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22ページ目 無気力無力

「はあい、とーちゃーく」


 最寄りの別のスーパーまでひとっ飛び。


 またしてもクーリの過剰なサービス精神が裏目に出まくり、俺は魂が抜けたミイラのように地面に力なく突っ伏していた。


「………………大丈夫ですか? 空中散歩があまりにも楽しすぎて、終わってしまったことに絶望してるんですか?」


「うーんうーん…………おばあの川の向こう側で、三途ちゃんが手を振ってるよぉぉぉぉ…………」


「逆です逆です。どこですかおばあの川て。誰ですか三途ちゃんて。やれやれ……ちょっとやり過ぎちゃいましたかね。テメエは情けねえなぁほんとに」


 反省するか責めるかどっちかにしてくれ。つか責めんな。


 ヒメラのド低速飛行がたまらなく愛おしい。


 あの時文句ばっかり言ってたのを土下座して謝りたい。


 もしこれが犯罪者への刑罰になるなら誰も殺人とか犯さないだろうなぁ……。


「……さっ、時間もないですし、チャチャッと済ませますよ」


 その後は特に変わった材料を買うことも、変わった人物に会うこともなく、ラーメンの具材集めは終了。


 金は全部俺が払った。クソが。


 よく考えると俺、結果的に見れば大天使にご飯おごったことになるんじゃない?


 なんだその絶妙に自慢にならない話。


「さーてと、あとは学校までひとっ飛びですね」


「テメエ次一回でもふざけた飛び方したら翼ぜんぶむしり取ってハネなし天使にするからな」


「そんなハネつき餃子みたいに……。まったく、安心しなさいな、さすがにもう大丈夫ですよ。あたしも充分にアナタをイジめるのを楽しめ…………………ゲホッゲホッゴホンゴホン!! アナタをイジめるのを楽しめたので」


「咳払いしたなら言い換えろよ。もうそれただノドの調子悪い人じゃねえか」


 クーリが俺の手を取り上昇。


 なるほど、確かに穏やかな運転だ。


 風が心地いい…………これだよこれ、俺が望んでたのは。やればできるじゃねえか。


 やっとこさ買い物が終わったし、後は学校に戻るだけだ。


 でも戻りたくねえな……全校集会終わるまで職員室で待っとけって言われたのに、普通に脱出してるわけだから。


 もしかしたら1パーセントくらいの確率で先生に怒られるかも。



 ピピピッ……ピピピッ…………。



 聞き覚えのある電子音。教室の風景が浮かぶ。


 俺とクーリは同時に全てを察知した。


「いや全てを察知したのあたしの方が早かったですから」


「いいだろ別にうるせえ団子だな。んで、敵は何だ? どこにいる?」


 街を脅かす移怪の退治に、今回はクーリとペアを組んで挑まなければならないようだ。


 まーたヒメラがスネるなこりゃ。


「幸い、敵さんは啼雲一体です。場所は…………なっ!! マジかよ…………!!」


 クーリが小型の機械を力強く握り締める。


「どうした? やべぇのか?」


「落ち着いて聞いてください。場所は………………一軒目のスーパー付近なのですだよますっ!! オンギャアアアアアアアアアアア!!!」


「お前が落ち着けっ!! 冗談じゃねえぞ、あそこにはまだアイツが……!!」


「こりゃ、なりふり構ってられないですね。全速力でいきますんで振り落とされちゃダメですよ、サカテくん!」


「あぁ、飛ばしてくれクーリ!!」


 本当に、今日もクソみたいにツイてないな。




 二度とやりたくない飛行イベントを立て続けに三回も経験してしまった。


「うえっぷ、ほんっとに吐きそう…………」


「今回はパフォーマンスなしで全力で飛行しただけですよ。アナタが『飛ばしてくれ』って言ったんでしょうに」


「わ、分かってるけどよ…………」


 なにはともあれ一軒目のスーパー前に戻ってきたわけだが、移怪はどこに……?


「サカテくん、あれあれ」


 クーリが指差した方に注目すると、遠くの方で茶色いブルドッグが地面に倒れているのが見える。


 小さな左足があらぬ方向に折れ、腹から血がダラダラと流れている。


 ピクリとも動かない。恐らくもう…………。


 思わず目を背けてしまう。


「ちょっ…………ああいうのダメなんだわ俺…………!!」


「ノラでしょうか……おそらく車にひかれたんでしょう。おいたわしや」


「確かに可哀想だけど、何で『吐きそう』って言ってる人にあんな悲惨なの見せるの? そんなに俺に嘔吐してほしいの? アホ野郎なの?」


「あら、これも聞いてませんか? 移怪にはねぇ、三種類いるんですよ。アナタはまだ啼雲としか戦ってないから分かんないでしょうけど」


 そ、そういえば屋上でヒメラが言ってたような。


 移怪は未練や怨念を持ったまま死んだヤツの成れの果てだって。


「そう。一つ目は啼雲。これは霊力の弱い人間が死ぬことで誕生する最弱の移怪です。見た目は黒いモヤモヤで、辛うじて人間の形を留めている感じですね。基本的に戦闘力は低く、特殊能力を持っていたとしても何かしらの欠陥があります」


