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23ページ目 厨二告白は黒歴史のもと


 俺はクーリを抱え、間一髪で炎の直撃を回避した。


 あとちょっとズレてたら足が丸焦げになっていた。


「テメエよぉ!! あんだけ強キャラ感出しといてそりゃねえだろ!!『無気力は強い』ってジンクスどこいったんだよ!!」


 クーラーをガンガンにつけてアイス食ってたり、寒いダジャレが好きだったり、やたらと体温低かったり、なんとなくコイツの能力の予想は出来てたさ。


 これは酷いよ。


 普通に溶けたじゃん。能力の初お披露目なのにぜんぜん見せ場なく突破されたじゃん。


「いやあ、買い物サボったバチが当たりましたかね。言っときますが、相手が炎属性となるとあたしは無力ですよ。アイスの棒の方がまだ戦力として役に立ちます」


 さっきの『大ハズレ』と書かれた棒をヒラヒラと動かしながら、クーリは自慢気に喋り続ける。何で大事そうに持ってるのそれ?


 そんなに相性って重要なんだ……コイツほんとに疫病神でキライ。


「くそっ、もう破れかぶれだ!!」


 精神を集中させて念を込め、例の刀を取り出して、とりあえずそれっぽく構えてみせる。


 黒歴史パワーがないから、本当にただの刃物でしかない。


 こんなのがあのデカブツに通るとは思えないんだが……。


「諦めないでサカテくん! あたし……アナタのそんな弱気な顔、見たくないっ!!」


「じゃかあしいっ!! 足手まといの氷属性はかき氷にハイオクでもかけて食ってろ!!」


 自分の両手を握りしめ、少女マンガのようなキラキラした瞳で俺にエールを送ってくるクーリ。


 ぜっっってえバカにしてる。



「グオオオオオオオン!!」



 またしても塊食の叫び。うるさいうるさい。


 大きく一歩踏み出し、俺に距離を詰めてくる。


 そのまま鋭い爪をこさえた右手を振りかぶり、ニヤリと笑った。


「冗談じゃねえ!! そんなもんで切り裂かれたら即死だ!!」


「切り裂かれサカテ…………キリサカテ…………アリですね」


「ねえよ!! 俺が死んだあとのアダ名を事前に決めとくのやめろ!!」


 軌道をしっかり見定め、刀を精一杯握りしめて長い爪を受け止める。


 ぐおおおっとぉぉぉ!? なんだこの力すっげえ!!


 でも動きは単調で鈍重。知能も低そうだ。


 あとはどうやって倒すかだけど…………。



「母さん! しっかりしてよ母さん!!」



 聞き覚えのある女の子の声が後ろから聞こえる。


 首だけを動かして確認すると、ミオン…………いや、さっきの少女が、倒れた女性の体を揺さぶり泣いている。


 あの人、俺の記憶の中で出てきた…………。



 俺の母さん、なのか……?



「おい、そこの嬢ちゃん……早く逃げろ…………!」


「あ、あなたはさっきのお兄さん…………あの、アタシもそうしたいんですけど、母さんが頭を打って、気を失って…………!」


 さっきのパニックの時か……自分の命を優先した残酷なヤツらに突き飛ばされたんだろう。


 残酷……でもないかもな。


 緊急時には誰だって自分の命が可愛くなるもんだ。死と隣り合わせの時に他人に構ってる余裕なんてないんだろう。


「一体どうなってるんですか!? その化け物はなんなんですか!?」


「なっ…………お嬢ちゃん、移怪が見えんのか!?」


「えっ? は、はい…………うっすらとですけど……」


 はははっ、コイツもか。


 リネアが言ってた、霊力が高い人間には見えるって話……ホントだったんだな。



「ウガ?」



 塊食が俺から手を離して、少女に顔を向ける。


 すっげえイヤな予感。



「ちょっ…………やめろ!!」



 咄嗟に叫んだがムダなこと。


 化け物はその大きな手で、細身の少女を軽々と掴み上げた。


「きゃあああああああ!!!」


「ミオン!!」


 エリを掴まれて宙吊りになっている少女に、俺は咄嗟にそう呼び掛けていた。


 このままじゃ、アイツはあの化け物に…………。


 くそっ、黒歴史パワーがあればあんなヤツ一撃で倒せるのに!!



