Q12 もし、パーティに出席する事になったら?
セレブとなると、パーティーであらゆる人間と交流する事が多くなる。ある者は新ビジネス立ち上げの為、ある者はハイステータスな男性との結婚を実現させる為、ある者は純粋に参加者との交流を楽しむ為。色々な目的でパーティーが行われている。
パーティーとは、まさに出会いと交流の場でもあるのだ。
クリスマスや誕生日パーティーのお誘いが無かった亘宏にとって、パーティーというものは、リア充しか参加出来ないイベントであり、そんなものは非リア充の自分にとっては、まるで雲の上にでも存在する未知なる世界と思っていたのだが……。
「今日は、パーティーに行かない?」
朝、いつも通りにパンとミートソースのスパゲッティを食べている最中、梨華から突然口を開いた。
「ぱーてぃー?」
パーティーのお誘いに、亘宏は当初耳を疑った。
「そう。私の友達も一緒に参加しているんだけど、せっかくだからあなたも参加してみない?」
それを聞いて、亘宏は驚愕した。極度の人見知りでパーティーとは無縁の人生を送っていたが、やっぱりパーティーには、密かに憧れがあった。とはいえ、やっぱり以前のレストランでの出来事もあり、不安は拭えなかった。
「で、でも……大丈夫なんですか? 僕みたいな人間が来ちゃって」
もし、こんなところへ、見るに堪えないブサイクな底辺ニートの男がやって来たら、嘲笑の的にされるか阿鼻叫喚となるに違いない。
更に、参加者の前で赤っ恥を掻いたら、梨華にも申し訳ない。そんな地獄絵図を想像してしまった。そんな亘宏に梨華は優しく微笑んだ。
「安心して、今からおめかしするから」
すると、使用人がいっぱい現れてきて、亘宏の両腕を掴み、着替え室に連れて行った。
「それでは、まずメイク乗りを良くする為に、フェイスケアを受けてもらいます」
使用人に言われて、早速ベッドに寝かされて、顔に温かいタオルが覆われた。蒸気で蒸した温かいタオルが気持ち良い。更に、顔にクリームを塗られた。エステティシャンからのマッサージがとても気持ち良い。
次に、使用人が用意したのは、黒いタキシードスーツだった。
「次に、こちらのスーツにお着替えください」
スタイリストに言われるがまま、亘宏はスーツを着た。
「最後に、メイクをします」
そう言うと、鏡面の着いたデスクの前に座らされて、顔にファンデーションを付け始めた。
そして、コーディネイト開始から一時間後、鏡の中には、立派な黒いスーツを着た男性が立っていた。この前、デパートやレストランに行った時とは雰囲気が違い、いかにもキリっとした雰囲気だった。コンプレックスの一つだった太った体型にも貫録が出ている。
「これなら、パーティーに行っても大丈夫ね」
「で、でも本当に大丈夫なのですか? 僕、こういう場所、今まで行った事がないんですけど」
不安を隠せない亘宏に、梨華は笑顔で答えた。
「大丈夫よ、すぐに慣れるから」
夜、遂にパーティーの時間がやって来た。亘宏と梨華は、会場に入った。
一歩、入った瞬間、亘宏は「うわぁー!」と、感嘆の声を上げながら、辺りを見渡した。
そこには、豪華なドレスや高級なスーツを着た数多くのセレブがいた。
医師、弁護士、実業家などエリートらしき男性、モデルや女優、ミスコン出身と思われる美女など、同じ世界に住んでいるとは思えない人間ばかりである。まさに百花繚乱という四字熟語が相応しい。
しかも、向こうには、あの大手アパレル会社・ザザタウンの前田社長までいる。彼も、実業家仲間と楽しく談話している。
彼らは、本当に梨華の友人・関係者なのかと思ったが、梨華も大手企業の社長を父に持つお嬢様なのだから、これだけ凄いコネを持っていても不思議ではない。
そんな事を思っているうちに、パーティーの主催者と思しき中年男性がやって来た。
「皆さん、今日はお忙しい中、我が家のホームパーティーにご来場していただき、ありがとうございました。今日も、皆さんで楽しくゆっくりと食事をしながらお話をしましょう」
男性が手短に挨拶を済ませると、来場客達は、楽しそうに食事を始めた。
テーブルの上には、パン、サラダ、鮭のムニエル、ローストビーフ、エビフライなど、ビュッフェ式で豪華な料理が置かれている。どれも美味しそうで、涎が出そうだ。
「こ、これ、全部食べても良いんですか?」
亘宏は梨華に尋ねた。
「良いわよ」
「それなら、僕と一緒に……」
と、亘宏が梨華を食事に誘おうとするが、すかさず
「それじゃあ、私は向こうで友達とお話ししてくるから」
と、亘宏を置いて、その場を去ってしまった。
亘宏は、慌てて梨華を追いかけるが、彼女はあっという間に人込みの中に溶け込んで行き、どこに行ったのか分からなくなってしまった。
友達って、一体誰なんだ。多分、女性だと思うけど万一男性だったら、どうしよう。もし、他の男性が梨華に話しかけてきて、そのまま付き合ってしまったら……そう思うと、亘宏は不安で仕方なかった。
一人残された亘宏は、どうすれば良いのか全く分からず、ただ右往左往するばかりだった。そこへ一人の女性が近付いて来た。
「ねぇ、あなたもしかして、花村亘宏君?」
話し掛けて来たのは、赤いロングドレスと長く艶のある茶髪に付けられた紅いバラの髪飾り、そして笑った時に見える白い歯が印象的な若い女性だった。
「あっ、そうですけど……」
突然の挨拶に、亘宏は軽く会釈した。すると、女性は嬉々としながら話し掛けて来た。
「ねぇ、お食事中悪いんだけどさ。向こうで、私とお話ししない?」
「えっ、良いですけど……」
突然のお誘いに戸惑いつつも、ついOKしてしまった。すると、女性は亘宏の腕を強引に引っ張り、部屋から連れ出して行った。