 嫉妬おはぎや水切りブラザーズのことか。


「へい。そんで、二つ目が塊食(かいはみ)。人間以外の…………まあ、主に動物が死んだりしたらコレになりますね。怪獣ばりに巨大化して、爪や牙やらで攻撃してきます。戦闘力は啼雲と段違いです」


「……………ねえ、何で今その話をするの?」


 クーリは俺の質問に真顔で答えた。



「え? そんなもん、あのブルドッグちゃんがその塊食さんになるからに決まってるじゃないですか」



「イカれてんのか!! 何でそんな冷静なのお前!? 脳ミソ氷でできてるの!?」


「脳ミソ氷でできてません。氷でできてたら機能しません」


「分かってるわそんなもん!! どっか行けよマジレス団子!!」


 俺たちが不毛なやり取りをしている間に、ブルドッグの体がドス黒い光に包まれ見えなくなった。


 そのままどんどんどんどん、どんどんと体積を広げていく。


 こうして、儚げに倒れていたブルドッグは、体長十メートルほどある二足歩行の化け物に姿を変えた。


 体が真っ赤に染まり、背中からは炎がゴウゴウと噴き出ている。


 ダルンとした顔はそのままに、口からはツララのような牙が二本。その目は完全に正気を失い、白目を剥いている。


 前足には空をも切り裂くような鋭利なツメが搭載されており、正直もう色々とチビりそうなくらい怖い。


 体温が上がる。ノドが渇く。汗が滲む。


 参った、なんてプレッシャーだよ。



 コイツが塊食…………!!



「あの体の色と背中…………なるほど、炎系の能力を持ったワンちゃんですか」


「厄介だな。周りに人やら建物がいっぱいあるってのに……。このままじゃ全部灰になっちまうぞ!!」



「熱い炎が出せるイヌ…………これがホントの『ホットドッグ』ってね」



「テメエ空気読めねえのも大概にしとけよ!! このタイミングでダジャレとか、サイコパス落語家の霊に憑依されたんか!!」


「サカテくんが熱そうだったので、小粋なシャレでクールダウンを図ったのですが…………即興だったのであまり上手くないですね。八十五点ってとこですか」


「採点あっま!! 点もらったダジャレが糖尿病になるわ!!」


 コイツさっきまですげえテンパッてたのに何なのこのマイペースさは。


 つか、さっきから『あの子』を探してるんだが、全く姿が見えねえ……。


 もう家に帰ったのか? それならいいんだが、もしまだ近くにいたりしたら……。



「グワオオオオオオオ!!」



 化け物が咆哮をあげ、近くにあった電柱を引っこ抜いた。


 うそでしょ? そんなサツマイモみたいに抜けんの?


 化け物の手に触れた電柱はたちまちを灼熱の炎を帯び、巨大なタイマツのようになってしまった。


 それを一心不乱にブンブンと振り回すワンちゃん。


 移怪が見えない街の人たちは、目の前で燃えた電柱が暴れているようにしか見えていないだろう。


 何が起こったのか分からずパニックになり、お互いを押し退け我先にと逃げていく。


「おいおいおいほんとにヤバいってこれは!! なんとかしてくれよクーリ!!」


「やーれやれ……あたしは耳噛まれた青いタヌキロボットじゃないんですからね。はあ、めんどくせえ……………仕方ないですね。ここいらでちょっくら、あたしの紹介でもしておきましょうか」


 クーリが俺の一歩前に出て、化け物と相対する。


 塊食がクーリに狙いを定め、口から赤紫色の炎を吐き出した。


「……ご存知の通り、天使ってのはオリジナルの能力を持ってましてね。ヒメラさんの能力は『天華』。植物に関係する技を使えます。リネアは『雷磨』という、雷属性の能力者ですわな」


「ああ、知ってるよ。一緒に戦ったときにイヤと言うほど見たからな」


「んでもってあたしの能力は『凍鎖(とうさ)』と言いましてね…………まあ、お察しの通り氷を操るんです。つまり」


 クーリがニヤリと口角を上げ、右手の人差し指を前に突き出した。



「凍鎖盾法…………【冷塗(ひやぬり)】」



 クーリの前方で冷気が渦巻き、瞬く間に目の前に分厚い氷の壁が出現し、俺たち二人の前に立ち塞がる。


 そして塊食が吐いた炎をガッシリ受け止めた。



 そんですぐ溶けた。



 氷の壁を難なく打ち破り、真っ直ぐに迫って来る炎を前にして、バリアーを失ったクーリは俺の方に向き直り、満面の笑みで言い放った。



「つまり…………今回の敵と相性最悪なんです。てへぺろりんちょ」



「バカタレがああああああああ!!!」




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