「う、うーん…………?」



 気を失っていた女性が起き上がった。


 顔だちから髪の毛、声に至るまで、あの記憶そのままだ。


「ひっ…………ミオン!!」


 この人には移怪は見えていないようで、宙に浮いて泣き叫んでる娘を見て腰を抜かしてしまう。


 化け物が舌なめずりをする。そのまま口を開け、少女にゆっくりと顔を近づけていく。


「いやっ……助けて……………!! 助けてぇっ!!」


 なにも出来ない無力さに絶望した。


 俺は目の前にいる少女すらも救えない。


 俺は…………。



「助けて…………兄さん!!」



 体に稲妻が落ちたような衝撃がはしる。


 見上げると、確かにその少女の目は俺の方に向いていた。


 わからない。


 混乱のあまり俺が実のアニキに見えちまったのか、さっきまで呼んでた『お兄さん』の『お』だけを言い忘れてしまったのか。


 それとも…………。


 いや、もうそんなことはどうでもいい。



 俺があの子を助けなければいけないことにゃ変わりねえ。



 俺は意識を取り戻した女性に向き直る。


「一つ聞いていいか? あんた…………あの子以外に子どもはいるか?」


「こっ、こんな時に何を……!」


「いいから答えてくれ!!」


「は、はい…………『サイタ』という高校生の息子がいますが……」


 オッケー。ぜんぶ繋がった。


 ワンダフォーな作戦、ひらめいちゃった。


「頼みがある。あんたが知ってるソイツの恥ずかしいエピソード…………『黒歴史』を言ってくれ。できるだけキツくて、共感性羞恥がえげつないやつ」


「えっ、えっと、えっと……………」


「急いでくれ!! あの子の命がかかってんだ!!」


 女性は頭を抱えて必死に考えている。


 くそっ、やっぱり知らないか!


 中二病のやつは親に自分の恥が知れ渡るのを何よりも嫌う!


 この人がアイツの…………『俺』の黒歴史を知ってる可能性は極めて低



「ちゅ…………中学校の卒業式のとき、ずっと好きだった女の子に『貴様は我に罪深き魔法をかけた。永劫解けることのない、最強の魅了魔法をな』って真顔で言ったら、光の速度でフラれたことくらいかしら」



「やめろゴラあああああああああああああああ!!!」



 体が強烈な光に包まれる。


 刀が熱を帯びる。


 全身が焼けるように熱い。



「ちなみにその子とは今も同じ高校に通っているけど、会話するどころか視線も合わせてくれないらしいわ」



「やめろって言ってんだろうが追い討ちしてんじゃねえええええ!!」



 さすが母親。


 死ぬほど恥ずかしいエピソードを当然のように引っ張り出してきやがった。


 うがあああああ死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい殺してくれ殺してくれ殺してくれ!!


 なにが『最強の魅了魔法をな』だよ!! ぶちのめすぞ!!



「うおおおおおおおおおおおおおおおおらあああああああ!!!」



 十秒クッキング。


 まず男の耳に黒歴史を注ぎ入れます。


 顔を強火にして恥ずかしさに苦悶させます。



 体が白い光に覆われたら、黒い炎のできあがり。



 この前よりも巨大化しているような気がする。


 濃厚な黒歴史ほど力が増すってか。


「ウブハハハハ!! 馬鹿メ! オレサマモ炎を使エルッテコトヲ忘レタカ!?」


「流暢に喋れんのかよテメエ!!『ウガ?』とか言ってたくせに!! へへっ……確かに、同じ『炎属性』と『炎属性』の戦いじゃあそっちに分があるかもな…………だが!!」



「こっちが氷と炎を合わせて『水属性』にしちゃったら、はてさてアナタはどうなるでしょうか?」



 クーリが天高くに飛び上がり、塊食の遥か上空に移動する。


 一瞬であんなに…………自他共に認める機動力の高さは伊達じゃねえな。


 その顔は勝利を確信しているようで、自信がパンパンに膨れ上がっている。


「ここまで良いとこナシなんだから、しっかりやれよ貧乏天使!!」



「ほいほーい…………凍鎖刃法【(おう)(せつ)(がん)】!!」



 クーリが両手を頭上に掲げ、隕石のような巨大な氷塊を瞬く間に生成し、塊食の背中めがけてぶん投げる。



「溶けろおおおおおおおおお!!!」



 そして、俺は黒炎をまとった刀を振り抜き、氷のカタマリを焼き払う。


 高熱で溶解した巨大な氷はあっという間に水の塊へと姿を変え、ブルドッグの背中に容赦なく降り注いだ。



「バウワアアアアアアアア!!!」



 弱点攻撃をモロに浴びたワンコロは苦しげに鳴き喚き、捕縛していた少女を乱暴に放り投げた。


 それを空中から帰還したクーリが華麗にキャッチ。完璧な流れである。


「今ですサカテくん! ロリコンの底力を見せてやりなさい!!」


「よーし、任せと…………ロリコンちゃうわ!!」


 背中の炎が鎮火した塊食は、俺の接近に気付くと素早く後ずさる。


「ヒッ…………ヒイッ!! 待ッ、待ッテクレヨ!! オレサマ、ナンニモシテネエダロ!? 一人モ殺シテネエシ、タダ電柱ヲ抜イタダケジャネエカ!! 殺サナイデクレヨ!!」


「…………なるほど、確かにそうだな」



「ジャ、ジャア! オレサマヲ見逃シテクギャアアアアアアア!!!」



 ブルドッグは喋っている最中に真っ二つに切り裂かれ、巨大な火ダルマとなって床に倒れた。


「考えが甘いんだよ短足ワンコ。人を殺したとか殺してないとかそんなもん、俺にとっちゃ関係ねえよ。俺がお前を斬る理由はただ一つ……………」


 俺は刀を肩に担ぎ、化け物に向き直った。



「俺の大事な妹に、涙を流させたからスク水」



 最悪のタイミングでアイスの効果出た!!!



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