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3ページ目 サクラギコギコ



「ん……ここは……ゲホッゴホッ!!」


 目が覚めたのは暗く、咳き込んでしまうほどにホコリっぽい建物の中だった。


 だだっぴろい面積を埋めつくさんばかりに無数に並んだ長椅子。壁には美しいステンドグラス。そして中央には大きな祭壇。


 外が薄明るいってことは……夜明け直後ってところか?


「ここは……教会……? 俺は無事に人間界に戻ってこられたのか……うっ、ゲッホゴッホガッハゴッハ!!! ホ、ホコリが…………ゲホッ!! ゲッホゲホ!! ゲホッ……はあ…………はあ…………やっと落ち着いゲホッ!! ゲホッゴホッ!!!」



 おいちょっと家主出てこい!!



 なんなんだよこの建物! ハウスダストに愛されすぎだろ!


 そのうえクサいっ!! シマウマの汗みたいなニオイする!!


 くそっ、家主みつけたら絶対ぶん殴る……!



「家主なんていないよ」



 後ろから声が聞こえた。


 振り返ると、白いTシャツにデニムパンツという、天使とはかけ離れたカジュアルな格好に身を包んだヒメラが、長椅子に腰かけて退屈そうに足をブラブラさせていた。


 羽が生えていない。出し入れ可能なのか……。


「ここはアンタが住んでいた町のはずれにある、今は使われてない教会。なにも思い出さない? ここに来たことある……みたいな」


「うーん……ダメだな。まったく覚えがない」


「そう。ここが当分の間、私たちの活動拠点になるわ」


「はあ!? おいおいおい!! こんな寝泊まりしたくない建造物ランキング300年連続堂々一位みたいなところで暮らせっての!? イヤすぎるわ! もっと綺麗なところがいい!! こんな汚物の集会所みたいな教会、絶対にお断りだ!!」


「わがまま言わないでよ。仕方ないじゃん、ここしか都合がいい場所がなかったんだから。母さんとの連絡もここで取れるし、移怪の出現位置も、だいたいは分かるようになってるんだよ」


 祭壇に巨大な地図が浮かび上がる。これが俺の町……なのか?


 地図には教会の場所に青と緑の点が一個ずつ、同じ場所に打たれている。


「青い点が贄薙(にえな)ぎ。アンタのこと。緑の点は私たち天使。移怪(うつりけ)が現れたら赤い点が表示されるの。贄薙(にえな)ぎは他にも結構いるから、頻繁に会うと思うよ」


「青と緑が味方で、赤が敵の移怪(うつりけ)ってワケか。今のところは移怪(うつりけ)はいないんだな」


「うん。でもいつ現れるかわからないから、気は引き締めておいてね。それじゃあ、色々と準備してこっか。まずは学校に通わないとだよね」


「学校ねえ……俺は一回死んだ身だし、学校に通う必要ないんじゃねえの?」


「そう言うと思った。でもね、アンタの力を充分に発揮させるためには、学校に行くことが必要不可欠なの。アンタが気を失ってる間に転校の手続き済ませといたし、制服一式も揃えてる。今すぐにでも通えるよ」


 それはそれは、ずいぶんと用意周到なことで……。近頃の転校手続きってのはずいぶんと簡単にできるんだねぇ。


「でもさ、準備っていうと、まずはこの教会を綺麗に掃除するのが最優先じゃねえのかい?」


「そんなの学校から帰ってきたらやればいいじゃん。アンタ一人で。私は今夜は人間界のおいしいものをお腹いっぱい食べ歩きに出掛ける予定だから」


 ここまでシンデレラに感情移入できたの初めてだ。


「つーか、学校に行くと俺の力が発揮されるってのはどういうことだ?」


「じゃあさっさと着替えて。アンタの予想通り今は夜明け直後。学校が始まるのはだいたい3時間後だから、急がなくちゃだめだよ」


 人の話は聞かなくちゃだめだよ。


「なんかノドがイガイガするから今日は休みてえんだがな」


「そんな痛み、学校行って一つ一つの問題の答えを全力で考えながら授業受けてたらいつの間にか気にならなくなってるよ」


 なにその修行僧みたいな治療法。




 紺色の学ランに身を包み、教会から足取り重く出てくると、温かな風が体を突き抜けた。空気がうめえ……。


 山道をしばらく歩くと、満開の桜の木が両側にズラリと並ぶ遊歩道に出てきた。


「おおおおおおお!! こりゃすげえっ! 桜の花吹雪を通り抜けながら登校なんてゼータクだな!めちゃくちゃキレイじゃん!ヒメラもそう思うだろ?」


「……なんかヒラヒラしててウザい」


「脳の中の風情を感じるパーツ産道に落としてきたのかてめえ」


 つーか何でついてきてるのこの人?


「私も…………その、ガッコー? っていうのに興味があったの。行ってもいいでしょ?」


 さっき何回も普通に『学校』って言えてたじゃん。なんで今さら初々しさ出すの?


「お前よぉ、そんな私服ど真ん中ストレートな格好で校門を潜れるわけねえだろ? ヤンキーさんだってちゃんと学ラン着て悪さしてるんだぞ? それに、今から俺が行くのは高校なの、こーこー。お前みたいな絶壁ちゃん連れていったって高校生に見えるわけないだろ?」


「むっ…………み、見えるし。女がみんな巨乳ってわけじゃないし。それにほら、ちゃんと制服も用意してあるもん」


 おっ、頬を膨らませて怒ってる。初めて見るリアクションだ。


 ヒメラは紺色のセーラー服を、ウザさてんこ盛りのドヤ顔で取り出した。じゃあ教会で着替えといたらよかったのに。


「だとしてもだ。銀髪で、名前だって日本人じゃないしさ。何より、俺と二人で同時に転校してきて、知り合いだってすぐにバレるだろうし。そこんとこどうやって説明するわけ?」


「そ、そんなの……私がアンタのお姉ちゃんってことにすればいいじゃん」


「おねえちゃんっ!? 妹ではなく!? お、おねっ、おね、おっ、おねねっ、おねねねっ、おねっね、おねえち、おね、おねえち、お、おねえちゃん!?」


「驚きすぎ……ムカつく……!」


 ヒメラが両手を伸ばし、俺の首を左右からガッチリと挟んだかと思えば、手刀二本をノコギリのように動かし思い切りギコギコしてきた。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛いゴリゴリして痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いゴリゴリして痛い痛い痛い痛い痛い熱い熱い熱い摩擦が熱い熱い熱い!!! 何でそんな頭の悪いアサシンみたいな攻撃してくるの!? もっと豪快な技にすればいいのに!!」


 などという微笑ましくないやり取りをしているうちに、俺たちは学校に到着した。


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