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Q13 もし、セレブ美女達にモテたら?

あ、あの……僕をどこに連れて行くんですか?」

「ごめんね、もうすぐだから」

 そう言って、女性が扉の前なで辿り着くと、その扉を開けた。

「皆、亘宏君が来たわよー!」

 女性の呼び声と共に、亘宏の視界に飛び込んで来たのは、華やかなドレスを着た美女達だった。

 部屋は、まるでホステスクラブの如く、華やかな雰囲気で、そこにはあらゆるタイプの美女達が座っていた。人数は、ざっと六人ぐらいか。

「待ってました!」

「キャー、あなたが花村君? 可愛いわねぇー」

 美女達は、亘宏の頭を撫でたり、頬擦りをしたり、腕に抱き着いたりして、可愛がった。

 肌が密着して、女性特有の心地良い香りがしたり、腕が豊満な胸に挟まれたりして、亘宏は興奮しそうになった。

 もちろん、せっかくの会場で、下心を露にしてその場で押し倒す訳には行かないけど。

 生まれてこの方、女性に「可愛い」と言われた事なんて、一度も無かった。

 「可愛い」と言われると不快に思う男性も少なくないが、今まで外見を褒められた事が全く無かった亘宏からすれば、大勢の美女から可愛がられる事について、全く不快感は無かった。寧ろ、これが「モテる」という意味なのかと衝撃があった。

 だが、亘宏の中で疑問が生まれた。

「あ、あの皆さん。歓迎してくれるのは嬉しいんですけど、どうして僕の事を知っているのですか?」

 すると、金色のドレスを着たアップスタイルの女性が答えた。

「私達、梨華とは学生時代からの友達でね、梨華からあなたの事を聞いているのよ。あなた、面白くて良い人なんですって」

「それに画像も見せてもらったけど、結構可愛い顔だったからさー。梨華に彼を連れて来てって、お願いしてもらったの!」

 梨華が自分の事を話していたのか。本人は、そんな事は一切話していなかったのに。とはいえ、綺麗なお姉さん方からの評判は意外にも良い様だ。女性達は亘宏に色々な事を質問してきた。

「ねぇ、亘宏君。趣味は何?」

「えっと……ネットサーフィンだけど……」

「どんなサイトを見ているの?」

「うーんと、アニメや画像を見ている事が多い……かな?」

「じゃあ、好きなアニメは?」

「さ、最近は『アイドル喫茶・フェアリーズ』にハマっています……」

 緊張のあまり、たどたどしい口調になってしまって、ついオタクな趣味をつい漏らしてしまった。もしかしたら、女性達から引かれるのではないかと思った。だが、

「そうなんだー。私も最近見ているのよ。アレ、面白いわよねー」

「うん。ヒロイン達がアイドル活動と喫茶店でのアルバイトをしながら、頑張る姿。見ていて応援したくなっちゃうよねー!」

 意外にも共感してくれた。しかも、同じアニメを見ていた人がこんな所にいたなんて。話しかけづらい空気があったけど、ここに来て何だか親近感が沸いてきた。

 その後も、美女達から色々と質問され、亘宏はたじろぎながらも、答えていった。

 そんな中、美女の一人が、尋ねて来た。

「ねぇ。亘宏君は、今日はどの女の子をお持ち帰りするつもりなの?」

 その質問に、亘宏は返答に詰まってしまった。

 本当は、「梨華さん」と答えたいのだが、美女達からの熱烈なアプローチも捨てがたかった。

 女性達からこれだけ好意をアピールされるのは嬉しいが、いざお持ち帰りをしようとなると、迷ってしまう。だからと言って、全員まとめてお持ち帰りしようとするのは、かえって失礼だと思った。

 自分は、エロゲの主人公の様に複数の美女とエッチをするという芸当は出来ない。

「ねぇ、亘宏君。早く決めてよ」

 美女達は迫る様に亘宏に尋ねる。かなり積極的に迫るので、このまま押し倒されてしまいそうだったが、亘宏は口を開いた。

「ごめんなさいっ! 僕には、他に好きな人がいるので……!」

 思いも寄らぬ答えに、呆然とする美女達を置き去りにして、亘宏は一目散に逃げる形で、その場から飛び出してしまった。

 やはり、初めてを捧げるなら、本当に好きな人に捧げたい。そう思いながら、亘宏はその人の元に向かって走って行った。

 会場に戻ろうとすると、ドアに梨華がいた。彼女も先程会場を出ていた模様だ。

「あれ、どうしたの?」

 梨華が意外そうに訊いてきたが、亘宏は息を切らしながら答えた。

「……抜けてきました」

 何の躊躇もなく、キッパリと返されたのが意外だったのか、梨華は呆然とした。

「どうして抜けちゃったの。もしかして、空気が合わなかったの?」

 梨華は心配そうに尋ねるが、

「そうじゃないです。いくら綺麗な女の人達からモテたって、本当に好きな人に振り向いてもらえなかったら、全然意味が無いんです!」

「本当に好きな人って……?」

 梨華は亘宏の言葉の意味が分からず、首を傾げた。そして、亘宏は遂に思いをぶつけた。

「僕は、梨華さんの事が好きなんです!」

「えっ?」

 突然の告白に、梨華は驚いた。

「だって、落ちぶれていた僕にも優しくしてくれたし、今までこんなに酷い外見の僕が、ここまで人から親切にされた事が一度も無かったんです! 梨華さんと一緒なら僕はとても幸せになれると思うんです! 僕が梨華さんを幸せに出来るかどうかは分からないけど、それでも傍にいたいんです! だから、お願いします!」

 亘宏は、梨華に頭を下げて、手を差し出した。それだけ真剣な思いだった。

 それを聞いて、梨華は困った様な笑みを浮かべ、

「ごめんなさい」

 と、頭を下げた。

「どうしてですか? 僕の何がいけないんですか! ダメなところがあったら直しますから!」

 せっかくの告白を断られて納得がいかない亘宏は、必死に命乞いをするかの如く、理由を聞き出した。

「告白してくれるのは嬉しいけど、私には婚約者がいるから」

 それを聞いて、亘宏にショックが走った。梨華に婚約者がいたなんて。

「その人って……僕よりも好きですか……?」

「うん」

 梨華は悲しみに堪える亘宏に、梨華は正直に答えた。少し意地悪な質問にも、きちんと答えてくれたのだから、彼女の婚約者に対する思いも本物であるに違いない。

「そ、そっかぁ……そうですよねぇ……」

 仕方ないと思いつつも、視界はだんだんと霞んで見えてきた。これは、失恋したショックで涙が溢れているのではなくて、目に埃が入ったからだろう。

「ごめんなさい。何か変な事を聴いてしまって……」

「ううん。謝らなくても良いのよ。恋人として付き合う事は出来ないけど、これからも友達として付き合う事は出来るから」

 本人は落ち込む自分を慰めてくれているが、その言葉が余計辛かった

 亘宏は、黙って梨華に頭を下げると、その場を去った。その背中には、寂しさがあった。

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