのだろうか。

「今回、皆様に召しあがってもらうのは、何と豚の丸焼き! 今回は、皆さんにこの豚の丸焼きを目の前で料理する場面をご覧になってもらい、皆様に召し上がってもらいます」

 観客席からは、盛大な歓声と拍手が鳴り響いた。

 豚肉の丸焼きとは、どういう意味なのか。もしや、豚の様に太った自分を丸焼きにしようという意味なのか。いくら何でも、それは性質の悪い冗談だ。

「さぁ、早速カニバショーを始めたいと思います!」

 亘宏の都合もお構いなしに、マスクの女性のアナウンスと共に現れたのは、薪だった。その下には淵の着いた鉄板も敷かれてあり、両脇には、柱が建てられている。

「それでは早速、この豚をお客様の目の前で焼いて見せましょう」

 アナウンスの直後、松明を持った屈強な体格の男性が入場してきた。

 男性は松明を観客に掲げると、観客席からは興奮の声が上がった。そして、男性は薪に火を点けた。

「うっ、うぅっ……」

 ジリジリと背中を熱されて、亘宏は小さな悲鳴を上げた。

「おい、悲鳴を上げる暇があるなら、さっさと勃ちな! お客様に失礼だろ!」

 女性に罵られて、亘宏は小さく頭を下げるしかなかった。しかし、どうすれば勃つのかは、全く分からなかった。自分に、被虐趣味は一切無い。

 それでも背中を炙る炎が熱く、今にも背中が火傷しそうだ。

「うーん……なかなか、火が通りませんね。それでは、もっと火を強く起こしましょう」

 今度は、ステージから竹筒を持った屈強な男性達が三人やって来た。三人は、薪の前に跪くと、筒から息を吹きかけた。すると、火が更に勢いを増していく。

「―――――――――っ!!」

 熱せられる炎に亘宏は悲鳴を上げた。それでも、火は容赦なく背中を燃やし、このままだと全身が炎に包まれて、まさに豚の丸焼きになってしまいそうである。

 自分の人生はここで終わりなのか? こんな所で無様に死んでしまうのか。亘宏は目を閉じながら、迫りくる死に恐怖した。

 その瞬間、照明から火花が散り、会場内が真っ暗になった。

「おい、どうしたんだ?」

「暗くて何も見えないぞ!」

「早く照明を点けろ!」

「そこは、火で明かりを点けろ!」

 突然の事態に、会場内は混乱した。

 スピーカーからは、「只今、照明のアクシデントがありました。今から復旧作業に入りますので、しばらくお待ちください」というアナウンスが流れた。

 亘宏も、一体何があったのか全く分からず、ただ首を左右に動かしながら、状況を判断するしかなかったが、真っ暗なので会場内は混乱している事しか分からなかった。

 その時、誰かがバサッと水を掛けて来た。熱い炎の次に冷たい水を掛けられてびしょ濡れになってしまったが、そのおかげで火も消えた。そして誰かがこちらに近付いて来て、縛っていたロープと口に撒かれたタオルを解いてくれた。そして、亘宏に服を渡し、彼の手を引っ張った。

「ちょっと、僕をどこへ連れて行くつもりなの? まだ着替えてないんだけど」

「静かにして。アイツらに気付かれるわ」

 若い女性の声が聞こえたが、肝心の顔は暗闇のせいで見えなかった。でも、声には聞き覚えがあった。自分は、一体どこへ連れて行かれるのか分からないまま、亘宏は謎の女に連れて行かれた。

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